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第3章 冒険 -グランツ編-
事情
しおりを挟むシェリルの屋敷の一室は静寂に包まれていた。
俺がアイテムボックスを使えることを明かしたせいだ。
そんな中、レオンさんが口を開いてくれた。
「バッグはダミーだったんだね苦笑」
「えぇ。そうでもしないと不自然ですしね」
「何故このタイミングで明かしたのかしら?」
「正直言って、結婚式を挙げるまでは黙ってるつもりでした。ですが、急遽王都に行くことになって事情が変わったんです」
「…」
ロナルドさんはずっと口に手を当てて考え込んでいる。それだけナイーブな問題なんだろうな、やっぱり。
「何が狙いだ?」
「王都に行くには時間がかかります。馬車での寝泊まりでもいいのですが、2人に負担をかけたくないので、小さな家をアイテムボックスに丸ごと入れて持ち歩きたいんです。
今回の料理やレシピの報酬は要りません。その代わりにロナルドさん達が使ってない家があったら代金は払いますので、お譲りしていただきたいんです。」
…。
「プッ!! ハッハッハ!!」
「「「?!」」」
しばらくの間があってから、突然ロナルドさんが吹き出し、笑い始めた。
ん? 何かおかしいところあったか?
俺たちが不思議そうに顔を見合わせていると、レオンさんが喋りだした。
「アイテムボックスを持っていると狙われるのは周知の事実だ。それでも商人は成功が約束されるようなものだからみんなが憧れる。それを物流に使わずに、自分たちの快適さだけに使おうとしてる君たちが面白かったのさ。」
あっ、そゆこと。
納得、納得。
「ステラ、レオン。こいつらに渡してやれる家はあるか?」
「西の外れの家なんてどうかしら。少し古いけど誰も住んでないし、突然無くなっても不思議に思わないでしょ」
「そうだね。あの家がいいね」
「よしシーマ、そんな訳だからこの取引は成立だ! 但し、家の代金は要らんからな」
「いや、そんな訳には...」
「シーマ、これから俺達ルート商会はシェリルを通してお前から様々な恩恵を受けるだろう。だからこれは先行投資なんだよ、いいな!」
「ありがとうございます!」
「「よかったね、シーマ!」」
「あぁ。2人もありがとう」
「「ふふふっ」」
何とか取引が成立したな。
あっ、そうだ!
口止めしとかないと。
「ロナルドさん、ステラさんにレオンさんも。アイテムボックスのことはここだけの話にしておいて欲しいのですが...」
「言えるわけねぇだろ! わざわざ娘を危険にさらすような真似できるか!」
「そうね」
「そうだね笑」
よし。とりあえずはこれでよかったのかな?
後は家を見に行ってから、急いで準備して王都へ向かうか。
なんて思って油断してたら、ロナルドさんから早くもオーダーが入った。
「あー、早速だがシーマ。王都に行ったらポーション類を買ってきてくれ」
「ポーション...類? いろいろ買って来いってことですか?」
「あぁそうだ。王都はグランツみたいな地方都市と違ってあらゆる物が揃っている。ポーションに至っては地方よりも安くいろんな種類が手に入るんだ。もちろん怪しまれない程度でいい。シェリルと相談して買ってきてくれ。」
「わかりました。ただ、いつ帰ってくるかわかりませんよ?」
「もちろん承知の上だ。お金は予め渡しておく。出発の前にまた顔を出してくれ」
「それでは、出発の際にまた馬車を借りに来ますのでその時に」
「いいだろう」
それでは、まずは家を見に行きますか?
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