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10月3日
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ティニーの咳が酷くなっているのが、朝目覚めて直ぐに分かった。
日頃から極力音を殺している為、ティニーも大分堪えているようだったが、堪えきれない辛そうな咳が零れてしまっている。
寒気からか、時々体を震わせる様子も見える。
手を宛てて体温を確認する限り、大して熱はないように思えるが、それでも心配は深まるばかりだ。
「……ティニー、ちょっと上から被れる物探してくるね」
「えっ、やだ、お兄ちゃん行かないで……!」
ティニーは勢いよく起き上がると、出口に向かおうと立ち上がったルアンの腕にしがみ付いて来た。その目は涙目だ。
「…………ごめん、行かないよ……行かない」
ルアンは、不安感を露にするティニーの小さな体を抱きしめた。温度を伝えるように、ぎゅっと密着する。
―――だがその時、また上階に入り込む人の気配を察知した。しかし、異常なまでに足音が小さい。
「お、お兄ちゃん」
ティニーの抱く力が、強まる。
「…………いつもの人達じゃない……って事は……」
だが、ルアンの冷静な推理を聞き、上階の人物が誰か悟ったティニーは力を弱めた。
暫くすると、隠し扉の向こう側から、変わったテンポでノックが聞こえた。3回連続で叩いてから、少し間を開き2回叩く仕方だ。
「…………やっぱり」
このノックは暗号だ。誰か知らせる為の暗号。小さな声が、扉を隔てて聞こえる。
「入っていいかー?」
「ニーオくんだ……!」
扉の向こうの声の主は、ニーオだった。
ニーオはルアンとティニーの隠れ家を知っていて、時々外出できないティニーにこうして会いに来てくれる事があった。
ティニーはベッドから下り、扉の前に張り付く。
「ニーオ君、嬉しいけど今風邪引いてるの……」
「あ、そうなんだ、大丈夫か……?」
「大丈夫、ちょっと咳が出るくらいだよ」
扉越しに、少し遠くのルアンにも聞こえ辛いくらいの小声で言葉を交わす。
「無理するなよ、また見舞い持ってくるな」
「うん、ありがとう、待ってるね」
ルアンは、メイカとの出来事がどうなったか尋ねたかったが、今はティニーを優先し、次会う時まで保留する事にした。
「ねぇ、私にも話させて……!」
「え、も、もしかしてメイカちゃん?」
「そうよ、会うのは始めてねティニーちゃん」
僅かに聞こえてくる声質の変化に予想を付けながら、ルアンも扉に近付いた。
「メイカちゃん、会いたかった……!」
「私も! ティニーちゃん可愛い声してるわね」
ルアンはメイカの存在に、二人が上手く行ったと何気なく悟った。
「ルアンもそこにいるの?」
「いるよ」
「また遊びに来るわね、私もお見舞い持ってくるわ」
そしてから、メイカの喜びを感じさせる語気に心を温める。きっとメイカは、ティニーの良い友達になってくれるだろう。
「ありがとう、良かったなティニー」
「じゃあ、声聞けてよかったよ、ルアンもティニーちゃんの風邪治ったらまたいつもの場所来いよなー、良い情報とか話教えてやるから」
「うん」
「またねティニーちゃん、ルアン」
二人の微笑ましい雰囲気を受け取り、張っていた気が少しだけ緩和された気分になった。
それはティニーも同じらしく、微かな微笑を浮かべている。
「……よし! 早く会いたいから、頑張って治すね! 」
急に意気込むと、ティニーは颯爽とベッドに潜り込み、体を丸めるとシーツを被った。
ルアンは、変化した雰囲気がとても可愛らしくて、くすくすと笑ってしまった。
日頃から極力音を殺している為、ティニーも大分堪えているようだったが、堪えきれない辛そうな咳が零れてしまっている。
寒気からか、時々体を震わせる様子も見える。
手を宛てて体温を確認する限り、大して熱はないように思えるが、それでも心配は深まるばかりだ。
「……ティニー、ちょっと上から被れる物探してくるね」
「えっ、やだ、お兄ちゃん行かないで……!」
ティニーは勢いよく起き上がると、出口に向かおうと立ち上がったルアンの腕にしがみ付いて来た。その目は涙目だ。
「…………ごめん、行かないよ……行かない」
ルアンは、不安感を露にするティニーの小さな体を抱きしめた。温度を伝えるように、ぎゅっと密着する。
―――だがその時、また上階に入り込む人の気配を察知した。しかし、異常なまでに足音が小さい。
「お、お兄ちゃん」
ティニーの抱く力が、強まる。
「…………いつもの人達じゃない……って事は……」
だが、ルアンの冷静な推理を聞き、上階の人物が誰か悟ったティニーは力を弱めた。
暫くすると、隠し扉の向こう側から、変わったテンポでノックが聞こえた。3回連続で叩いてから、少し間を開き2回叩く仕方だ。
「…………やっぱり」
このノックは暗号だ。誰か知らせる為の暗号。小さな声が、扉を隔てて聞こえる。
「入っていいかー?」
「ニーオくんだ……!」
扉の向こうの声の主は、ニーオだった。
ニーオはルアンとティニーの隠れ家を知っていて、時々外出できないティニーにこうして会いに来てくれる事があった。
ティニーはベッドから下り、扉の前に張り付く。
「ニーオ君、嬉しいけど今風邪引いてるの……」
「あ、そうなんだ、大丈夫か……?」
「大丈夫、ちょっと咳が出るくらいだよ」
扉越しに、少し遠くのルアンにも聞こえ辛いくらいの小声で言葉を交わす。
「無理するなよ、また見舞い持ってくるな」
「うん、ありがとう、待ってるね」
ルアンは、メイカとの出来事がどうなったか尋ねたかったが、今はティニーを優先し、次会う時まで保留する事にした。
「ねぇ、私にも話させて……!」
「え、も、もしかしてメイカちゃん?」
「そうよ、会うのは始めてねティニーちゃん」
僅かに聞こえてくる声質の変化に予想を付けながら、ルアンも扉に近付いた。
「メイカちゃん、会いたかった……!」
「私も! ティニーちゃん可愛い声してるわね」
ルアンはメイカの存在に、二人が上手く行ったと何気なく悟った。
「ルアンもそこにいるの?」
「いるよ」
「また遊びに来るわね、私もお見舞い持ってくるわ」
そしてから、メイカの喜びを感じさせる語気に心を温める。きっとメイカは、ティニーの良い友達になってくれるだろう。
「ありがとう、良かったなティニー」
「じゃあ、声聞けてよかったよ、ルアンもティニーちゃんの風邪治ったらまたいつもの場所来いよなー、良い情報とか話教えてやるから」
「うん」
「またねティニーちゃん、ルアン」
二人の微笑ましい雰囲気を受け取り、張っていた気が少しだけ緩和された気分になった。
それはティニーも同じらしく、微かな微笑を浮かべている。
「……よし! 早く会いたいから、頑張って治すね! 」
急に意気込むと、ティニーは颯爽とベッドに潜り込み、体を丸めるとシーツを被った。
ルアンは、変化した雰囲気がとても可愛らしくて、くすくすと笑ってしまった。
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