魔王転生記。

ちくわ天

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一章

1-10 宝物庫

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カイルの後に続き、食堂を出たアッシュは廊下の端にある転移魔法陣まで歩く。
カイルは宝物庫のある階層を聞き出すとさっさと行ってしまった。

前までは、転移術式で好きな階層まで飛べる事が出来たが今は忘れてしまった。
不便に感じるがそこまで重要では無いため後回しにしている。
(あいつ、階層を聞いたはいいが場所までは分からんだろ)
そんな事を思いつつ、魔法陣に乗る。


フォートレス迷宮第6層 宝物庫前

(絶対ここだ…)
カイルは厳かな扉の前に佇んでいる。
アッシュから階層を聞き出し、一足先に宝物庫入ろうと6層まで降りたのはいいが、入り組んだ廊下には一つも扉は無かった。
騙されたと思ったが、あの魔王様はつまらない嘘はつかないはずと考え、宝物庫を探すことにした。

壁に手を触れながら歩く。
霊体化して気づいた点がある。
それはアッシュに教えてもらった「この迷宮内は好きに動ける事」である。
迷宮の外に出るためにはアッシュと一緒でなければならない。
つまり、土に埋まっている部屋は外扱いになり、中に入ることが出来ないのである。
逆に隠し扉などはすり抜けられるため、壁を伝って歩けば隠し部屋を見つけられるのである。
(僕って天才かも…)
自画自賛しつつ、歩くが宝物庫は見つからない。
(あれ?まじで騙された?)
あの魔王様を疑いつつ、とりあえず歩く。
すると、行き止まりの道が出てきた。
(絶対、ここだ)
あからさまに怪しい。
壁を触れようとすると案の定、すり抜けた。
(案外ベタなことするなぁ…)
実際は、様々な仕掛けを解かないとここまで辿り着く事は出来ないが、そんな事は知らないカイルはニヤニヤしている。

「なんだ、ここの場所が分かったのか」
後ろから声をかけられ、ドキッとする。
「ま、まぁね。伊達に勇者やってないし」
意味の分からない返しをする。
「じゃあ、先に入らせてもらうよ」
扉に指先が触れた瞬間
バチッ!と音を立てて、カイルは吹き飛ばされる。
「~~ッ⁉︎」
驚き過ぎて声を上げる事も出来なかった。
「コアの次に重要な場所だ。結界が張ってあるのは当たり前だろう」
それは先に言って欲しかった。
とりあえず、なんとも無い事を確認して、起き上がる。
「天に召させるかと思った」
霊体ジョークを飛ばすが無視される。

アッシュは扉の前まで歩き、ネックレスを外す。
ネックレスにはリングが付いており、どうやらそれが鍵となっている様だ。
(やっぱりベタだなぁ)
カイルはそんな事を思ったが、口には出さない。

宝物庫はかつての仲間の1人「ラウラ」が設計したものである。
宝物をこよなく愛し、それと同等にベタな展開を愛する男であった。
彼曰く、「魔王を討ち滅ぼした者に褒美をやるのは道理」などと言い、鍵をアッシュに押し付けたのである。
基本的にはラウラが宝物庫の管理をしていたが、今では鍵を持つアッシュが担当している。

扉の中央にある小さな窪みに指輪をはめる。
すると窪みを中心に幾何学的な模様が浮かび上がり、左右に開かれる。

中から出てきたのは目に眩むほどの財宝で、金貨や宝石、王冠などが床に所狭しと敷き詰められている。
まさに財宝の山である。

カイルは目を輝かし、いそいそと近づいていく。
「そっちじゃない」
アッシュは財宝には見向きもぜず部屋の奥へと進んでいき、壁の一部を押し込む。
ガコンッと音をたてて壁が下がっていく。
その先には下に続く階段があった。
カイルのテンションは最高潮まで達した。
一目散に階段を降るカイルの後にアッシュも続く。

