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二〇一九年 八
しおりを挟む「どうだ、嘘だと思いたいかい? でももう昔のように、これが夢だという判断は下せない。きみにとっていま起こっていることは全てひとつづきの現実なのだからね」
わたしは勝手に発せられる言葉の合間に空気を吸い込み、苦しさを紛らわす。わたしの言葉は、もう完全に中路シュウサクのものになってしまっていた。
「苦しいかい。苦しいだろう。でもこれはひとつの儀式なんだ。きみは耐え抜いて、次の段階に進まなくてはならない。そう、天使と悪魔に与えられた悲しき運命なのさ」
喘鳴。
もう懸命の息継ぎも続きそうにない。
すると倒れ込んでいた体が勝手に動き出し、わたしは強制的に立ち上がった。
激しく咽せる。
喉に一点だけ痛みを感じて、それを吐き出すように咳が出る。
何度も、何度も咳き込む。
息ができない。
粘っこい胃液がせり上がり、内臓に含まれた空気が噫となって口から出ようとする。
血の味。
咳の音が、臓器を体外に吐き出そうとするようなひゅうっ、ひゅうっ、という音に変わる。
その間隙に口から血が噴き出す。
——そうだ、そうすればきみは向こう側に行けるんだよ。
中路シュウサクはそう言うと、わたしの意識から徐々に消えていった。
いや、違う。わたしの意識と、同期したのだ。
*
「いったい、どういうことなんだ」
駆けつけた捜査班は、宙吊りになった岬の死体を前にして、ただ愕然とするほかなかった。
「椅子にロープがくくりつけられてる。ドアが開いた時椅子が倒れて首が絞まる仕組みになってたってことか。他殺の可能性が濃厚だ」
「でも、いったい誰が、なんのために?」
「それは……」
頭を抱える警官たち。
当然だ。この謎が解けることはない。
そこにわたしの死体があれば少しは違ったろう——しかし、それはどこにもないのだ。
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