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10月8日
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ラジオにより確認した正確な時刻を元に、ルアンはまたパン屋の前にいた。
ニーオにもらった情報から、玄関に鈴の取り付けられていない別のパン屋に来ている。
慣れたパン屋で無い分緊張感は足されるが、大切な妹ティニーの為だと言い聞かせて、竦む足を一歩ずつ動かす。
因みに、心配をかけまいと思い、ティニーにはニーオとメイカに会いに行くと嘘をついた。
午前10時、鐘が鳴り始める。ルアンは神経を研ぎ澄まし状況を見極めると、決死の覚悟でパン屋に侵入し、端からパンを無我で詰め込んだ。
前回の経験した店主の出現に対する恐怖を、ティニーの嬉しそうにパンを頬張る姿で塗り潰す。
生きるため、生き延びるため、共に生きて未来に行くため。堂々と街を歩ける、そんな未来を手に入れるため。
ルアンは息も音も恐怖も、全てを無に変えて、ただ成功だけに意識を集中し詰め込み続けた。
「ただいまティニー!」
「……お、おかえりお兄ちゃん」
息を切らしながらも満足気に扉を潜ってきたルアンを見て、ティニーは目をぱちぱちとさせた。
しかし、はち切れそうなほど膨らんだ鞄と、良い香りを察知して状況を悟る。
「……ありがとう、お兄ちゃん」
「好きなだけ食べて良いよ」
ルアンは、鞄をティニーの腿辺りにそっと乗せると直ぐに踵を返した。ティニーは鞄を両手で支える。
「どこか行くの?」
「ニーオとメイカのところ。心配させてたみたいだから、ちょっと行ってくる」
「そう、行ってらっしゃい、気をつけてね」
ティニーは淡い笑顔を浮かべて、小さく右手を振った。
「うん」
こうして何時もの道を歩いていると、出会う人間が減っているように思う。
3個目の曲がり角を曲がった先、いつもツンとした目で会議していた2人組みや、電柱の下、隠れていた少女など、思い返せばきりがない。
もしかしたら別の場所に拠点を移動しただけかもしれないが、捕まって働かされているのかもしれない。
そして、昨日も今日も思った事だが、急速に人が減っている気がする。
いや、気でありたいだけでそれは現実だ。
「おっ、ルアン、昨日はどうも!」
音もなく近付いたつもりだったが、気配までは隠せていなかったのかニーオが振り向き言いながら笑った。
その横に、メイカの姿はない。
「こちらこそ。ティニーが喜んでたよ。メイカは今日来てないんだね」
「来てねぇな」
どこか不満げな口調から、ルアンは思い出す。
「あ、そうだ、メイカとはどうなったの? いつもと変わりないように見えたんだけど。…………その前に言えた?」
告白すると堂々宣言されてから、その話をきちんと聞いていなかった。いや、別に聞かなくてもいい話かも知れないが。
「言った言った、ちゃんと告白した! メイカも嬉しいって言ってくれたさ、けどそれで終わった!」
「え、何で」
意外とあっさりした結末に、ルアンは呆気に取られてしまった。恋人の概念が崩れる。
「俺がそれでいいって言ったんだよ、とにかく伝えたかったんだ、気持ちを知って欲しかったんだよ」
「…………そう、意外」
ニーオはもっと、突っ走るタイプだと思っていた。
生きている間に、抱きしめあったりキスしたり、恋愛対象として好きな相手に求めたい事はたくさんありそうなのに。
「意外ってなんだ意外って、もう良いだろ。新情報だ! 今日のは凄いぞ、隣国が我が国の状況に疑問を抱いているらしい! それでだな、えっと……」
照れ隠しするニーオの火照りだした頬を見て、ルアンはメイカとの心よりの幸せを願った。
ニーオにもらった情報から、玄関に鈴の取り付けられていない別のパン屋に来ている。
慣れたパン屋で無い分緊張感は足されるが、大切な妹ティニーの為だと言い聞かせて、竦む足を一歩ずつ動かす。
因みに、心配をかけまいと思い、ティニーにはニーオとメイカに会いに行くと嘘をついた。
午前10時、鐘が鳴り始める。ルアンは神経を研ぎ澄まし状況を見極めると、決死の覚悟でパン屋に侵入し、端からパンを無我で詰め込んだ。
前回の経験した店主の出現に対する恐怖を、ティニーの嬉しそうにパンを頬張る姿で塗り潰す。
生きるため、生き延びるため、共に生きて未来に行くため。堂々と街を歩ける、そんな未来を手に入れるため。
ルアンは息も音も恐怖も、全てを無に変えて、ただ成功だけに意識を集中し詰め込み続けた。
「ただいまティニー!」
「……お、おかえりお兄ちゃん」
息を切らしながらも満足気に扉を潜ってきたルアンを見て、ティニーは目をぱちぱちとさせた。
しかし、はち切れそうなほど膨らんだ鞄と、良い香りを察知して状況を悟る。
「……ありがとう、お兄ちゃん」
「好きなだけ食べて良いよ」
ルアンは、鞄をティニーの腿辺りにそっと乗せると直ぐに踵を返した。ティニーは鞄を両手で支える。
「どこか行くの?」
「ニーオとメイカのところ。心配させてたみたいだから、ちょっと行ってくる」
「そう、行ってらっしゃい、気をつけてね」
ティニーは淡い笑顔を浮かべて、小さく右手を振った。
「うん」
こうして何時もの道を歩いていると、出会う人間が減っているように思う。
3個目の曲がり角を曲がった先、いつもツンとした目で会議していた2人組みや、電柱の下、隠れていた少女など、思い返せばきりがない。
もしかしたら別の場所に拠点を移動しただけかもしれないが、捕まって働かされているのかもしれない。
そして、昨日も今日も思った事だが、急速に人が減っている気がする。
いや、気でありたいだけでそれは現実だ。
「おっ、ルアン、昨日はどうも!」
音もなく近付いたつもりだったが、気配までは隠せていなかったのかニーオが振り向き言いながら笑った。
その横に、メイカの姿はない。
「こちらこそ。ティニーが喜んでたよ。メイカは今日来てないんだね」
「来てねぇな」
どこか不満げな口調から、ルアンは思い出す。
「あ、そうだ、メイカとはどうなったの? いつもと変わりないように見えたんだけど。…………その前に言えた?」
告白すると堂々宣言されてから、その話をきちんと聞いていなかった。いや、別に聞かなくてもいい話かも知れないが。
「言った言った、ちゃんと告白した! メイカも嬉しいって言ってくれたさ、けどそれで終わった!」
「え、何で」
意外とあっさりした結末に、ルアンは呆気に取られてしまった。恋人の概念が崩れる。
「俺がそれでいいって言ったんだよ、とにかく伝えたかったんだ、気持ちを知って欲しかったんだよ」
「…………そう、意外」
ニーオはもっと、突っ走るタイプだと思っていた。
生きている間に、抱きしめあったりキスしたり、恋愛対象として好きな相手に求めたい事はたくさんありそうなのに。
「意外ってなんだ意外って、もう良いだろ。新情報だ! 今日のは凄いぞ、隣国が我が国の状況に疑問を抱いているらしい! それでだな、えっと……」
照れ隠しするニーオの火照りだした頬を見て、ルアンはメイカとの心よりの幸せを願った。
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