降った先は、白を基調とした部屋があった。
違和感しかない真っ白な部屋は、迷宮とはかけ離れており、それでいて、とても異質的である。
そんな部屋にカイルは思わず見惚れてしまう。

壁には高さ2m程のショーケースがズラリと並んでおり、中には人影の様なものがある。
カイルはギョッとしたが、よく見るとマネキンが飾られてるだけであった。
マネキンは戦士や魔術師、神官、盗賊、踊り子、様々な服を着ている。
しかし、その服は唯の服では無く、魔術防具である。しかも、どれも一級品。

勇者のカイルでさえ、ここまでの魔術防具は見たことない。
勇者の鎧は女神の加護や歴代の勇者の力を授かっており、唯一無二の力を誇っていた。
ここにある防具はそれと同等か、はたまた、それ以上か。
また、手には武器が握られている。
剣、弓、槍、斧、杖などよく知るものから、人形やハサミ、本、笛、フライパンなど奇妙なものまで。

(もし、これらが人間を襲ってきたら…)
カイルは背筋がゾクリとした。

「ここはかつての仲間達が眠っている場所だ」
カッ…カッ…と音を立てて、アッシュが隣にくる。
無音の部屋にはよく響く。
ここは、かつての仲間達が残した武具を保管するためにラウラが作った霊廟である。

誰も立ち入る事は許されず、側近であったマルフィスでさえ中を知る事は無かった。
そんな場所にカイルを入れた事は彼を信頼しているのか、はたまた、別の感情があるのか。

アッシュは、最奥まで歩いていき、カイルも黙って後を追いかける。

そこには、白と黒を基調としたローブを着たマネキンが佇んでいる。

これこそがアッシュのために作られたマネキンである。

ローブの名は『始祖の羽衣』
勇者の鎧とは対で、歴代の魔王の力を受け継ぐ。
アッシュは200年前に一度だけしか着たことがない。
それ以降は霊廟で保管されている。
ただ、今回の目的はこの防具ではない。
アッシュはショーケースの前でしゃがみ、ショーケースの下にある台座を触れる。
すると、台座の中に手が飲み込まれていく。
台座はアイテムボックスとなっており、今までの魔術武具やアイテムが格納されている。

「魔術武具は知っての通り、装備者の力が見合っていないと能力が著しく低下する。
1級品ともなれば、少しの差があるだけで布切れ同然だ」

これはカイルも知るとこだ。
武具には階位が付けられている。
ただの剣や弓などは軒並み10級とされ、そこから素材の種類や込められた魔力、秘められた効果によって位が上がっていく。
一般的な冒険者は8~7級が多く、熟練の冒険者となると6~4級、伝説の冒険者ともなれば3~1級の武具を持つと言われている。
もちろん、カイルの武具も1級品であった。

アッシュは台座の中をゴソゴソとし、一着の洋服を取り出す。
周りに飾ってある武具と比べ、地味に思えた服をモゾモゾとその場で着替えてる。
黒のシャツと黒のズボン、その上にミッドナイトブルーのローブを羽織り、ダークブラウンのブーツを履く。

「夜のローブ一式」
8級の魔導防具でその名の通り、夜道では認識しにくい素材で作られており、隠密する際に重宝する。

出来るだけ戦闘を避けたいアッシュは夜に紛れることができる防具を選んだ。

カイルは手で顔を隠し、その下の顔は赤らんでいる。

アッシュは特に気にする事なく、台座から一本の杖を取り出す。
木で作られた簡素な杖であり、頭の部分には透明な箱が付いている。

「導きの杖」
9級の魔導武器であり、魔術を習い始めた弟子に師が贈る杖として有名である。
透明な箱に属性魔石を入れる事で対応した属性魔術を補助してくれる初心者用の杖だ。

アッシュはその箱に台座から取り出した土属性の魔石を入れる。
そのあと、回復薬や逃走用の煙玉、採取用のナイフなど取り出し、ポーチに詰めて腰に装備する。

「そろそろ外にでるぞ」
カイルに言い、そのまま霊廟を出ていく。
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