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一章
1-4 サルネ村の悲劇
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何度かの休憩後、特に魔物とも遭遇することもなく、夕暮れ前にはサルネ村の近くまで来ていた。
「やっとここまで来れたな。皆んな無事だといいけど。あと次来る時は絶対馬でくる」
リュウトはそう言うとグッと大きく背伸びをした。ここまで歩いてきて大分疲労が溜まったらしい。
「そうだな。とりあえず村に着いたら手伝える事をして、今日は休ませてもらおう」
ユーリスも少し疲れた顔をしており、ふぅとひと息ついた。
しかし、サルネ村に近づくにつれ、ユーリスは違和感を感じた。
(人の気配が全くしない。今までは村の外で薬草や山菜を採取してる人が居たはずだがこの時間帯だからか?)
べたっと張り付く空気感が余計不安を煽った。
リュウトも何か感じたらしい。
二人は急足で村の門まで向かった。
サルネ村は昔から魔物の被害に遭っていたため、門は東西に2つあり、どちらとも高さ3m程の木造で堅固に作られている。
周りも門と同様な柵で隙間なく囲われている。
門の付近には物見台がある。通常であれば中に見張り番がおり、来訪者が来た時に門が開けられるのだが、その物見台には誰もいない。
リュウトは閉まっている門に近づき、叩いてみるがやはり反応がない。
「やっぱりおかしい。中から物音一つ聞こえない。みんな逃げたのか?」
「急いで逃げるのに門を閉めるか?とりあえず、反対側の門に行ってみるか」
ユーリスは歩きつつ、村の中の様子を伺うがはやり気配がない。
反対側の門も閉じられており、どうするか考えているとリュウトは柵を触りながら歩き出した。
「そういえば村人だけが知ってる扉があったはず」
何でそんな事知ってるのか尋ねると笑いながら
「前に村で仲良くなった悪ガキに教えてもらった」
「お前は何でそんな大事な事を。まぁいい。確かにその扉から逃げられるな」
あった。と木と木の間に指を引っ掛け、グッと引っ張ると僅かに開いた。確かに扉と言われなければ分からないほど巧妙に作られている。
「よし。開けるぞ」
リュウトは僅かに空いた隙間に両手を入れ思いっきり引いた。
べちゃ…。
「え?」
耳障りな音がした。
開いた扉から薬師のおじさんが倒れてきた。
リュウト達が村を訪れるたびに風邪薬や傷薬を売ってもらい、今ではすっかり顔馴染みである。
そんなおじさんが倒れた瞬間何かが弾け、地面を汚した。
何だ?とリュウトは思い、倒れたおじさんに目を向けると頭からは真っ赤な血と鮮やかなピンク色の脳がこぼれ落ち、地面を染め上げた。
「ひっ…!」
驚きで腰を抜かしたリュウトはその場に尻もちをつき、後ずさる。
息絶えたおじさんの表情は恐怖と苦痛で歪められている。
だが、それだけではなかった。
扉の奥からは二人の想像を絶する光景が映った。
手足が引きちぎられた青年、腹から臓物を垂れ流す少女、首が有り得ない方向に曲がった子供…
惨殺。
それ以外の言葉が思いつかなかった。
視覚から遅れて、生ゴミの腐った臭いが脳を刺激する。
ユーリスは思わず顔を顰めてしまった。
「ぅぐァ……おえっ……」
隣では耐えきれず吐き出してしまっていた。
辺りに酸っぱい臭いも立ち込める。
ユーリスは気にもせず、しゃがんで背中をさすってやる。
「大丈夫か?離れたところで待ってろ。中は俺が確認してくる」
「いや、大丈夫…。俺も行くよ」
涙を浮かべ、真っ青な顔をしたリュウトはふらつきながら立ち上がる。
ユーリスはそれ以上は何も言わず、バックから新しいタオルを2つ取り出し、1つをリュウトに渡す。
「口元を覆っておけ。少しは楽になるから」
「ありがとう…」
2人は意を決して、村の中へ入る。
(惨すぎる。魔物がここまでするのか?それに何故、外にいた時にこの臭いに気づかなかったのだ…?魔物はどこから入った?)
疑問は尽きない。
ユーリスは考えながら周囲を見渡す。
するとある事に気づいた。
「やけに家が綺麗すぎる」
「え?」
リュウトも辺りを見回し気づいた。
「本当だ。魔物が襲ってきたにしてはどこも荒れてない…?扉も全部閉まってるのか?」
「とりあえず『鎮魂』と『浄化』を行ってから考えよう」
ユーリスとリュウトは村の中央付近に赴く。
その間にも何人か顔見知りの人物を見つけ、ショックを受けた。
村の中央まで来るとユーリスは鞄から教本を取り出し、魔力を込め、読み上げる。
『鎮魂』は死した者を天へ導くための魔術であり、供養されてない遺体はアンデットを発生させてしまうため、必ず神官に鎮魂してもらわなければいけない。
また、『浄化』は不浄の気を晴らす魔術であり、今回の場合は腐敗臭を祓う役割もある。
ユーリスの声に空気が振動し、仄かに暖かい光が村全体を包み込む。
村の半径が3キロほどある。
本人は比較した事がないため気づかないが、村を包み込めるほどの魔力を持つユーリスは神官の中でもそれなりの実力者になっていた。
そんなユーリスを眺めるリュウトの他にユーリスの魔力に気づいた人物がいる。
「やっとここまで来れたな。皆んな無事だといいけど。あと次来る時は絶対馬でくる」
リュウトはそう言うとグッと大きく背伸びをした。ここまで歩いてきて大分疲労が溜まったらしい。
「そうだな。とりあえず村に着いたら手伝える事をして、今日は休ませてもらおう」
ユーリスも少し疲れた顔をしており、ふぅとひと息ついた。
しかし、サルネ村に近づくにつれ、ユーリスは違和感を感じた。
(人の気配が全くしない。今までは村の外で薬草や山菜を採取してる人が居たはずだがこの時間帯だからか?)
