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10月9日
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先日のニーオとの話は、充実したものだった。時間の都合でお開きになったが、まだまだ詳しく聞きたいところだ。
「ほ、本当!? そうだったら嬉しいね!」
ティニーのキラキラ輝く瞳が、ルアンの目に映る。同じ気持ちであるルアンも、自然と笑みを湛えた。
「でしょ、もしかしたら解放の日は本当に来るかもしれないよ」
「そっかー、そっかー、もっと隣国さん頑張ってくれないかなー」
昨日の新情報は、いつもの物と少し違うジャンルの話だった。逃げ道ではなく、可能性の話だ。
ニーオの得た情報によると、今隣国は、この国の情勢に対し何やら口出しをはじめているらしい。
まだ行動にまでは至っていないが、その内動いて支配を終わらせてくれるかもしれない、との内容だった。
ニーオは間違いないと言っていたが、出任せの可能性は否めない。だがそれでも、明日に希望を据えるには十分だ。
「ティニー、もし解放されたら行きたい所に行こう、本で読んだ世界に行こう」
「うん、楽しみだね……!」
ルアンは心の底では叶わないと確信しながらも、叶えたい夢を口にしていた。
そのくらい、気持ちが浮き上がっている。
未来をこの手に掴める日が近い内に遣ってくるかもしれないと、逸らずには居られなかった。
話の続きをしに何時もの場所へ行くと、既に二人は来ていて何やら楽しげに会話していた。
「おはよう何の話?」
「おはよルアン、昨日の話メイカにもしてたんだ」
「そっか、僕も混ぜて」
「オッケー」
メイカもルアンと同じ気持ちなのか、嬉しそうに瞳を輝かせている。
「にしても嬉しい話よね、確か昔は仲良くしていたんでしょう? だから助けようとしてくれてるのかしら?」
温厚な人々で溢れかえっていたこの街は、隣の国からも愛されていた。長閑で何もない地であるのにも関わらず、時々観光客も来ていたほどだ。
「そうだと思う。早く助けて欲しいよな、いつ動くんだろう、早くしてくれなきゃ困るよな」
ニーオはというと、少し焦燥しているのが伺えた。体の弱い母親の事でも考えているのだろうか。
「そうね、一分でも一秒でも早く前みたいな街になって欲しいわ」
「そうだね、自由に街を行き来したいね」
壊れてしまうまでは、当たり前だと思っていた日々へ帰りたい。帰って、次は平凡な幸せを噛み締めて生きたい。
そうしてもっと友達を増やして、皆で笑い会うことが出来たら、どれほどの幸せが得られるだろうか。
「いたぞ!」
見知らぬ男の掛け声で、三人の間に緊張が走る。ばっと勢いよく声のほうを向くと、1人の軍人が鬼の形相でこちらを見ていた。
「に、逃げろ!」
ニーオの、小声ながらもはっきりした指示のお陰で凍り付いていた思考が解れ、直ぐに行動に移す事が出来た。
追いかけてくる男達を懸命に振り切り逃げる。その際目立つ場所に出てしまわないように、ルートも気にしながら必死に足を動かす。
縺れながら、躓きかけながら、何とか距離を離してゆく。
ここで捕まれば、待っているのは過重労働の末の苦しい処刑だ。それは絶対に嫌だ――――。
「きゃっ」
小さな悲鳴に体が硬直する。振り返り見ると、メイカが裾に躓き転んでいた。ニーオも唖然とし、停止した。
「……は、早く行って! 早く!」
その間にも、軍人は距離を詰めてゆく。
「大丈夫! 私は何があっても耐えるから! 絶対また会えるから!」
何とか立ち上がったメイカの腕が、軍人に掴まれた。抵抗しながらも、ルアンとニーオばかりを見ている。
「だから行って! 早く!!」
絶叫がこだまし、ルアンの心に刺さった。
今は逃げるしかない。ティニーを一人に出来ない。メイカの意思を無駄には出来ない。
苦しいけど、苦しくて仕方がないけど。
ルアンは立ち尽くすニーオの腕を引き、走り始めた。
「ちょ! おい! ルアン……!」
「……大丈夫、支配は終わる! また会えるよ……絶対会える……皆で生きて、乗り越えるんだろ……!」
