異世界テイスト ~宿屋の跡継ぎに転生した主人公の異世界飯テロチーレム冒険ファンタジー!!~

きーす

文字の大きさ
上 下
70 / 413
第3章 冒険 -グランツ編-

勝者

しおりを挟む
 宇宙暦SE四五二三年六月三十日 標準時間〇二四〇。

 ゾンファ艦隊のフェイ・ツーロン上将はアルビオン艦隊の第九艦隊を抑えるべく、攻撃を続けていた。距離は十五光秒を割り込み、敵に少なくない出血を強いていたが、未だに敵司令官アデル・ハース大将の思惑を読み切れず、彼の表情に余裕はなかった。

「敵艦隊、レールキャノンを使用した模様。質量弾到着まで約二百秒です」

 情報担当参謀からの報告にフェイは疑問を持つ。

(この距離でレールキャノンだと……何を考えている……)

 その思考は次の報告で中断する。

「敵、天底方向に向けて変針しました」

 フェイはすぐに自らのコンソールに目をやる。
 そこにはシオン・チョン上将率いる本隊から離れていく第九艦隊の姿が映し出されていた。

「敵第九艦隊の前方に向けて針路変更。攻撃を中止し、防御を固めろ」

 第九艦隊を自由にしないよう塞ぐような針路に変更する。艦首の向きを変えたことで脆弱な側面を晒すことになるため、防御を命じた。

(距離を取ることの意味は何だ? あのハースがこの圧倒的に不利な状況で無駄な機動を命じるわけがない……罠の発動と共に反転するつもりなのか? だが、それでは我が艦隊に側面を晒すことになる……)

 フェイはこの時、アルビオン艦隊随一の知将、ハースの幻影に惑わされていた。
 彼が考えるようにハースは非常に合理的で、一見して無駄に思える行動もあとで検証すると必ず意味があった。そのため、この行動にも意味を見出そうとしてしまったのだ。

「敵の罠はまだ見つからないか!」と索敵担当の参謀に強い口調で確認する。

 しかし、「申し訳ございません」という答えしか返ってこない。フェイはすぐに冷静さを取り戻す。

「了解した。必ず罠があるはずだ。一秒でも早く見つけてくれ」と言った後、艦隊に向けて放送を行った。

「我が艦隊の目的は敵第九艦隊を自由にさせないことだ。前衛艦隊と本隊が敵本隊を仕留めてくれれば一個艦隊では何もできん。今は敵を沈めるより、動きを封じることを第一に考えるのだ」

 これによりフェイ艦隊の攻撃はそれまでより緩やかなものになった。


 標準時間〇二四五。



 フェイ艦隊は第九艦隊と十光秒の位置にあった。

「敵の罠が判明しました! 衛星軌道上にある浮きドックに戦闘艦が隠されています! 数は一個艦隊程度と思われます!」

「何!」とフェイは驚くが、すぐに我に返る。

「その情報を直ちにシオン上将とレイ上将に転送しろ!」

 その頃、シオン率いる本隊はムツキ級軍事衛星群から約五光秒の位置にあり、衛星を攻撃していた。

 レイ・リアン上将率いる前衛艦隊はヤシマ艦隊とロンバルディア艦隊に肉薄し、優勢に戦いを進めている。

 フェイ艦隊から本隊までは約十光秒、前衛艦隊までは約十五光秒離れている。
 通信を送ったものの、その返信が来るのは二十秒以上後になる。その時間をイライラとしながら待っていると、前衛艦隊が爆発する光景が映し出された。

「て、敵伏兵艦隊、攻撃を開始しました! ス、ステルス機雷による攻撃も加わっております!」

 焦ってどもる参謀の声を聴きながら、フェイはその光景を茫然と見つめた。しかし、すぐに我に返り、命令を発する。

「敵第九艦隊に向けて加速開始! 主砲斉射! 奴らを本隊に向かわせるな!」

 それまでの慎重さを投げ捨て、第九艦隊に向けて突撃を開始した。

■■■

 標準時間〇二四五。

 前衛艦隊のレイ・リアン上将はヤシマ艦隊とロンバルディア艦隊を圧倒していることに満足していた。

「このまま押し切ってしまえ! 奴らの気力もそろそろ尽きるぞ!」

 一方、同じく前衛艦隊を率いるシー・シャオロン上将は思ったほど敵にダメージを与えられないことに疑問を感じていた。

(崩れそうに見えるが、微妙なところで持ちこたえている。弱兵と侮ると手痛い反撃を受けるかもしれない……)