べたっと張り付く空気感が余計不安を煽った。
リュウトも何か感じたらしい。
二人は急足で村の門まで向かった。
サルネ村は昔から魔物の被害に遭っていたため、門は東西に2つあり、どちらとも高さ3m程の木造で堅固に作られている。
周りも門と同様な柵で隙間なく囲われている。
門の付近には物見台がある。通常であれば中に見張り番がおり、来訪者が来た時に門が開けられるのだが、その物見台には誰もいない。
リュウトは閉まっている門に近づき、叩いてみるがやはり反応がない。
「やっぱりおかしい。中から物音一つ聞こえない。みんな逃げたのか?」
「急いで逃げるのに門を閉めるか?とりあえず、反対側の門に行ってみるか」
ユーリスは歩きつつ、村の中の様子を伺うがはやり気配がない。
反対側の門も閉じられており、どうするか考えているとリュウトは柵を触りながら歩き出した。
「そういえば村人だけが知ってる扉があったはず」
何でそんな事知ってるのか尋ねると笑いながら
「前に村で仲良くなった悪ガキに教えてもらった」
「お前は何でそんな大事な事を。まぁいい。確かにその扉から逃げられるな」
あった。と木と木の間に指を引っ掛け、グッと引っ張ると僅かに開いた。確かに扉と言われなければ分からないほど巧妙に作られている。
「よし。開けるぞ」
リュウトは僅かに空いた隙間に両手を入れ思いっきり引いた。
べちゃ…。
「え?」
耳障りな音がした。
開いた扉から薬師のおじさんが倒れてきた。
リュウト達が村を訪れるたびに風邪薬や傷薬を売ってもらい、今ではすっかり顔馴染みである。
そんなおじさんが倒れた瞬間何かが弾け、地面を汚した。
何だ?とリュウトは思い、倒れたおじさんに目を向けると頭からは真っ赤な血と鮮やかなピンク色の脳がこぼれ落ち、地面を染め上げた。
「ひっ…!」
驚きで腰を抜かしたリュウトはその場に尻もちをつき、後ずさる。
息絶えたおじさんの表情は恐怖と苦痛で歪められている。
だが、それだけではなかった。
扉の奥からは二人の想像を絶する光景が映った。
手足が引きちぎられた青年、腹から臓物を垂れ流す少女、首が有り得ない方向に曲がった子供…
惨殺。
それ以外の言葉が思いつかなかった。
視覚から遅れて、生ゴミの腐った臭いが脳を刺激する。
ユーリスは思わず顔を顰めてしまった。
「ぅぐァ……おえっ……」
隣では耐えきれず吐き出してしまっていた。
辺りに酸っぱい臭いも立ち込める。
ユーリスは気にもせず、しゃがんで背中をさすってやる。
「大丈夫か?離れたところで待ってろ。中は俺が確認してくる」
「いや、大丈夫…。俺も行くよ」
涙を浮かべ、真っ青な顔をしたリュウトはふらつきながら立ち上がる。
ユーリスはそれ以上は何も言わず、バックから新しいタオルを2つ取り出し、1つをリュウトに渡す。
「口元を覆っておけ。少しは楽になるから」
「ありがとう…」
2人は意を決して、村の中へ入る。
(惨すぎる。魔物がここまでするのか?それに何故、外にいた時にこの臭いに気づかなかったのだ…?魔物はどこから入った?)
疑問は尽きない。
ユーリスは考えながら周囲を見渡す。
するとある事に気づいた。
「やけに家が綺麗すぎる」
「え?」
リュウトも辺りを見回し気づいた。
「本当だ。魔物が襲ってきたにしてはどこも荒れてない…?扉も全部閉まってるのか?」
「とりあえず『鎮魂』と『浄化』を行ってから考えよう」
ユーリスとリュウトは村の中央付近に赴く。
その間にも何人か顔見知りの人物を見つけ、ショックを受けた。
村の中央まで来るとユーリスは鞄から教本を取り出し、魔力を込め、読み上げる。
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また、『浄化』は不浄の気を晴らす魔術であり、今回の場合は腐敗臭を祓う役割もある。
ユーリスの声に空気が振動し、仄かに暖かい光が村全体を包み込む。
村の半径が3キロほどある。
本人は比較した事がないため気づかないが、村を包み込めるほどの魔力を持つユーリスは神官の中でもそれなりの実力者になっていた。
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