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二ヶ月目②

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 母が亡くなったよ――聞こえてきたのは男の声だった。簡単な状況把握に困惑し、数秒後に理解した。叔母が亡くなったのだ。

 ショックで返事を失ってしまう。そんな中、突き付けられたのは無情な宣告だった。

 "金銭支援は打ち切らせてもらう"

 用意済みの台詞の如く、淡々と言い切られる。お先も目先も真っ暗で、何から悲しめばいいか分からなかった。
 ただ、底知れない恐怖だけは、確実なものとして認識できた。



「フォア様……本日はお食事の用意をしても宜しいですか?」
「……ごめん、今日も適当に済ませちゃう」
「そうですか……」

 訃報から半月、僕は以前にも増して業務に打ち込んだ。保守的では緩やかに死にかねないと、事業を少し拡大したのだ。
 よって、生活はアンメルが訪れる前より慌ただしくなった。時間の飛躍を、日に何度も経験するほどには。

 僕を見る悲しげな瞳に対し、癖のように笑う。意味はないと分かりながらも、不安を拭う行動を手繰った。

「とりあえず水だけ飲んでくるよ」
「あっ、それなら私が……」

 地に貼り付いた足を剥がし、腰をあげる。同時にアンメルも立ち上がった。
 突如、脳が落下を錯覚する。反射的に壁を求めたが、不運にもアンメルが間にいる。衝突しかけた瞬間、些細な違和感が僕を見た。

 ――結局、アンメルを壁に押しやる形で止まった。故障に導くような大きな接触はない。しかし、上半身が繋がりそうなほど密着していた。現実味のある温度や感触に、思わず跳ね退く。

「ご、ごめん、痛かっ……じゃなくて」
「大丈夫です。よく驚かれます」

 冷静な声に、改めて表情を捉える。いたのは、いつも通りのアンメルだった。
 刻まれた違和感が、なぜか一層強くなる。この感覚を見過ごすべきか、認めるべきか――迷った末に未来を見た。

「……アンメル、困らせること聞くよ。なんでAIの振りしてるの?」
「えっ」
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