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一章
1-5 激突
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西の森の奥に朽ちた教会がある。
誰もが忘れ去っているであろう教会の中の長椅子に2人の影が落ちている。
「あっ、結界の中に誰か入ってきた。しかも神官魔術使ってる。どうしよう」
「あら?アルス、人避けの魔術つかってるんじゃなかったのかしら?一体何してるの?折角の生贄が無駄になってしまうわ」
先に声をあげたのはアルスと呼ばれる青年である。
身長は180cmを超え、短髪で軽くクセのかかった艶のある黒髪と透き通る様な白い肌、端正な輪郭には、すっと通った鼻梁と切れ長の目。瞳はまるで深い海の底のような青色をしている。
着ているローブは漆黒で所々に金の刺繍が施されており、芸術品の様である。
「だからクレイティアに助けてを求めてるんだよ」
整った眉を下げつつ、お願いと頼む姿は異性問わず、無条件で首を縦に振るだろう。
「そうねぇ…あっ、今王都で人気のパンケーキがあるらしいわ。今度奢ってくだる?」
まるで恋人の様な会話である。
クレイティアの容姿はアルスですら可憐な少女だと思うほどであり、女性ならば誰もが羨むであろう美しいプラチナブロンドの髪をギブソンタックで綺麗に編み込まれている。
アルスとは対照的な大きな目の上には長い睫毛が生え揃っており、整っている唇には口紅が塗られている。
口紅と対照的な薄い蒼のドレスを着飾る姿は一国の姫を思わせる。
「わかったよ。今度奢らせていただくよ」
クレスティアはくすっ笑うと魔術を発動させた。
『浄化』が発動し、厭な臭いが大分解消させる。鼻の奥にこびりついた臭いは消えないが。
続けて『鎮魂』の魔術を発動しようとした瞬間、
村の西門が吹き飛んだ。
リュウトは驚き、門に目をやるとそこには門と同じ大きさの巨大なモンスターがいた。
「オーガだ!」
リュウトはユーリスに向かって叫んだ。
リュウトは実際に見たことはないが、魔物図鑑で見た事がある。醜悪な顔つき、巨大な体に、それを覆う筋肉、知能は低いく、力とスタミナがある。
討伐難易度はそこまで高くはないが、あくまで冒険者基準であり、リュウト達にとっては強敵になるだろう。
オーガは2人を見つけると真っ直ぐ突進してきた。
「ユーリス!」
ユーリスは舌打ちをして、術を中止した。
神官魔術は基本的に教本を媒介にする詠唱魔術である。
そのため、教本の1節、強力な術を使う時には5節以上詠唱しなければならず、時間がかかる。
『鎮魂』自体はそこまで難しい魔術ではないが、範囲を拡げているため余計に時間がかかる。
西門から中央近くにいるリュウト達までまだ距離があるため、ユーリスに近寄った。
「どうする?逃げるか?」
「いや、あのスピードなら逃げても追いつかれる。鎮魂も済ましたいからここで迎え撃つぞ」
ユーリスは神官魔術を唱える。
『鉄槌』
信ずる神の代行者として悪を裁くための下位魔術であり、一時的に身体能力を向上させる。
上位になれば『神鉄槌』や『神罰』といった強力な魔術が使えるがユーリスはまだ使うことができない。
神官は一般的に後衛にまわり、補助や攻撃魔法で仲間を補助する。稀に接近戦ができる神官もいるが大体は杖やメイスで殴るといったもので、ユーリスのように素手で戦うものはごく稀である。
構えたユーリスの拳は『鉄槌』により、ゆらゆらと青い炎の様な魔力を纏っている。
それを見たリュウトは驚きで固まっていたが、はっとして、慌てて自身の剣を抜く。
「お互いに前衛同士だ。俺が陽動する」
「後ろでサポートするんじゃないのか?」
「ちんたら魔術を唱えるよりも殴った方が早い」
(こいつ、脳味噌まで筋肉になったのか…)
元々、ストイックなユーリスは体を鍛えていたが、父親から格闘術を学んだことで更に思考が偏ったのである。
「来るぞ」
オーガの勢いは止まらない。
このまま轢き殺すつもりだろう。
オーガはリュウトには見向きもしないでユーリスに向かっていく。
「ユーリス!」
ユーリスがオーガとぶつかる寸前、素早く身体を90度回転させ、避ける。
すれ違う瞬間、オーガの脇腹をユーリスの拳が抉る。
勢いよく吹っ飛んだオーガは民家の塀を突き破り、そのまま転がった。
殴った当の本人は反動を受けた様子はなく、平然と立っていた。
「すげーな!ユーリス!」
リュウトは嬉しそうに駆け寄ってくる。
「まだだ」
ユーリスは悔しそうに呟くと、方向が上がった。
「グゥオオオオオウッ!」
苦痛に満ちた表情のオーガが地団駄を踏んでいる。
ユーリスの攻撃はオーガの急所をついた様に思われたが、厚い筋肉で覆われた身体は致命的とまではいかなかった。
苦痛から怒りに変わったオーガは崩れた塀を掴み、2人に向かって投げつけた。
巨大な体から放つ塀は弾丸の様である。
だが、ユーリスに感化されたリュウトによって全てが受け流される。
そのまま一気にオーガに駆け寄る。
驚いたオーガは拳を振るうがそれを躱し、そのままオーガの喉へ剣を穿つ。
『突貫』
リュウトの使える剣術であり、バネの様に体を縮め、爆発的に解放して相手を突く。
人の3倍太いオーガの首は普通の剣では到底切ることが出来ないが、『突貫』によってオーガの首は丸く穴が空いていた。
