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Ⅱ
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次の授業が憂鬱すぎて、ネガティブな思考に囚われてしまう。
そんな心を切り裂くように、斜め前側から爆笑が聞こえた。視線を流すと、想像通りの光景が見えた。
アルダーテの回りを、取り巻き達が囲んでいる。いつもの光景だ。何でもない話をして意味もなく笑いあう。そんな無駄だらけの――だけど羨ましくなる日常がある。
あの場にいる自分を想像してみた。魔法も出来て、友達もいて、見た目も可愛い自分。きっと、充実した毎日を得ていることだろう。
不意に、アルダーテと目が合う。嘲笑われるのが怖くなり、透かさず反らした。
逆に、彼女から見た私は、恐らくかなり惨めだ。内心、貶しているに違いない。
なぜ、同じ人間なのにこうも違うのか、腹の底から神を呪った。
先生の入室を合図に、生徒が席に散らばる。ついに、憂鬱な時間の始まりだ。
これから行うのは、伝統卒業イベント"ダンス披露会"の準備である。今日はその一度目だった。
ダンス披露会とは文字通り、踊りを在校生の前で披露するイベントだ。もちろん、魔法でパフォーマンスしながらになる。
その段階で既に悩ましいのに、私には更なる気掛かりがあった。それは、二人一組が規定とされていることだった。男女役に別れてのダンスが求められるのだ。
「はい、起立して。ペアを決めるわよ」
促されて立つと、机が消えた。流れを汲み取った生徒たちが、表情を輝かせている。私とは真逆の顔だ。
「組みたい人が決まったら、その場で座ってね」
正式な号令がかかると同時に、室内が一気に動き出した。
次々と、友人同士のペアが出来てゆく。未決定人口が減って行く中、目についたのはやはりアルダーテだった。
何人かの生徒が、囲んで誘っている。もはや取り合いだ。困笑し、迷っているらしき姿を見て苦しくなった。
きっと私は、余った子と組まされる。その上、嫌がられ、煙たがられるだろう。しかも最後には失敗に終わって――。
「私、ファレルノさんと組むわ」
呼ばれるはずのない名が耳を掠める。怖々顔をあげると、場が凍っていた。アルダーテだけが微笑んでいる。
立ち尽くす私の元へ、アルダーテがやって来た。そうして手を取られ、「座りましょ」と引かれた。立ち尽くしていると、先生が適当に場を纏めだした。
結局、拒否も肯定も出来ないまま、ペアになってしまった。
*
その日、ダンスの筋を決める宿題が出された。今は、教室で仕方なく向き合っているところだ。
同じく宿題に取り組む、他者の目が痛い。アルダーテは気にもしていない様子だが。
「ファレルノさん。私、空を飛ぶ演出を入れたいんだけど……」
「私、そんな魔法使えない」
浮遊魔法は中級者向けだ。低級魔法すら扱えないと知った上、提案するなんて悪意としか思えない。
「一緒にやれば大丈夫よ。私たちなら出来るわ。それでテーマなんだけど」
「そもそもどういう積もりなの。一緒に組むならもっと良い人がいるでしょ」
他の生徒に聞こえないよう、声を静めて訴える。こんな会話、聞かれたら袋叩きにされてしまう。
相変わらず、彼女の方に隠す気はないらしいが。
「貴方とが良いの」
「どんなプログラムにしたって、私とじゃ失敗するに決まってる。怪我だってするかも」
「構わないわ。何でも良いなら、やりたいように作っていい?」
意外な一面に呆れつつ、潜む本心から意識を遠ざけた。
「……何があっても怒らないでね」
「もちろん!」
本当は、選んで貰えて嬉しかった――なんて、絶対に言わない。
そんな心を切り裂くように、斜め前側から爆笑が聞こえた。視線を流すと、想像通りの光景が見えた。
アルダーテの回りを、取り巻き達が囲んでいる。いつもの光景だ。何でもない話をして意味もなく笑いあう。そんな無駄だらけの――だけど羨ましくなる日常がある。
あの場にいる自分を想像してみた。魔法も出来て、友達もいて、見た目も可愛い自分。きっと、充実した毎日を得ていることだろう。
不意に、アルダーテと目が合う。嘲笑われるのが怖くなり、透かさず反らした。
逆に、彼女から見た私は、恐らくかなり惨めだ。内心、貶しているに違いない。
なぜ、同じ人間なのにこうも違うのか、腹の底から神を呪った。
先生の入室を合図に、生徒が席に散らばる。ついに、憂鬱な時間の始まりだ。
これから行うのは、伝統卒業イベント"ダンス披露会"の準備である。今日はその一度目だった。
ダンス披露会とは文字通り、踊りを在校生の前で披露するイベントだ。もちろん、魔法でパフォーマンスしながらになる。
その段階で既に悩ましいのに、私には更なる気掛かりがあった。それは、二人一組が規定とされていることだった。男女役に別れてのダンスが求められるのだ。
「はい、起立して。ペアを決めるわよ」
促されて立つと、机が消えた。流れを汲み取った生徒たちが、表情を輝かせている。私とは真逆の顔だ。
「組みたい人が決まったら、その場で座ってね」
正式な号令がかかると同時に、室内が一気に動き出した。
次々と、友人同士のペアが出来てゆく。未決定人口が減って行く中、目についたのはやはりアルダーテだった。
何人かの生徒が、囲んで誘っている。もはや取り合いだ。困笑し、迷っているらしき姿を見て苦しくなった。
きっと私は、余った子と組まされる。その上、嫌がられ、煙たがられるだろう。しかも最後には失敗に終わって――。
「私、ファレルノさんと組むわ」
呼ばれるはずのない名が耳を掠める。怖々顔をあげると、場が凍っていた。アルダーテだけが微笑んでいる。
立ち尽くす私の元へ、アルダーテがやって来た。そうして手を取られ、「座りましょ」と引かれた。立ち尽くしていると、先生が適当に場を纏めだした。
結局、拒否も肯定も出来ないまま、ペアになってしまった。
*
その日、ダンスの筋を決める宿題が出された。今は、教室で仕方なく向き合っているところだ。
同じく宿題に取り組む、他者の目が痛い。アルダーテは気にもしていない様子だが。
「ファレルノさん。私、空を飛ぶ演出を入れたいんだけど……」
「私、そんな魔法使えない」
浮遊魔法は中級者向けだ。低級魔法すら扱えないと知った上、提案するなんて悪意としか思えない。
「一緒にやれば大丈夫よ。私たちなら出来るわ。それでテーマなんだけど」
「そもそもどういう積もりなの。一緒に組むならもっと良い人がいるでしょ」
他の生徒に聞こえないよう、声を静めて訴える。こんな会話、聞かれたら袋叩きにされてしまう。
相変わらず、彼女の方に隠す気はないらしいが。
「貴方とが良いの」
「どんなプログラムにしたって、私とじゃ失敗するに決まってる。怪我だってするかも」
「構わないわ。何でも良いなら、やりたいように作っていい?」
意外な一面に呆れつつ、潜む本心から意識を遠ざけた。
「……何があっても怒らないでね」
「もちろん!」
本当は、選んで貰えて嬉しかった――なんて、絶対に言わない。
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