愛は翼を授ける

有箱

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 次の授業が憂鬱すぎて、ネガティブな思考に囚われてしまう。

 そんな心を切り裂くように、斜め前側から爆笑が聞こえた。視線を流すと、想像通りの光景が見えた。

 アルダーテの回りを、取り巻き達が囲んでいる。いつもの光景だ。何でもない話をして意味もなく笑いあう。そんな無駄だらけの――だけど羨ましくなる日常がある。

 あの場にいる自分を想像してみた。魔法も出来て、友達もいて、見た目も可愛い自分。きっと、充実した毎日を得ていることだろう。

 不意に、アルダーテと目が合う。嘲笑われるのが怖くなり、透かさず反らした。

 逆に、彼女から見た私は、恐らくかなり惨めだ。内心、貶しているに違いない。
 なぜ、同じ人間なのにこうも違うのか、腹の底から神を呪った。
 
 先生の入室を合図に、生徒が席に散らばる。ついに、憂鬱な時間の始まりだ。

 これから行うのは、伝統卒業イベント"ダンス披露会"の準備である。今日はその一度目だった。

 ダンス披露会とは文字通り、踊りを在校生の前で披露するイベントだ。もちろん、魔法でパフォーマンスしながらになる。

 その段階で既に悩ましいのに、私には更なる気掛かりがあった。それは、二人一組が規定とされていることだった。男女役に別れてのダンスが求められるのだ。

「はい、起立して。ペアを決めるわよ」

 促されて立つと、机が消えた。流れを汲み取った生徒たちが、表情を輝かせている。私とは真逆の顔だ。

「組みたい人が決まったら、その場で座ってね」

 正式な号令がかかると同時に、室内が一気に動き出した。
 次々と、友人同士のペアが出来てゆく。未決定人口が減って行く中、目についたのはやはりアルダーテだった。

 何人かの生徒が、囲んで誘っている。もはや取り合いだ。困笑し、迷っているらしき姿を見て苦しくなった。

 きっと私は、余った子と組まされる。その上、嫌がられ、煙たがられるだろう。しかも最後には失敗に終わって――。

「私、ファレルノさんと組むわ」

 呼ばれるはずのない名が耳を掠める。怖々顔をあげると、場が凍っていた。アルダーテだけが微笑んでいる。

 立ち尽くす私の元へ、アルダーテがやって来た。そうして手を取られ、「座りましょ」と引かれた。立ち尽くしていると、先生が適当に場を纏めだした。

 結局、拒否も肯定も出来ないまま、ペアになってしまった。



 その日、ダンスの筋を決める宿題が出された。今は、教室で仕方なく向き合っているところだ。
 同じく宿題に取り組む、他者の目が痛い。アルダーテは気にもしていない様子だが。

「ファレルノさん。私、空を飛ぶ演出を入れたいんだけど……」
「私、そんな魔法使えない」

 浮遊魔法は中級者向けだ。低級魔法すら扱えないと知った上、提案するなんて悪意としか思えない。

「一緒にやれば大丈夫よ。私たちなら出来るわ。それでテーマなんだけど」
「そもそもどういう積もりなの。一緒に組むならもっと良い人がいるでしょ」

 他の生徒に聞こえないよう、声を静めて訴える。こんな会話、聞かれたら袋叩きにされてしまう。
 相変わらず、彼女の方に隠す気はないらしいが。

「貴方とが良いの」
「どんなプログラムにしたって、私とじゃ失敗するに決まってる。怪我だってするかも」
「構わないわ。何でも良いなら、やりたいように作っていい?」

 意外な一面に呆れつつ、潜む本心から意識を遠ざけた。

「……何があっても怒らないでね」
「もちろん!」

 本当は、選んで貰えて嬉しかった――なんて、絶対に言わない。
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