不幸に笑う君と

有箱

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 しんしんと雪が降り出した朝、私は海辺にいた。ショートブーツのまま海へと踏み入る。あっという間に浸水した内部は、氷を詰めたように冷たくなった。

 これ以上の不幸を齎す前に、世界から消えよう。水面に解けてゆく、この雪たちのように。

***

 電車を乗り継ぎ数駅の所に、その海はある。忘れられた砂浜には、漂流したごみと枯葉が散乱していた。唯一澄み切った水の美しさが切ない。

 景色を瞼に残したまま、視界を遮断した。決意が恐怖に潰れる前に地面を蹴る。だが。

「東堂静香さんだよね! ずっと貴方を探してました! 貴方が疫病神だと言うのは本当ですか!」

 後方から叫ばれ、条件反射で足が止まる。振り向くと、そこには見知らぬ男子がいた。息を切らしているが、瞳は輝いている。なぜか唇に浅い笑みまで携えていた。

 男子は勢いよく海に駆け込んでくる。だが、冷たかったのか跳ねるように退いた。膝まで浸かる私を前に、信じられない……と聞こえてきそうな目を向ける。それに冷たい視線で対応し、翻った。

 爪先から感覚が死んで行く。意図がなんにせよ、ここまで来て自殺を止められるのは御免だ。

「……嘘だったらこんなことしてないです」

 疫病神とは、正真正銘私のことである。正確に言うなら小学生の頃からの仇名だ。だが、決して誇張表現などではない。

 私は不幸体質で、近づく人間を悉く不幸にしたーー家族も友人も。もちろん自分自身も。疫病神であるというのは紛れもない事実なのだ。

「じゃあ僕と友達になって下さい!」

 唐突すぎる申請に、思考が一掃される。混乱で声も出せず立ち尽くしてしまう。

 後方から水を蹴る音がして、唐突に腕を掴まれた。必死な表情が横目に映る。男子は「詳しい話は俺の家で!」と放ち、私を無理矢理連行した。
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