ルアンの頬は涙に濡れていた。ニーオは絶句し、腕を解くと自力で走り出した。
後方からは、鞭がしなる鋭い音と、パチンと弾ける音が何度も聞こえていた。
「ほ、本当!? そうだったら嬉しいね!」
ティニーのキラキラ輝く瞳が、ルアンの目に映る。同じ気持ちであるルアンも、自然と笑みを湛えた。
「でしょ、もしかしたら解放の日は本当に来るかもしれないよ」
「そっかー、そっかー、もっと隣国さん頑張ってくれないかなー」
昨日の新情報は、いつもの物と少し違うジャンルの話だった。逃げ道ではなく、可能性の話だ。
ニーオの得た情報によると、今隣国は、この国の情勢に対し何やら口出しをはじめているらしい。
まだ行動にまでは至っていないが、その内動いて支配を終わらせてくれるかもしれない、との内容だった。
ニーオは間違いないと言っていたが、出任せの可能性は否めない。だがそれでも、明日に希望を据えるには十分だ。
「ティニー、もし解放されたら行きたい所に行こう、本で読んだ世界に行こう」
「うん、楽しみだね……!」
ルアンは心の底では叶わないと確信しながらも、叶えたい夢を口にしていた。
そのくらい、気持ちが浮き上がっている。
未来をこの手に掴める日が近い内に遣ってくるかもしれないと、逸らずには居られなかった。
話の続きをしに何時もの場所へ行くと、既に二人は来ていて何やら楽しげに会話していた。
「おはよう何の話?」
「おはよルアン、昨日の話メイカにもしてたんだ」
「そっか、僕も混ぜて」
「オッケー」
メイカもルアンと同じ気持ちなのか、嬉しそうに瞳を輝かせている。
「にしても嬉しい話よね、確か昔は仲良くしていたんでしょう? だから助けようとしてくれてるのかしら?」
温厚な人々で溢れかえっていたこの街は、隣の国からも愛されていた。長閑で何もない地であるのにも関わらず、時々観光客も来ていたほどだ。
「そうだと思う。早く助けて欲しいよな、いつ動くんだろう、早くしてくれなきゃ困るよな」
ニーオはというと、少し焦燥しているのが伺えた。体の弱い母親の事でも考えているのだろうか。
「そうね、一分でも一秒でも早く前みたいな街になって欲しいわ」
「そうだね、自由に街を行き来したいね」
壊れてしまうまでは、当たり前だと思っていた日々へ帰りたい。帰って、次は平凡な幸せを噛み締めて生きたい。
そうしてもっと友達を増やして、皆で笑い会うことが出来たら、どれほどの幸せが得られるだろうか。
「いたぞ!」
見知らぬ男の掛け声で、三人の間に緊張が走る。ばっと勢いよく声のほうを向くと、1人の軍人が鬼の形相でこちらを見ていた。
「に、逃げろ!」
ニーオの、小声ながらもはっきりした指示のお陰で凍り付いていた思考が解れ、直ぐに行動に移す事が出来た。
追いかけてくる男達を懸命に振り切り逃げる。その際目立つ場所に出てしまわないように、ルートも気にしながら必死に足を動かす。
縺れながら、躓きかけながら、何とか距離を離してゆく。
ここで捕まれば、待っているのは過重労働の末の苦しい処刑だ。それは絶対に嫌だ――――。
「きゃっ」
小さな悲鳴に体が硬直する。振り返り見ると、メイカが裾に躓き転んでいた。ニーオも唖然とし、停止した。
「……は、早く行って! 早く!」
その間にも、軍人は距離を詰めてゆく。
「大丈夫! 私は何があっても耐えるから! 絶対また会えるから!」
何とか立ち上がったメイカの腕が、軍人に掴まれた。抵抗しながらも、ルアンとニーオばかりを見ている。
「だから行って! 早く!!」
絶叫がこだまし、ルアンの心に刺さった。
今は逃げるしかない。ティニーを一人に出来ない。メイカの意思を無駄には出来ない。
苦しいけど、苦しくて仕方がないけど。
ルアンは立ち尽くすニーオの腕を引き、走り始めた。
「ちょ! おい! ルアン……!」
「……大丈夫、支配は終わる! また会えるよ……絶対会える……皆で生きて、乗り越えるんだろ……!」
ルアンの頬は涙に濡れていた。ニーオは絶句し、腕を解くと自力で走り出した。
後方からは、鞭がしなる鋭い音と、パチンと弾ける音が何度も聞こえていた。
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