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10月7日
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ラジオから流れる演説は、今日も過激だ。元々いた国民に対して、あまりにも酷い表現が重ねられる。
だがブーイングは愚か、重ねられるのは賛同ばかりだ。
自分たちは、不必要な物として分類され淘汰される。ゴミのように箱に詰められて、虫のように残酷に殺される。
ルアンは昨日の恐怖が抜けず、家から出られないでいた。ティニーの居る二階へとあがってゆくのも気が進まない。
ただただ、呆然と最期の一時を想像していると、柔らかな声が届いた。
「お兄ちゃんおはよう……?」
振り向くと心配そうに首を傾げ、様子を窺おうとしているティニーが立っていた。何時まで経ってもやってこない自分を気にし、様子を見に来たのだろう。
「おはよう、ごめんラジオ聞いてた」
ルアンは周波数を弄り、演説にわざとノイズをかけた。
「……そう」
「パン、そこのしかないけど食べてもいいよ。大丈夫、ちゃんと取りに行くから」
ルアンが指差した方を見ると、棚にパンが2つ置いてあった。その他は水以外何もなく、空間は広い。
「…………我慢するから、パン屋さん行かなくてもいいよ」
「ティニーは気にしなくても良いんだよ」
ルアンが平然を装い笑って見せたのも空しく、ティニーは悲しげな顔をしたままだった。
「……行かなくて、良いよ」
必死に本心を優先しようとしてくれるティニーにつられて、ルアンは耐え切れず笑顔を消してしまった。
「…………じゃあ、今日は止めるね。ごめん、明日は行くから……」
「…………嫌だったら無理しないでね……お水だけもらう……」
ティニーは水の入った瓶に直接口をつけると、一口だけ飲み浅く笑った。
鐘の音が、異様に精神を刺激する。今までも随分と苦しさを誘ってきたが、今日は気持ちが沈んでいるからか度合いが大きい。
部屋の中で、弱った体で聴く最期の鐘は、どんな音をしているのだろう。
きっと、とても悲しくて――――。
3回連続で、少し間が開いてまた2回繰り返して、戸が叩かれた。
「あっ、ニーオくんだよお兄ちゃん」
「そうだね、メイカも一緒かな」
「よっ、ティニーちゃんにルアン、来たぜー」
「私も一緒よ」
無力さと絶望感に苛まれた状態で二人を迎える事に少し抵抗はあったが、ティニーが嬉しそうにしていたため直ぐに振り切った。
「お兄ちゃん開けるね」
「うん」
ティニーが静かに戸を開くと、満面の笑顔の二人が立っていた。
「えっ、ニーオくんどうしたの……!」
ティニーは――ルアンが見た時よりも引いていたが、目の上と頬の腫れに驚いている。服の血は洗われてか薄まっていた為、あまり気にならなかった様子だ。
「派手に転んだ、ワイルドだろ」
「……え、あ、うん、大変だったね?」
ティニーのきょとんとした円い目を見て、ニーオが笑う。釣られてメイカも笑った。
「とりあえず、入って」
促されて二人が入ると、扉が固く閉ざされた。
ニーオとティニーが他愛ない話で盛り上がっているのを見ながら、メイカとルアンも話をしていた。
「ティニーちゃん可愛いわね、ルアンとよく似てる」
「そうかな?」
「可愛いでしょ、妹って」
¨孤児¨との境遇を改めて思い出し答えを躊躇ったが、ここで無視してたり拒否しても不審だと判断し、正直な回答を出した。
「……うん」
「私の妹にしちゃいたいくらい」
しかし、メイカは意図を知らずか知った上でか、冗談染みた台詞と共に歯を見せて笑う。
「それは困るなぁ」
「良かった、いつものルアンで。入った時落ち込んでいるように見えたから、ちょっと心配したのよ」
無邪気すぎる笑顔のままで渡された切り返しに、ルアンは心が揺さ振られた。
目の前のメイカも、楽しそうに話すニーオも、いつも傍に居るティニーも、皆言い表せない不安を抱えながら生きているはずだ。
怖いのは、自分だけじゃない。
「……ごめん、ありがとう」
「ううん、頑張ろうね!」
ガッツポーズをしたメイカは言いたい事を言い終えたからか、ニーオとティニーの名を呼ぶと二人に向かって走り、纏めて抱きかかえていた。
