ノイズノウティスの鐘の音に

有箱

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10月16日

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 更に日を跨いでも、ティニーの不調は和らがなかった。寧ろ悪化している。
「ティニーごめんね、水飲む?」
 ニーオはあの後、水を調達し戻ってきてくれた。どこからか入れ物まで入手して、数日分の水を用意してくれた。本当に、感謝しても仕切れないくらい有り難い。
「……うん、ニーオ君にありがとうって言わなきゃね……」
「うん、だから早く治してね」
 ティニーは、熱が下がらず辛そうだ。食事もまともに取れず、ずっと固いベッドに横になって震えている。

 もしかしたら、このまま死んでしまうかもしれない。
 ルアンは目を閉じ、辛そうに眠るティニーを瞳に写しながら何度目かの想像を脳裏に過ぎらせた。
 だが、首を横に振り否定する。
 もし現実になってしまったら、生きている意味を、希望を失ってしまう。
 死が怖いから、生にしがみ付くだけになってしまう。

 体の中が空っぽだ。それはいつもの事ながら、今日は特に空虚感を感じる。
 心と体は繋がっていると聞くが、それは本当かも知れない。無力感が強くなるほど、体が辛くなる。
 不意にノックが響いた。あの3回と2回のノックだ。
 直ぐに扉越しまで近付き、声を通す。
「ニーオ、来てくれたの?」
「あぁ、ティニーちゃんどうかなと思って」
「……うん、まだ治らない……」
 敢えて重症度は加えなかったが、ルアンの中で不安の渦が加速して行く。
「…………そうか」
「…………ティニーが居なくなったらどうしよう……」
 意図せずそう呟いていた。昨日から、何度も過ぎった憂慮だ。
「……お前何言い出すんだよ」
 咎められ、ルアンは笑声を含ませ返事した。扉越しで見えないのを良い事に、顔はそのままで。
「……はは、ごめん、こんな事言っても意味無いのにね……」
 だが、台詞と気持ちのずれが悟られたのか、ニーオからの返事は返らない。
 暫く空気が流れてから、ぽつりと、小さくもはっきりとした意見が投げられた。 
「………………もうさ、いっそ死ぬ?」
「え?」
「川に飛び込めば、処刑よりは楽に逝けると思うぜ」
 表情が想像出来るほどに、言葉に諦めと嘲笑が宿っている。だが、真剣さも垣間見える。
「……ニーオ……?」
「なんてな! 冗談! ティニーちゃん早く治ると良いな! じゃあ、様子聞きに来ただけだから行くな!」
 別れの挨拶を残し、ニーオの声は聞こえなくなった。
 基本的に無音で行動するため、本当に去ったかは定かではないが、恐らく帰ったと思われる。
 ルアンは、後方から小さく聞こえる苦しげな寝息を耳に、ニーオの提案をそっと巡らせた。
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