ラヴィ

山根利広

文字の大きさ
上 下
16 / 18

二〇一九年 八

しおりを挟む


「どうだ、嘘だと思いたいかい? でももう昔のように、これが夢だという判断は下せない。きみにとっていま起こっていることは全てひとつづきの現実なのだからね」

 わたしは勝手に発せられる言葉の合間に空気を吸い込み、苦しさを紛らわす。わたしの言葉は、もう完全に中路シュウサクのものになってしまっていた。

「苦しいかい。苦しいだろう。でもこれはひとつの儀式なんだ。きみは耐え抜いて、次の段階に進まなくてはならない。そう、天使と悪魔に与えられた悲しき運命なのさ」

 喘鳴。

 もう懸命の息継ぎも続きそうにない。

 すると倒れ込んでいた体が勝手に動き出し、わたしは強制的に立ち上がった。

 激しく咽せる。

 喉に一点だけ痛みを感じて、それを吐き出すように咳が出る。

 何度も、何度も咳き込む。

 息ができない。

 粘っこい胃液がせり上がり、内臓に含まれた空気が噫となって口から出ようとする。


 血の味。


 咳の音が、臓器を体外に吐き出そうとするようなひゅうっ、ひゅうっ、という音に変わる。

 その間隙に口から血が噴き出す。


 ——そうだ、そうすればきみは向こう側に行けるんだよ。


 中路シュウサクはそう言うと、わたしの意識から徐々に消えていった。




 いや、違う。わたしの意識と、同期したのだ。











「いったい、どういうことなんだ」

 駆けつけた捜査班は、宙吊りになった岬の死体を前にして、ただ愕然とするほかなかった。

「椅子にロープがくくりつけられてる。ドアが開いた時椅子が倒れて首が絞まる仕組みになってたってことか。他殺の可能性が濃厚だ」

「でも、いったい誰が、なんのために?」

「それは……」



 頭を抱える警官たち。

 当然だ。この謎が解けることはない。


 そこにわたしの死体があれば少しは違ったろう——しかし、それはどこにもないのだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

機織姫

ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

八尺様

ユキリス
ホラー
ヒトでは無いナニカ

【完結済】僕の部屋

野花マリオ
ホラー
僕の部屋で起きるギャグホラー小説。 1話から8話まで移植作品ですが9話以降からはオリジナルリメイクホラー作話として展開されます。

感染した世界で~Second of Life's~

霧雨羽加賀
ホラー
世界は半ば終わりをつげ、希望という言葉がこの世からなくなりつつある世界で、いまだ希望を持ち続け戦っている人間たちがいた。 物資は底をつき、感染者のはびこる世の中、しかし抵抗はやめない。 それの彼、彼女らによる、感染した世界で~終わりの始まり~から一年がたった物語......

#彼女を探して・・・

杉 孝子
ホラー
 佳苗はある日、SNSで不気味なハッシュタグ『#彼女を探して』という投稿を偶然見かける。それは、特定の人物を探していると思われたが、少し不気味な雰囲気を醸し出していた。日が経つにつれて、そのタグの投稿が急増しSNS上では都市伝説の話も出始めていた。

処理中です...