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9月27日
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本日ルアンは、水を調達しに川辺へ来ていた。勿論、兵士や通行人の目を盗む為、脇道や裏道を利用し来ている。
今居る場所も、随分と足場が危うい。砂利で出来た土地の為、崩れる恐れがある。
しかし、この場所が一番監視の目から遠く、且つ安全だと言えるポイントなのだ。
長く生い茂った草が目隠しになってくれて、少し体を伏せれば完全に埋もれられる。
瓶型になった頑丈な土器を確りと手に持ち、ゆっくりと水の中へ入れる。水は冷たく、指先から体中を寒気が走った。
ぷくぷくと空気の抜ける音を聞きながら瓶が満ちるのを待っていると、遠くから厳つい男達の声がした。
声量から直ぐに、仲間ではないと悟る。
瓶を地に上げると、ルアンは咄嗟に草の中に隠れた。
息を殺して、感覚を研ぎ澄ます。
――――忙しげな足音と、怒気を含む声や言葉。鞭のしなる音。そして小さな子どもの焦り声も加わった。
「やめてぇえぇ!!」
突如聞こえた叫びに、ルアンの心臓が跳ねた。口を塞いで早くなる呼吸音を抑える。
「嫌あぁああ! 死にたくないよぉおぉ!!」
「連れて行け」
数分して、車の走り去る音と共に叫び声が消えた。
しかし、ルアンは恐怖に動く事が出来なかった。鼓動も収まらない。
現実感が胸を締め付ける。恐怖が体を支配する。
もしも自分だったら。考えるだけで震えが止まらなくなった。
人が捕まるのを目にしたり、耳にしたりするのもよくある事だ。しかし、いつまで経っても慣れない。
何度希望を抱こうとしても、直ぐ真横に絶望が待っていると突きつけられる。
ルアンは、家で待つティニーの笑顔を必死に思い出すよう努めた。そうして掻き消す。必死に恐怖を掻き消す。
ルアンは生きる為に、重くなった瓶をもう一度水へと沈めた。
今居る場所も、随分と足場が危うい。砂利で出来た土地の為、崩れる恐れがある。
しかし、この場所が一番監視の目から遠く、且つ安全だと言えるポイントなのだ。
長く生い茂った草が目隠しになってくれて、少し体を伏せれば完全に埋もれられる。
瓶型になった頑丈な土器を確りと手に持ち、ゆっくりと水の中へ入れる。水は冷たく、指先から体中を寒気が走った。
ぷくぷくと空気の抜ける音を聞きながら瓶が満ちるのを待っていると、遠くから厳つい男達の声がした。
声量から直ぐに、仲間ではないと悟る。
瓶を地に上げると、ルアンは咄嗟に草の中に隠れた。
息を殺して、感覚を研ぎ澄ます。
――――忙しげな足音と、怒気を含む声や言葉。鞭のしなる音。そして小さな子どもの焦り声も加わった。
「やめてぇえぇ!!」
突如聞こえた叫びに、ルアンの心臓が跳ねた。口を塞いで早くなる呼吸音を抑える。
「嫌あぁああ! 死にたくないよぉおぉ!!」
「連れて行け」
数分して、車の走り去る音と共に叫び声が消えた。
しかし、ルアンは恐怖に動く事が出来なかった。鼓動も収まらない。
現実感が胸を締め付ける。恐怖が体を支配する。
もしも自分だったら。考えるだけで震えが止まらなくなった。
人が捕まるのを目にしたり、耳にしたりするのもよくある事だ。しかし、いつまで経っても慣れない。
何度希望を抱こうとしても、直ぐ真横に絶望が待っていると突きつけられる。
ルアンは、家で待つティニーの笑顔を必死に思い出すよう努めた。そうして掻き消す。必死に恐怖を掻き消す。
ルアンは生きる為に、重くなった瓶をもう一度水へと沈めた。
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