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最終日②

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 客と商品らしく別れ、僕は一人になった。喪失感は想像の十倍以上大きく――しかし、同じくらい熱意も滾った。
 アンメルはもちろん、叔母の為にも絶対に成功してみせる。そう誓い、暮らしの中で削れるものは削った。それ事態は苦ではなかった。

 ただ、業績が揺れると『絶望』を呟きかけた。そんな時は、アンメルの方が絶望に近いんだ――と奮い立たせて噤んだ。

 内にも外にも、アンメルの幻想を見なかった日はない。それが温度あるものになるよう、がむしゃらに求め続けた。
 あの二ヶ月間を、くすむ隙もないほどに写しながら。恋心だけは、一層鮮やかにしながら。
 
 レンタルサービスは一層の発展を遂げ、AIはかなり人間に近づいた。今じゃ、町に紛れていても分からないほど進化している。

 完璧なAIの情報を得る度、僕は不安になった。表情や対応も、全て人間以上です。なんてフレーズが流れては、心が勝手に転げ落ちた。上手くやれているのかな、と店に近付きたくもなった。

 事実、一度感情に貪られ、半端な金で店頭に立ったことがある。
 しかし、会えば心が食い尽くされかねないと引き返した。膨れすぎた恋心にも、再び見送る怖さにも、勝てない気がしたのだ。
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