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10月20日
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ティニーの遺体が横たわる部屋から更に下の部屋、ラジオの音もない部屋で咳だけが響いていた。
日に日に冷たくなる冷気が、弱くなる体を容赦なく攻撃する。
ルアンは風邪を引いていた。症状から、ティニーの拗らせていた物と同じだと思われる。
このまま行けば、ティニー同様死ぬかもしれない。
ルアンは、咳をしながらも安らかだった。
ナイフを失った今、自宅にて処刑より楽に死ぬ方法が思い付かなかったからだ。
しかし、いざ死を目の前にすると、未来が惜しくなる。
もしかしたら訪れたかもしれない美しい未来を、見られない事が少しだけ惜しい。
本で読んだ世界に行ってみたかった。
街の景色を、もう一度自由に見てみたかった。
パン屋で普通に買い物をしたかった。
顔も知らない人達も一緒に、皆で笑い会いたかった。
メイカとティニーとニーオと自分と、4人で自由に駆け回りたかった。
幸せになりたかった。
いや、そんな贅沢はいらないから、普通に生きたかった。
普通に、生きたかった。
ルアンは霞む視界で、光も差さず埃の舞う世界を、時折噎せながら唯々見つめていた。
その頃、ニーオも自宅にいた。目の前には、ベッドに横になり眠る母親が居る。
大事な大事な母親だ。唯一の自分の家族で、希望に、生きる糧になってくれている人。ルアンで言う、ティニーみたいな人。
ニーオは最後に見た光景を思い出し、罪の意識に苛まれた。心の中で謝罪を唱える。
大切な人を、希望を、助けられなかった、救えなかった。
「よぉ、ニーオぉ」
厳つい声が、懺悔を阻んだ。
ニーオは椅子を揺らし立ち上がり、冷や汗を散らす。
「……な、なんだよ! 何でお前らがここに!」
自然と母親の前に立ち、防衛体制を取る。男は鋭い目付きでニーオを睨んだ。
「新しい情報渡せよ」
「も、もう無いって言ったじゃないか! いい加減解放してくれよ!」
男はニーオに近付くと、両腕をがっしりと掴む。
「……もう無いのか、じゃあお前らも終わりだな……おい、そこの女も連れて行け!」
「え、ちょ、話が違うじゃねぇかよ! 待てよ! やめろ!」
力の差を見せ付けられながら、抵抗も空しく引き摺られてゆく。母親も無理矢理叩き起こされ、拒否も考慮されず男に引っ張られてゆく。
「……仕方が無い、使えなくなったら死ぬだけだ」
「……でも、言う事を聞けば見逃してくれるって……」
「そんなのは嘘だと気付かなかったのか? まぁ良かったじゃないか、友達と一緒になれるぞ?」
ニーオの脳内は、処刑の場面でいっぱいになっていた。
このまま連れ去られたら、今度こそ待つのは死だけだ。
惨く、苦しい最期。
「……や、嫌だ……やめろ! やめろぉお!!」
日に日に冷たくなる冷気が、弱くなる体を容赦なく攻撃する。
ルアンは風邪を引いていた。症状から、ティニーの拗らせていた物と同じだと思われる。
このまま行けば、ティニー同様死ぬかもしれない。
ルアンは、咳をしながらも安らかだった。
ナイフを失った今、自宅にて処刑より楽に死ぬ方法が思い付かなかったからだ。
しかし、いざ死を目の前にすると、未来が惜しくなる。
もしかしたら訪れたかもしれない美しい未来を、見られない事が少しだけ惜しい。
本で読んだ世界に行ってみたかった。
街の景色を、もう一度自由に見てみたかった。
パン屋で普通に買い物をしたかった。
顔も知らない人達も一緒に、皆で笑い会いたかった。
メイカとティニーとニーオと自分と、4人で自由に駆け回りたかった。
幸せになりたかった。
いや、そんな贅沢はいらないから、普通に生きたかった。
普通に、生きたかった。
ルアンは霞む視界で、光も差さず埃の舞う世界を、時折噎せながら唯々見つめていた。
その頃、ニーオも自宅にいた。目の前には、ベッドに横になり眠る母親が居る。
大事な大事な母親だ。唯一の自分の家族で、希望に、生きる糧になってくれている人。ルアンで言う、ティニーみたいな人。
ニーオは最後に見た光景を思い出し、罪の意識に苛まれた。心の中で謝罪を唱える。
大切な人を、希望を、助けられなかった、救えなかった。
「よぉ、ニーオぉ」
厳つい声が、懺悔を阻んだ。
ニーオは椅子を揺らし立ち上がり、冷や汗を散らす。
「……な、なんだよ! 何でお前らがここに!」
自然と母親の前に立ち、防衛体制を取る。男は鋭い目付きでニーオを睨んだ。
「新しい情報渡せよ」
「も、もう無いって言ったじゃないか! いい加減解放してくれよ!」
男はニーオに近付くと、両腕をがっしりと掴む。
「……もう無いのか、じゃあお前らも終わりだな……おい、そこの女も連れて行け!」
「え、ちょ、話が違うじゃねぇかよ! 待てよ! やめろ!」
力の差を見せ付けられながら、抵抗も空しく引き摺られてゆく。母親も無理矢理叩き起こされ、拒否も考慮されず男に引っ張られてゆく。
「……仕方が無い、使えなくなったら死ぬだけだ」
「……でも、言う事を聞けば見逃してくれるって……」
「そんなのは嘘だと気付かなかったのか? まぁ良かったじゃないか、友達と一緒になれるぞ?」
ニーオの脳内は、処刑の場面でいっぱいになっていた。
このまま連れ去られたら、今度こそ待つのは死だけだ。
惨く、苦しい最期。
「……や、嫌だ……やめろ! やめろぉお!!」
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