ノイズノウティスの鐘の音に

有箱

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9月29日

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 全滅計画の話が脳内で巡り、夢にまで見てしまった。
 自分が対象人物の一人として捕らわれ、ガスの充満した部屋に送られ死ぬシーンを何度も悪夢で見たが、夢だったと言えない日がいつか来てしまうと思うと体が震えてしまう。
 やはり、この話は胸中にしまっておくべきだろう。ニーオやメイカの、そしてティニーの恐怖を煽る訳にはいかない。
「おはようルアン、何か暗くね?」
 背後から気配も無く声をかけてきたのはニーオだった。寒そうに両手を擦り合わせている。
「あ、おはようニーオ、何でもないよ」
「なら良いけど、メイカは来てないっぽいな」
 この状況下において、物思いに耽るのは自然な事だ。思考を止めるのは、恐らく死んだ時になるだろう。
 辺りを軽く見回し、メイカの姿を探すニーオの今の脳内は、メイカ一色で埋まっていそうだが。
「寂しげだね」
 ルアンが冗談気に言うと、ニーオが明らかに頬を赤らめた。その純粋さが見ていて微笑ましい。
「そんな事は……!」
 ニーオは少し言葉を詰まらせてから、斜め下に視線を遣りポツリと声を落とす。
「…………あ、あるけど…………」
 正直な意見に、ルアンはまた微笑んでしまった。前、ひょんな事をきっかけに恋心が発覚して以来、ニーオは必死に隠さなくなった。
「来るといいねー」
「…………あのさ、ルアン」
 しかし、何時もはさらりと終わる話が、続けられた事にルアンは驚いてしまった。
 好きである事が恥ずかしいのか、いつもニーオから終わらせてしまうのに。
「何? どうしたの?」
「…………ルアンはさ、メイカのこと本当に好きじゃないんだよな?」
 発言するニーオの顔は真っ赤だ。見られたくないからか時々辺りを見回しては、他人の存在を確認する仕草を取っている。
「うん、僕の好きは友達としての好きだよ」
「…………だよな」
 ニーオの表情は、安堵感からか安らぎに包まれている。それでも温度は冷めないらしく、頬はまだ赤みを帯びている。
「今更どうしたの?」
「俺、メイカに告白しても良い?」
 ルアンは突然の宣言に、驚いて絶句してしまった。今まで表明しようとの意思を全く見せなかったのに、急にどうしたのだろうと黙考してしまう。
 勿論、あるのは肯定だが。
「……えっと、あ、うん、良いんじゃない?」
「…………微妙な返事だな……」
 ニーオの困った様子を目にし、ルアンは率直に意見する。考えていても埒があかないと短時間だが至った。
「いや、急すぎて。どうしたの?」
 ニーオはいつもの、少年らしい無邪気な顔で笑う。照れくさそうに頭に手を当てて。
「別にー? ただ何と無く言っておきたいなって思っただけ、本当そんだけ」
「そう、良いと思う。じゃあ明日は来ないようにしようかな」
「いや、そこまで考えなくても良いよ。普通に二人きりになった時に言うからさ!」
「いやいや、折角だから決めた時にね。頑張れ」
「……お、おう」
 押しに負け、ニーオはまた顔面を火照らせた。そしてから照れを隠すかのように、明日はメイカ来るかなーなんて言いながら笑っていた。
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