ズドンと砂埃をあげて倒れるオーガに安堵し、リュウトはユーリスに笑いかける。
誰もが忘れ去っているであろう教会の中の長椅子に2人の影が落ちている。
「あっ、結界の中に誰か入ってきた。しかも神官魔術使ってる。どうしよう」
「あら?アルス、人避けの魔術つかってるんじゃなかったのかしら?一体何してるの?折角の生贄が無駄になってしまうわ」
先に声をあげたのはアルスと呼ばれる青年である。
身長は180cmを超え、短髪で軽くクセのかかった艶のある黒髪と透き通る様な白い肌、端正な輪郭には、すっと通った鼻梁と切れ長の目。瞳はまるで深い海の底のような青色をしている。
着ているローブは漆黒で所々に金の刺繍が施されており、芸術品の様である。
「だからクレイティアに助けてを求めてるんだよ」
整った眉を下げつつ、お願いと頼む姿は異性問わず、無条件で首を縦に振るだろう。
「そうねぇ…あっ、今王都で人気のパンケーキがあるらしいわ。今度奢ってくだる?」
まるで恋人の様な会話である。
クレイティアの容姿はアルスですら可憐な少女だと思うほどであり、女性ならば誰もが羨むであろう美しいプラチナブロンドの髪をギブソンタックで綺麗に編み込まれている。
アルスとは対照的な大きな目の上には長い睫毛が生え揃っており、整っている唇には口紅が塗られている。
口紅と対照的な薄い蒼のドレスを着飾る姿は一国の姫を思わせる。
「わかったよ。今度奢らせていただくよ」
クレスティアはくすっ笑うと魔術を発動させた。
『浄化』が発動し、厭な臭いが大分解消させる。鼻の奥にこびりついた臭いは消えないが。
続けて『鎮魂』の魔術を発動しようとした瞬間、
村の西門が吹き飛んだ。
リュウトは驚き、門に目をやるとそこには門と同じ大きさの巨大なモンスターがいた。
「オーガだ!」
リュウトはユーリスに向かって叫んだ。
リュウトは実際に見たことはないが、魔物図鑑で見た事がある。醜悪な顔つき、巨大な体に、それを覆う筋肉、知能は低いく、力とスタミナがある。
討伐難易度はそこまで高くはないが、あくまで冒険者基準であり、リュウト達にとっては強敵になるだろう。
オーガは2人を見つけると真っ直ぐ突進してきた。
「ユーリス!」
ユーリスは舌打ちをして、術を中止した。
神官魔術は基本的に教本を媒介にする詠唱魔術である。
そのため、教本の1節、強力な術を使う時には5節以上詠唱しなければならず、時間がかかる。
『鎮魂』自体はそこまで難しい魔術ではないが、範囲を拡げているため余計に時間がかかる。
西門から中央近くにいるリュウト達までまだ距離があるため、ユーリスに近寄った。
「どうする?逃げるか?」
「いや、あのスピードなら逃げても追いつかれる。鎮魂も済ましたいからここで迎え撃つぞ」
ユーリスは神官魔術を唱える。
『鉄槌』
信ずる神の代行者として悪を裁くための下位魔術であり、一時的に身体能力を向上させる。
上位になれば『神鉄槌』や『神罰』といった強力な魔術が使えるがユーリスはまだ使うことができない。
神官は一般的に後衛にまわり、補助や攻撃魔法で仲間を補助する。稀に接近戦ができる神官もいるが大体は杖やメイスで殴るといったもので、ユーリスのように素手で戦うものはごく稀である。
構えたユーリスの拳は『鉄槌』により、ゆらゆらと青い炎の様な魔力を纏っている。
それを見たリュウトは驚きで固まっていたが、はっとして、慌てて自身の剣を抜く。
「お互いに前衛同士だ。俺が陽動する」
「後ろでサポートするんじゃないのか?」
「ちんたら魔術を唱えるよりも殴った方が早い」
(こいつ、脳味噌まで筋肉になったのか…)
元々、ストイックなユーリスは体を鍛えていたが、父親から格闘術を学んだことで更に思考が偏ったのである。
「来るぞ」
オーガの勢いは止まらない。
このまま轢き殺すつもりだろう。
オーガはリュウトには見向きもしないでユーリスに向かっていく。
「ユーリス!」
ユーリスがオーガとぶつかる寸前、素早く身体を90度回転させ、避ける。
すれ違う瞬間、オーガの脇腹をユーリスの拳が抉る。
勢いよく吹っ飛んだオーガは民家の塀を突き破り、そのまま転がった。
殴った当の本人は反動を受けた様子はなく、平然と立っていた。
「すげーな!ユーリス!」
リュウトは嬉しそうに駆け寄ってくる。
「まだだ」
ユーリスは悔しそうに呟くと、方向が上がった。
「グゥオオオオオウッ!」
苦痛に満ちた表情のオーガが地団駄を踏んでいる。
ユーリスの攻撃はオーガの急所をついた様に思われたが、厚い筋肉で覆われた身体は致命的とまではいかなかった。
苦痛から怒りに変わったオーガは崩れた塀を掴み、2人に向かって投げつけた。
巨大な体から放つ塀は弾丸の様である。
だが、ユーリスに感化されたリュウトによって全てが受け流される。
そのまま一気にオーガに駆け寄る。
驚いたオーガは拳を振るうがそれを躱し、そのままオーガの喉へ剣を穿つ。
『突貫』
リュウトの使える剣術であり、バネの様に体を縮め、爆発的に解放して相手を突く。
人の3倍太いオーガの首は普通の剣では到底切ることが出来ないが、『突貫』によってオーガの首は丸く穴が空いていた。
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