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10月5日
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ルアンは、棚に並べておいたパンが少なくなっている事に気付き、密かに溜め息を吐いていた。
大量に取ってきていても、朝昼晩と食べていれば直ぐになくなってしまう。
ルアンが食事自体を抜いてみたり、一つを分割してみたりしてもそれは避けられなかった。
因みに、節約している事はティニーには秘密だ。
また明日、食糧補給をしにパン屋に盗みに入ろう、と決めた。
「おはようティニー、調子どう?」
「おはようお兄ちゃん、随分いいよ、ありがとう」
ベッドに横になっていたティニーの顔色は随分と血色を取り戻していて、桃色に色付いた頬が可愛らしい。
「良かった、じゃあ今日は出かけてこようかな、ニーオとメイカに治ったって伝えてくるよ」
今日ではなく、明日に食糧補給する理由はこれだ。まず心配しているであろうニーオとメイカに、ティニーの無事を伝えたいと思ったのだ。
「本当? ありがとう。行ってらっしゃい、気をつけてね」
「行って来ます」
ニーオに教えてもらった道を行き、何時もの場所に着いたが、二人は居らずルアンは一番乗りだった。
少し逸りすぎたかと一人笑っていると、遅れてメイカがやって来た。
「おはようルアン、今日はニーオ居ないのね」
「うん、まだ来てないよ。それよりティニー元気になったから遊びに来てよ」
「わぁ本当!? 行きたいわ! 明日とかどうかしら!」
メイカの、自分ごとのように喜ぶ姿がとても嬉しい。
支配され、明日さえも保障されないこの街において、明るく居られるメイカの強さに惚れ惚れとしてしまうのはよく分かる。
「明日ね、僕はいないけどいいよ」
「食料調達?」
最早、外出イコール食料調達は定義である。それか水の補充かの二択かどちらかの場合が多い。
情報交換に至っては、ルアンは元々別の人間とあまりしないタイプなので除外だ。
「うん、私もそろそろしないと不味いわね……。そう言えばね10番通りのパン屋さんの――」
メイカとニーオが居れば、大体の有力情報は取得できてしまうから必要が無いのだ。
とても良い友人に恵まれたと、日頃から感謝している。
「よぉ! 二人とも!」
「ニー…………」
振り向きニーオの容姿を目にした瞬間、ルアンは声を失ってしまった。
本人はにかにかと笑い平気そうにしているが、左目の上や頬が腫れていて、服には何箇所か血が滲んでいた。
「ど、どうしたのよ、ニーオ!」
焦り困惑するメイカと絶句するルアンとは裏腹に、ニーオはまるで戯言のように笑っている。
「まぁちょっと追っかけられてさー、逃げた」
「大丈夫なの!?」
「この通り! ちょっと盛大に転んだだけ!」
「どっちよ!」
メイカの突っ込みに笑いながら、無事を見せ付けるよう体を自在に動かしてみせる。
ルアンは目に映る現実に、悲愴な面持ちを浮かべてしまった。
当たり前の日々が無くなってしまう恐怖が、胸を満たして何も言えなくなってしまう。
「ルアン大丈夫だって。生きて乗り越えようぜ、ティニーちゃんも一緒に、皆で」
しかし、一番恐怖に飲まれているはずのニーオが一番強い気持ちで立ち向かおうとする姿勢を見せた為、ルアンは情けなくなり直ぐに悲壮感を捨てた。
「うん、絶対に生きよう」
「それ、私が言ったやつじゃないの」
「折角だから皆で共有しようと思ってな!」
「…………にしても痛そうね……」
ニーオの明るさにメイカも感化されたのか、いつも通りの笑顔に戻っていた。
腫れた頬を軽く突いては、やめろと拒否するニーオを見てまた笑う。
恐らく、傷だらけでもニーオがここに居てくれた事を喜んでいるのだろう。ルアンも同じだ。
きっと、解放の日は来る。
それまでティニーとニーオとメイカと自分で生きて、何があっても生き残って、綺麗な未来を見られたら。
