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10月4日
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風邪が重くならない内に、と夜が明けても付きっ切りでルアンがティニーの看病に当たっている頃、メイカとニーオは横並びで話していた。
「10番通りのパン屋の裏道がさ、閉鎖されたらしい」
「へぇ、そうなの、あそこは結構使える道だったから残念ね……」
周りはとても静かだ。
たった10日前、どこかにあったはずの音が次々と消えて言っている気がして、ニーオは妙な不安感に駆られた。まだ何人も残っている仲間は知っているが、それでも着々と数を減らしている。
心なしか、横にいるメイカも少し不安げに見えた。
「ニーオ」
いつもの明るめの口調で名が呼ばれ、ニーオもいつも通りの笑顔で向き合う。
「なに? どした?」
「ねぇ、本当に何もいいの?」
「えっ」
だが尋ねられた内容に、直ぐに顔から火を噴き出す。脳内には、数日前の告白シーンが過ぎった。
「…………それか―急だなー、良いよ良いよ、本当に言いたかっただけだからさ」
「…………そう、なら良いんだけど」
メイカは苦笑いするニーオを見詰めながらも、真情を顰め、いつもの明るい笑顔を放った。
――――その時、重い重い鐘の音が二人の耳を突いた。ノイズ塗れの五月蝿い鐘が、反響して町中を揺らす。
今、知らないどこかの誰かが、だが仲間である誰かが苦しんで死んでいっている。二人の脳内は悲しみに包まれた。
鐘が止むと、必然的に静寂が過ぎる。
「ニーオ」
だが、メイカがそれを切り裂いた。
「えっ、終わったんじゃないの?」
「絶対、生きて乗り越えようね」
傷ついたボロボロの左手を、直ぐ横の、似たようなニーオの右手の上に重ねる。
「もちろん皆で、ね」
ニーオは目の前のメイカの笑顔を焼き付けながら、ルアンやティニーの笑顔を浮かべて自身もはにかんだ。
夜間、自身が情報として得た安全性の高い裏道を使用し帰宅するニーオの背後に、そっと近付く黒い影があった。
その手には鞭があった。
「10番通りのパン屋の裏道がさ、閉鎖されたらしい」
「へぇ、そうなの、あそこは結構使える道だったから残念ね……」
周りはとても静かだ。
たった10日前、どこかにあったはずの音が次々と消えて言っている気がして、ニーオは妙な不安感に駆られた。まだ何人も残っている仲間は知っているが、それでも着々と数を減らしている。
心なしか、横にいるメイカも少し不安げに見えた。
「ニーオ」
いつもの明るめの口調で名が呼ばれ、ニーオもいつも通りの笑顔で向き合う。
「なに? どした?」
「ねぇ、本当に何もいいの?」
「えっ」
だが尋ねられた内容に、直ぐに顔から火を噴き出す。脳内には、数日前の告白シーンが過ぎった。
「…………それか―急だなー、良いよ良いよ、本当に言いたかっただけだからさ」
「…………そう、なら良いんだけど」
メイカは苦笑いするニーオを見詰めながらも、真情を顰め、いつもの明るい笑顔を放った。
――――その時、重い重い鐘の音が二人の耳を突いた。ノイズ塗れの五月蝿い鐘が、反響して町中を揺らす。
今、知らないどこかの誰かが、だが仲間である誰かが苦しんで死んでいっている。二人の脳内は悲しみに包まれた。
鐘が止むと、必然的に静寂が過ぎる。
「ニーオ」
だが、メイカがそれを切り裂いた。
「えっ、終わったんじゃないの?」
「絶対、生きて乗り越えようね」
傷ついたボロボロの左手を、直ぐ横の、似たようなニーオの右手の上に重ねる。
「もちろん皆で、ね」
ニーオは目の前のメイカの笑顔を焼き付けながら、ルアンやティニーの笑顔を浮かべて自身もはにかんだ。
夜間、自身が情報として得た安全性の高い裏道を使用し帰宅するニーオの背後に、そっと近付く黒い影があった。
その手には鞭があった。
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