29 / 30
10月22日
しおりを挟む
目を覚ますと、人混みの中に居た。激しい頭痛と吐き気がする。
酷い揺れが、乗り物の中であると理解させた。
直ぐに昨日の一件を思い出す。
見つかって腕を掴まれ一応抵抗を試みた物の、体力が既に限界値にあったらしく、数分後に意識を無くしてしまった。
どのくらいこの中に居たかは分からない。しかし待ち受けるものは変わらないのだ。
周りの人間も、諦めていて空ろな物、既に意識を失っている者、泣いている者、叫んでいる者、様々だったが、嬉々とした雰囲気だけは勿論の事どこにもなかった。
雰囲気が、更に現実感を深まらせる。
ルアンは沸きあがる悲しみをそのままに、嗚咽を鳴らして泣いた。
「下りろ!」
揺れが収まり、険悪な面をした男の号令で、乗り物内の人の波が動き出す。ルアンも流れに逆らわず、誘導されるがまま下りた。
向かう先は恐らく処刑場だ。
途中、何人か足を止め逃亡を試みていたが、鞭を振るわれ無理矢理連行されていった。
「続いてこの部屋に入れ!」
人々は俯いて、指定された部屋に入ってゆく。部屋内は暗く、辺りは殆ど見えなかった。
緊張で、肩も足も震えて縺れそうになる。内臓も締め付けられているような感覚に襲われ、既に息苦しい。
「お前らの死刑執行は明日だ! それまで猶予を与える! 以上!」
男は、唯一光を取り込んでいた扉を閉めた。扉は重い作りなのか、大きな音を立てて閉まった。
ルアンはその場に座りこみ、大きく息を吐いた。気は全く抜けない。
多分、死ぬまで緊張は取れない。
辺りも、大人数の人がいると思えないほど静かで、誰一人として発言しようとしなかった。
静寂の中、急に明るい光が見えた。太陽の優しい光ではなく、機械の放つ目を刺激する光だ。
四角に縁取られた光の中には、空っぽの部屋が移されていた。
それがテレビで、処刑の中継をしているのだと分かった。多分、ここに居る人間は全員理解した筈だ。
これから行われる処刑を、放送するのだ。
それを明日に控えた人間に見せるなど、恐怖を煽ろうとしている魂胆が見え見えだ。
しかし、分かっていても回避できないのが現実だ。
恐怖に震え、表情を固くして入ってくる人々が見え始めた。ルアンは、幼い少女をメイカに重ね、眉を顰めた。
見たくないと画面から目を逸らそうとした時、白いマフラーが過ぎった。
ニーオが群れの中に居たのだ。なにやら口元が動き、何かを語っている。
じっと見詰めていると、それが同じ語句を繰り返して居る事に気付いた。短い、たった3文字の単語。
¨ごめん¨¨ごめん¨¨ごめん¨
ルアンは、その謝罪が何を意味しているか分からなかった。だが、意味などどうでも良かった。
「………………やめて」
目の前、画面越しに、ずっと自分を助けてくれた、励ましてくれた仲間が居る。
一緒に未来を夢見た仲間だ。一緒だから頑張って来れたのに。
「………………お願い、やめて……」
空気の抜ける音が、響きだした。
ルアンは、大音量で流される悲痛な叫びを、耳を固く塞ぎ目を瞑る事で遮ろうと試みた。
だがそれは出来ず、少し小さくなった音が完全に消える頃、薄く目を開くと先ほどまで生きていた人々は全員死んでいた。
その中に、ニーオも居た。
酷い揺れが、乗り物の中であると理解させた。
直ぐに昨日の一件を思い出す。
見つかって腕を掴まれ一応抵抗を試みた物の、体力が既に限界値にあったらしく、数分後に意識を無くしてしまった。
どのくらいこの中に居たかは分からない。しかし待ち受けるものは変わらないのだ。
周りの人間も、諦めていて空ろな物、既に意識を失っている者、泣いている者、叫んでいる者、様々だったが、嬉々とした雰囲気だけは勿論の事どこにもなかった。
雰囲気が、更に現実感を深まらせる。
ルアンは沸きあがる悲しみをそのままに、嗚咽を鳴らして泣いた。
「下りろ!」
揺れが収まり、険悪な面をした男の号令で、乗り物内の人の波が動き出す。ルアンも流れに逆らわず、誘導されるがまま下りた。
向かう先は恐らく処刑場だ。
途中、何人か足を止め逃亡を試みていたが、鞭を振るわれ無理矢理連行されていった。
「続いてこの部屋に入れ!」
人々は俯いて、指定された部屋に入ってゆく。部屋内は暗く、辺りは殆ど見えなかった。
緊張で、肩も足も震えて縺れそうになる。内臓も締め付けられているような感覚に襲われ、既に息苦しい。
「お前らの死刑執行は明日だ! それまで猶予を与える! 以上!」
男は、唯一光を取り込んでいた扉を閉めた。扉は重い作りなのか、大きな音を立てて閉まった。
ルアンはその場に座りこみ、大きく息を吐いた。気は全く抜けない。
多分、死ぬまで緊張は取れない。
辺りも、大人数の人がいると思えないほど静かで、誰一人として発言しようとしなかった。
静寂の中、急に明るい光が見えた。太陽の優しい光ではなく、機械の放つ目を刺激する光だ。
四角に縁取られた光の中には、空っぽの部屋が移されていた。
それがテレビで、処刑の中継をしているのだと分かった。多分、ここに居る人間は全員理解した筈だ。
これから行われる処刑を、放送するのだ。
それを明日に控えた人間に見せるなど、恐怖を煽ろうとしている魂胆が見え見えだ。
しかし、分かっていても回避できないのが現実だ。
恐怖に震え、表情を固くして入ってくる人々が見え始めた。ルアンは、幼い少女をメイカに重ね、眉を顰めた。
見たくないと画面から目を逸らそうとした時、白いマフラーが過ぎった。
ニーオが群れの中に居たのだ。なにやら口元が動き、何かを語っている。
じっと見詰めていると、それが同じ語句を繰り返して居る事に気付いた。短い、たった3文字の単語。
¨ごめん¨¨ごめん¨¨ごめん¨
ルアンは、その謝罪が何を意味しているか分からなかった。だが、意味などどうでも良かった。
「………………やめて」
目の前、画面越しに、ずっと自分を助けてくれた、励ましてくれた仲間が居る。
一緒に未来を夢見た仲間だ。一緒だから頑張って来れたのに。
「………………お願い、やめて……」
空気の抜ける音が、響きだした。
ルアンは、大音量で流される悲痛な叫びを、耳を固く塞ぎ目を瞑る事で遮ろうと試みた。
だがそれは出来ず、少し小さくなった音が完全に消える頃、薄く目を開くと先ほどまで生きていた人々は全員死んでいた。
その中に、ニーオも居た。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
少年少女たちの日々
原口源太郎
恋愛
とある大国が隣国へ武力侵攻した。
世界の人々はその行為を大いに非難したが、争いはその二国間だけで終わると思っていた。
しかし、その数週間後に別の大国が自国の領土を主張する国へと攻め入った。それに対し、列国は武力でその行いを押さえ込もうとした。
世界の二カ所で起こった戦争の火は、やがてあちこちで燻っていた紛争を燃え上がらせ、やがて第三次世界戦争へと突入していった。
戦争は三年目を迎えたが、国連加盟国の半数以上の国で戦闘状態が続いていた。
大海を望み、二つの大国のすぐ近くに位置するとある小国は、激しい戦闘に巻き込まれていた。
その国の六人の少年少女も戦いの中に巻き込まれていく。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる