ラヴィ

山根利広

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二〇一九年 四

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 自殺した星澤が、まだ彼のクラスに「亡霊」として存在している、という前提で捜査を進めてほしい、というわたしの提言は、課長をはじめ多くの同僚に否定されたが、岬はわたしを擁護してくれた。そのおかげで、その線で捜査を続行することができそうだった。

 わたしはこの事件に、あらゆる手段を行使してでも終止符を打たなければならなかった。あまりにも、わたしのケースと類似している点が多すぎるからだ。

 ——七年前。七年、七年……

 着替えてから署を出て、自宅に向かっている途中、あの事件と今回の事件のブランクのことを考えていた。すると、脳内に遠い昔本で読んだフレーズが浮かび上がってきた。

 ——人間の体の細胞は、約七年ですべて新しい別の細胞に変わる。

 つまりわたしは、あの時とはまったく別の自分になっているのだろうか? だから怖がりじゃなくなった? そこまで考え至ったところで、わたしは目を閉じた。それとこれとは別だ。なぜならわたしは、七年前の記憶をしっかり覚えているのだから。

 随分と中路シュウサクの亡霊には苦しめられた。彼の影を何度も幻視したり、聞こえるはずのない声を聞いたり。病院にも行ったが薬でどうにかなるような生やさしいものではなかった。どうにもならない時には鎮静剤を打ってひたすら意識を消して眠ったものだ。

 不調は長く続いて通学が困難になったが、高校卒業程度認定試験を受けて、高校を出たことにした。その頃から体調も少しは落ち着き、これまでしていなかった勉強をしたいという気も旺盛になった。大学に入り、警察官になる道を選んだ。卒業する頃にはもう、あの影のことは忘れてしまうほどに心身ともに健康になった。

 アパートの暗証番号を押す。少しのろいエレベーターが降りてきて、わたしを上階に運んだ。

 自分の部屋に戻って、とりあえずシャワーを浴びに行く。熱めの湯が冷えた身体をジンと温める。

 湯気が立ちのぼる風呂場を出ると、すぐ洗面所がある。くもった鏡を右手で擦ると、上半身がそこにうつし出された。わたしは鏡を覗き込み、わたしがわたしであることを確認する。それから左手を自らの乳房に当てる。右手は身体の下部に運ぶ。一日の疲れを癒すためか、いつの間にかそれが慣習になっていた。

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