魔王転生記。

ちくわ天

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一章

1-2 村からの旅立ち

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男と出会う数刻前。
日が傾き出し、夕暮れになりかけた森の中を二人の青年が駆けていた。
「早くしろ!近くまで来てるんだぞ!」
「分かっている!」
先行して走っている青年の名はリュウトである。年は16歳になり、成人を迎えたばかりで、近いうちに村を出て、憧れであった冒険者になる事を夢見ている。

リュウトは走りながら、後ろにいるもう一人の青年に声をかけた。
「ユーリス大丈夫か!」
「大丈夫だ…っ!」

ユーリスと呼ばれた青年はリュウトより一つ上の17歳であり、発育がよく、程よく引き締まった体には神官の服を纏っており、走りにくそうであった。

首都から馬で2日ほど離れた小さな村、通称「コレット村」で二人は育った。
二人は年子ではあるが幼馴染であり、親同士も仲が良かったため、兄弟のように育てられた。
先に成人したユーリスは親の仕事でもある神官となった。
二人で冒険者になろうと約束していたリュウトは裏切られたと思いこみ、殴り合いの喧嘩まで発展した。
ただ、ユーリス自身も冒険者をやりたく無い訳ではなく、神官魔術を覚える為には仕方のない事だった。

神官魔術。聖属性の中でも一般的に知れ渡っている魔術であり、神殿に仕えている家系であれば、大体が会得することができる。
基礎的なものには、死するもの達を導く『鎮魂』や、屍から発生するアンデッドを滅ぼす『清浄の光』、また穢れを祓う『浄化』など神官らしい魔術である。
これらの基礎的な魔術を習得する為には、上位神官の元で最低でも3年程度は修行しなくてはならず、父親が上位神官であるユーリスも例外では無い。

この事を知らずに、裏切られたと勘違いしたリュウトは本当のことを知ると酷く恥ずかしくなり、3日間はユーリスと顔を合わせる事が出来なかった。
最終的には大人なユーリスから謝られ、
「お前は先に冒険者になっててくれ。直ぐに追いつくから」と、上手く和解した。

そんな二人が何故、夕暮れ時の森の中を駆けているかと言うのは、2日前、「サルネ村が魔物に襲われた」と、その村の男が命からがら助けを求めてきたからである。
男はそれだけを語ると力尽きてしまい、その他の情報は分からなかった。

因みに、コレット村は首都から西側にあり、サルネ村はそこから更に西側にある。
サルネ村は西の森の近辺にあり、頻繁に魔物の被害には遭っていた為、対策は十二分に施してあった。

平和が続いていたコレット村には緊張が走り、その日の夜には村長達の会議が始まった。
「我々ではどうにかできる問題ではない!王都に要請すべきだ!」
「要請だしたところで直ぐに来るとは限らないだろ!だらだら待ってたらこの村まで襲われちまう!」
会議といっても知見者が集まってる訳では無いため、言いたい事を言い合っているだけである。
最終的には村長の意見で村で数少ない若者で冒険者志望のリュウトとユーリスが選ばれ、サルネ村の様子を見に行く事となった。

次の日の朝には、村の人達が集まっていた。
「くれぐれも無理するな。危険だと思ったら直ぐに帰って来るんだ。」
いくら状況を見てくるだけとはいえ、魔物が近くにいるんだとリュウトの父親は酷く心配した顔で告げた。
「大丈夫だよ。軽く確認して直ぐ帰ってくるから。ユーリスも一緒だし」
ちらっと隣にいるユーリスを見ると、ユーリスは何も言わず頷いた。
「そうだな。ユーリスが居れば安心だ。ユーリス、ウチの愚息を頼んだぞ」
と、真面目なのかふざけているのかよく分からない返事をされ、とりあえず、うるせぇよと返しておいた。

リュウトはこんな状況の中を少し楽しみにしていた。なぜなら、初めて冒険者らしいことをするからである。
何回もサルネ村には訪れているし、知り合いだって居る。もちろん、心配に思う気持ちはある。
ただ、前に村にきた冒険者から聞いた話と自分を重ねて合わせ、冒険者としての一歩を踏み出すのだと期待に胸を膨らませていた。
それに服装だっていつもと違う。
普段着から着替え、冒険者になる為に用意していた皮の鎧を身につけて、薬草や貴重なポーションが入ったポーチを腰からぶら下げている。それに、護身用の剣まで装備している。
剣術は殆ど独学で、毎日鍛錬していた。たまに村にきた冒険者に稽古をつけてもらい、その時に「筋がいい。将来は立派な剣士になるだろう」と褒められたのはいい思い出である。
思い出に耽っていると、「もう準備はいいのか?」とユーリスが声をかけてきた。

ユーリスの服装はいつもと変わらず、神官の服装である。前にいつも同じ服だなと聞くと、修行の中で、精神を安定させるために神官の服を着ないといけない決まりがあると言っていた。

「もう大丈夫。じゃあ、行くか」と声をかけ、村をでた。サルネ村までは徒歩で半日ほどであり、馬を借りるか迷ったが、まだ上手く乗りこなせないリュウト達は徒歩で行くことにした。

今はまだ日が頂点に登り切る前の清々しい朝である。
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