ノイズノウティスの鐘の音に

有箱

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10月17日

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 深夜、ティニーの居る部屋で、椅子に座りラジオをかけながら自殺について黙想していたルアンだったが、またも途中で眠りに落ちてしまった。
 ラジオのノイズ交じりの不快な音声と、ティニーの喘鳴音だけが、静かな部屋に小さなざわつきを与える。
 椅子から立ちティニーの額に手を添えると、また一層の温度上昇を感じた。
「…………お兄ちゃん」
 薄く目を開いたティニーは、どこか不安げだ。 
「…………ティニー、辛い?」
「大丈夫、きっと直ぐ治るよ」
 弱った顔をしながらも、ティニーは不安を緩和しようとしてくれているのか、柔らかく微笑んだ。
「うん、頑張れ……」
 ティニーは、ルアンの目を凝視すると、急な懇願を向けてきた。
「……お兄ちゃん、本読み聞かせて」
 その為、ルアンは応えるべく、更に一つ地下へと下りよと階段に足をかけた。

 気を紛らわす為、ほぼ無いくらいの音量でラジオを流す。何を話しているか所々しかわからないが、掛け合いをしている事だけは分かった。
 ルアンは数冊の本の中から、またお気に入りの本に手をかけた。そして脇に挟み、ゆっくり階段を上がる。
 ――――不図、ラジオから気になる単語が流れた。
≪――処刑――ってのは――嘘――すよね――≫
≪――――知らないんでしょうねー≫
 ルアンはどうしても、不審極まりない単語の羅列が引っかかり見過ごせなかった。その場で立ち止まり、少しだけ音量を上げる。加えて周波数も調整する。
 すると、次ははっきりと音声を捉える事が出来た。
≪我々は、隣国が干渉してくる前に計画を遂行しなくてはなりませんからねぇ≫
 計画との単語が全滅計画を意味していると、ルアンには直ぐに分かった。聞いた当初の不安が蘇る。
≪労働力としてもほぼ価値がないですもんね、だったら早々に処刑してしまう方が確かに利口かもしれません≫
 ――――ルアンは唖然としていた。
 内容をそのまま受け止めるならば、耐え難い現実も受け入れる事になってしまう。
 ルアンは電源スイッチに手をかけながらも、直ぐには切れずに指先を震わせた。
 概念が、硝子の如く粉々に崩れだす。
≪やつらは害虫ですからね、捕まえたら即駆除するのが道理ってもんですよ≫
≪上手い事言いますねー。でも一部は労働後に処刑があると思っている奴らもいるとか≫
≪そうそう、それで泣き叫びながら死ん≫
 ルアンは、勢い良く電源を切っていた。
 ぽたぽたと、熱い雫が落ちる。止め処なく流れ出す。
 メイカはもう死んでいた。既に殺されていた。
 4人で生き残り乗り越える未来は、とっくに潰えていたのだ。
 ニーオが知ったらなんと言うだろう。泣くだろうか、怒るだろうか、死に走るだろうか。
 ――――もう何も分からない。考えたくない。
 ルアンは零れそうな嗚咽を、強く手の平で塞ぎ押し殺した。
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