ニーオとティニーの表情が一変したのが何だか面白くて、ルアンは自然と笑みを零していた。
だがブーイングは愚か、重ねられるのは賛同ばかりだ。
自分たちは、不必要な物として分類され淘汰される。ゴミのように箱に詰められて、虫のように残酷に殺される。
ルアンは昨日の恐怖が抜けず、家から出られないでいた。ティニーの居る二階へとあがってゆくのも気が進まない。
ただただ、呆然と最期の一時を想像していると、柔らかな声が届いた。
「お兄ちゃんおはよう……?」
振り向くと心配そうに首を傾げ、様子を窺おうとしているティニーが立っていた。何時まで経ってもやってこない自分を気にし、様子を見に来たのだろう。
「おはよう、ごめんラジオ聞いてた」
ルアンは周波数を弄り、演説にわざとノイズをかけた。
「……そう」
「パン、そこのしかないけど食べてもいいよ。大丈夫、ちゃんと取りに行くから」
ルアンが指差した方を見ると、棚にパンが2つ置いてあった。その他は水以外何もなく、空間は広い。
「…………我慢するから、パン屋さん行かなくてもいいよ」
「ティニーは気にしなくても良いんだよ」
ルアンが平然を装い笑って見せたのも空しく、ティニーは悲しげな顔をしたままだった。
「……行かなくて、良いよ」
必死に本心を優先しようとしてくれるティニーにつられて、ルアンは耐え切れず笑顔を消してしまった。
「…………じゃあ、今日は止めるね。ごめん、明日は行くから……」
「…………嫌だったら無理しないでね……お水だけもらう……」
ティニーは水の入った瓶に直接口をつけると、一口だけ飲み浅く笑った。
鐘の音が、異様に精神を刺激する。今までも随分と苦しさを誘ってきたが、今日は気持ちが沈んでいるからか度合いが大きい。
部屋の中で、弱った体で聴く最期の鐘は、どんな音をしているのだろう。
きっと、とても悲しくて――――。
3回連続で、少し間が開いてまた2回繰り返して、戸が叩かれた。
「あっ、ニーオくんだよお兄ちゃん」
「そうだね、メイカも一緒かな」
「よっ、ティニーちゃんにルアン、来たぜー」
「私も一緒よ」
無力さと絶望感に苛まれた状態で二人を迎える事に少し抵抗はあったが、ティニーが嬉しそうにしていたため直ぐに振り切った。
「お兄ちゃん開けるね」
「うん」
ティニーが静かに戸を開くと、満面の笑顔の二人が立っていた。
「えっ、ニーオくんどうしたの……!」
ティニーは――ルアンが見た時よりも引いていたが、目の上と頬の腫れに驚いている。服の血は洗われてか薄まっていた為、あまり気にならなかった様子だ。
「派手に転んだ、ワイルドだろ」
「……え、あ、うん、大変だったね?」
ティニーのきょとんとした円い目を見て、ニーオが笑う。釣られてメイカも笑った。
「とりあえず、入って」
促されて二人が入ると、扉が固く閉ざされた。
ニーオとティニーが他愛ない話で盛り上がっているのを見ながら、メイカとルアンも話をしていた。
「ティニーちゃん可愛いわね、ルアンとよく似てる」
「そうかな?」
「可愛いでしょ、妹って」
¨孤児¨との境遇を改めて思い出し答えを躊躇ったが、ここで無視してたり拒否しても不審だと判断し、正直な回答を出した。
「……うん」
「私の妹にしちゃいたいくらい」
しかし、メイカは意図を知らずか知った上でか、冗談染みた台詞と共に歯を見せて笑う。
「それは困るなぁ」
「良かった、いつものルアンで。入った時落ち込んでいるように見えたから、ちょっと心配したのよ」
無邪気すぎる笑顔のままで渡された切り返しに、ルアンは心が揺さ振られた。
目の前のメイカも、楽しそうに話すニーオも、いつも傍に居るティニーも、皆言い表せない不安を抱えながら生きているはずだ。
怖いのは、自分だけじゃない。
「……ごめん、ありがとう」
「ううん、頑張ろうね!」
ガッツポーズをしたメイカは言いたい事を言い終えたからか、ニーオとティニーの名を呼ぶと二人に向かって走り、纏めて抱きかかえていた。
ニーオとティニーの表情が一変したのが何だか面白くて、ルアンは自然と笑みを零していた。
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