ルアンは、夢物語を現実として想像する事に困難を覚えながらも、まだ見ぬ景色を脳裏に描いた。
大量に取ってきていても、朝昼晩と食べていれば直ぐになくなってしまう。
ルアンが食事自体を抜いてみたり、一つを分割してみたりしてもそれは避けられなかった。
因みに、節約している事はティニーには秘密だ。
また明日、食糧補給をしにパン屋に盗みに入ろう、と決めた。
「おはようティニー、調子どう?」
「おはようお兄ちゃん、随分いいよ、ありがとう」
ベッドに横になっていたティニーの顔色は随分と血色を取り戻していて、桃色に色付いた頬が可愛らしい。
「良かった、じゃあ今日は出かけてこようかな、ニーオとメイカに治ったって伝えてくるよ」
今日ではなく、明日に食糧補給する理由はこれだ。まず心配しているであろうニーオとメイカに、ティニーの無事を伝えたいと思ったのだ。
「本当? ありがとう。行ってらっしゃい、気をつけてね」
「行って来ます」
ニーオに教えてもらった道を行き、何時もの場所に着いたが、二人は居らずルアンは一番乗りだった。
少し逸りすぎたかと一人笑っていると、遅れてメイカがやって来た。
「おはようルアン、今日はニーオ居ないのね」
「うん、まだ来てないよ。それよりティニー元気になったから遊びに来てよ」
「わぁ本当!? 行きたいわ! 明日とかどうかしら!」
メイカの、自分ごとのように喜ぶ姿がとても嬉しい。
支配され、明日さえも保障されないこの街において、明るく居られるメイカの強さに惚れ惚れとしてしまうのはよく分かる。
「明日ね、僕はいないけどいいよ」
「食料調達?」
最早、外出イコール食料調達は定義である。それか水の補充かの二択かどちらかの場合が多い。
情報交換に至っては、ルアンは元々別の人間とあまりしないタイプなので除外だ。
「うん、私もそろそろしないと不味いわね……。そう言えばね10番通りのパン屋さんの――」
メイカとニーオが居れば、大体の有力情報は取得できてしまうから必要が無いのだ。
とても良い友人に恵まれたと、日頃から感謝している。
「よぉ! 二人とも!」
「ニー…………」
振り向きニーオの容姿を目にした瞬間、ルアンは声を失ってしまった。
本人はにかにかと笑い平気そうにしているが、左目の上や頬が腫れていて、服には何箇所か血が滲んでいた。
「ど、どうしたのよ、ニーオ!」
焦り困惑するメイカと絶句するルアンとは裏腹に、ニーオはまるで戯言のように笑っている。
「まぁちょっと追っかけられてさー、逃げた」
「大丈夫なの!?」
「この通り! ちょっと盛大に転んだだけ!」
「どっちよ!」
メイカの突っ込みに笑いながら、無事を見せ付けるよう体を自在に動かしてみせる。
ルアンは目に映る現実に、悲愴な面持ちを浮かべてしまった。
当たり前の日々が無くなってしまう恐怖が、胸を満たして何も言えなくなってしまう。
「ルアン大丈夫だって。生きて乗り越えようぜ、ティニーちゃんも一緒に、皆で」
しかし、一番恐怖に飲まれているはずのニーオが一番強い気持ちで立ち向かおうとする姿勢を見せた為、ルアンは情けなくなり直ぐに悲壮感を捨てた。
「うん、絶対に生きよう」
「それ、私が言ったやつじゃないの」
「折角だから皆で共有しようと思ってな!」
「…………にしても痛そうね……」
ニーオの明るさにメイカも感化されたのか、いつも通りの笑顔に戻っていた。
腫れた頬を軽く突いては、やめろと拒否するニーオを見てまた笑う。
恐らく、傷だらけでもニーオがここに居てくれた事を喜んでいるのだろう。ルアンも同じだ。
きっと、解放の日は来る。
それまでティニーとニーオとメイカと自分で生きて、何があっても生き残って、綺麗な未来を見られたら。
ルアンは、夢物語を現実として想像する事に困難を覚えながらも、まだ見ぬ景色を脳裏に描いた。
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