 当初はズルズルと後退し、すぐにでも戦列が崩れると思われたが、戦闘が始まって一時間半以上経つのに両艦隊は秩序を保っている。

「前進を中止し、戦列を整えつつ、ロンバルディア艦隊に攻撃を集中しなさい。アルビオン艦隊からの攻撃にも充分注意しておくように」

 レイ艦隊と共に前進していたため、シー艦隊の戦列は乱れ、戦艦と巡航艦が入り乱れている状況だ。本来であれば、防御力の高い戦艦を最前列に配置し、その陰から巡航艦や駆逐艦が攻撃を加えるのだが、指揮官たちの戦意が旺盛すぎてこのような状況になっている。

 シー艦隊が戦列を整えようとした時、索敵担当参謀が慌てた口調で報告し始めた。

「天頂方向の浮きドック群に戦闘艦の反応があります!」

「何!」とシーは言ってメインスクリーンに視線を向けた。

 更に旗艦の索敵員が悲鳴に似た声を上げる。

「ステルスミサイル多数接近! ステルス機雷から発射された模様! 天頂方向と天底方向の二方向から……」

 そこまで言ったところで旗艦ウーイーシャン06が大きく揺れた。
 浮きドックに潜んでいたアルビオン艦隊の砲撃が命中したのだ。
 戦闘指揮所CICでは警報音が鳴り響き、人工知能AIの中性的な声が響く。

『艦首兵装区画減圧中。当該区画を閉鎖します……』

『主兵装エリア火災発生。自動消火装置作動……』

 突然の奇襲に全員が対応できずにいた。
 そんな中、シーはいち早く我に返り、CIC要員を落ち着かせるべく、声を上げた。

「落ち着きなさい! 敵は僅か一個艦隊に過ぎない! ステルス機雷も冷静に処理すれば対処できる! 敵は切り札を使ったのです! これを乗り切れば、もう敵に打つ手はない!」

 シーの言葉に艦長以下のCIC要員は僅かだが落ち着きを取り戻し、マニュアル通りの対応を始めた。

 しかし、その混乱をヤシマ及びロンバルディア艦隊は見逃さなかった。

 それまでのうっ憤を晴らすかのように激しい砲撃を加えていく。
 ヤシマ艦隊の司令官トモエ・ナカハラは旗艦ヒューガ13の司令官シートから立ち上がり、麾下の艦隊に鋭い口調で命令した。

「全艦前進せよ! 今こそ宿敵ゾンファを駆逐する時だ! 進め!」

 その命令でナカハラ艦隊が前進を開始すると、レイジ・アベカワ大将の艦隊も前進し始める。

「敵が自暴自棄になる可能性がある。艦列を崩すことなく、冷静に攻撃せよ。ここで確実に敵を仕留めるのだ」

 アルビオン軍第十一艦隊のサンドラ・サウスゲート大将もそれまでのストレスを解放するかのように苛烈な攻撃を加え続けている。

「ようやく我々の出番だ! 敵は混乱している! 一気に蹴散らせ!」

 更にロンバルディア艦隊も前進を開始し、ゾンファ前衛艦隊は前方と上方の二方向からの砲撃を受けることになった。更に上方と下方に隠してあったステルス機雷が起動し、三方向から激しい攻撃を受けていた。

 ゾンファ艦隊の最前列にいたレイ・リアン上将はヤシマ艦隊の猛攻を受け、旗艦もろとも爆散した。レイ艦隊は指揮官を失い、戦列が崩壊していく。


 ゾンファ艦隊本隊のシオン・チョン上将はムツキ級軍事衛星を三基破壊し、アルビオン艦隊を追い詰めつつあったが、第十一艦隊の攻撃に始まった奇襲により、対応を迫られることになった。

 本隊は前衛艦隊の五光秒後方にあり、救援は可能であったが、連合艦隊の反攻に合わせてアルビオン艦隊本隊も攻勢に転じたことから、即座に動けなかった。
 更に散発的だが、ステルス機雷が襲い掛かり、混乱が起きる。

「敵の最後の足掻きだ! ステルス機雷に対応しつつ、前衛艦隊の救援に向かう! まだ我々の方が数で優っている! 冷静に対処せよ!」

 シオンの言葉に本隊は一時の混乱が収まったが、一度変わった流れを取り戻せなかった。

「我が艦隊を先頭にヤシマ艦隊に突撃する。ヤシマ艦隊を突破後、後背から敵を殲滅する! 我に続け!」

 シオンはこの状況を打開するため、賭けと言えるほどの強引な中央突破を命じた。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...