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突然の転向
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昨日見た映画は大当たりだった。特にラストシーンの――志真にどうプレゼンするか考えていると、後ろの扉が開く音がした。それからすぐ、生徒の沸き立つ声も。
反射的に視線を流す。すると、そこには左目に眼帯を宛て、右手首に包帯を巻いた志真がいた。
ただ事じゃないと素早く起立する。そして、心配を投げる生徒の間に割り込んだ。
囲まれる志真は、無言で床を見ている。
「その怪我どうしたの!?」
哀感が漂っている――気がしたのは一瞬で、顔をあげた志真は楽し気に笑っていた。
ギャップに一瞬黙ってしまう。更には包帯がある方の手でピースまで作られ、困惑してしまった。
「中二病はじめた!」
宣言後、フッと意味ありげに笑われ弱冠引く。周りも同じらしく、教室後方に動揺の渦が広がった。
一部、同士が出来て喜ぶ人間もいたが。
「え、いや、本当どうしたの。中二病始めたって何……てか、敢えて始めるやつだっけ、それ」
中二病の知識を急遽掘り出す。確か、自己申請するものではなかったはずだ。いや、本人に自覚はあるらしいが――よく分からなくなってきた。
「詳しくは後で話そう……。では、暫しの時間、文学と言うメロディに身を委ねようじゃないか……」
国語の授業を妙な例えで表された挙句、颯爽と席へ移動され立ち尽くす。
いや本当、昨日の今日で何があったの。そう惑わずにはいられなかった。
*
昼休み、共に屋上へ向かう。二人で弁当を食べるのは、園児の時からの日課だ。
教室中の目が『上手く聞き出せよ……』との訴えを乗せ私を見ていた。皆、普段通り接してはいたが、私には動揺がまざまざと見えていた。
「で、急にどうしたの?」
正面から問うと、志真は神妙な顔をする。そうして数秒、大きく空を仰いだ。
「本来なら秘密にすることだが、美月にだけは真実を告げておこうと思う」
「……うん」
口調や仕草の半端さで、中二病の一貫であると察知する。ゆえに、真剣になるべきか迷った。
「私は生まれかわりだった」
「ん?」
――ならずとも良かったようだが。
「堕天した天使……いわゆる悪魔と化した存在の、だ」
「えー……」
遠回し過ぎて混乱しながらも、なんとか重点だけは理解する。いわゆる、自分は悪魔の生まれ変わりだったと言っているのだ。
冗談だとは分かりつつ、真剣になられては変に否定も出来なかった。それどころか、もし真実だったらどうしようとまで考えてしまっている。
幽霊や超常現象が信じられている世界だ、ない話ではないだろう。
「しかし、天界から追放された身。人間界に降りていると知られるわけにもいかず、先ほどは言い訳をした。他の者にはただの中二病患者として映っただろう」
新たな設定もどきに脳内がフリーズした。非現実を前に、思考が追い付かない。
志真は左手で右腕を掴み、その右手の平で眼帯を覆った。完全に拗らせたポーズが完成している。
「この目と腕には、悪魔の紋章があるのだ。……美月よ、隠す手伝いを要請しても?」
呆然とする頭で、昨日までの志真を思い出す。遠い目で空を見つめながら、ロボットのごとく口だけで笑った。
「……オッケーです」
*
あの日以降、志真は完全な中二病患者と化した。いや、この場合、完全に悪魔に憑依されたと言うべきか。もしかして、看病に疲れて壊れてしまったとか。
真相は不明だが、何にせよ私の自慢だった志真はいなくなってしまった。
「また紋章が広がってしまった」
昼食中、淡々と言い切った彼の右腕、包帯の範囲が広がっていた。最早、格闘家キャラのような見た目だ。
「ねぇ大丈夫?」
「何がだ?」
「何でもないです」
心配の理由さえ察してもらえず、黙り込む。会話を放棄しようかとも思ったが、それはそれで気まずいと無理矢理ネタを引っ張った。とにかく、話さないことには真相も不明なままだし。
「……もし天界に知られたらどうなるの?」
「捕まるかもな。でも、その前に戦うつもりではいる」
「でも、悪魔さん……は人間じゃん?」
「心配無用だ。私には特殊な力がある」
まるで本物の悪魔のように、志真は迷いなく答える。会話が成り立つことに驚きと悲しみを覚えつつ、やめはしなかった。半ば情報取得の為の会話にはなっているが。
「どういう力なの? 見せてよ」
「そうしたいのは山々だが、命が削られる技なんだ。だから今は使えない」
「……リスク高いね」
結局、その日も何一つ掴めないまま一日は終わった。
反射的に視線を流す。すると、そこには左目に眼帯を宛て、右手首に包帯を巻いた志真がいた。
ただ事じゃないと素早く起立する。そして、心配を投げる生徒の間に割り込んだ。
囲まれる志真は、無言で床を見ている。
「その怪我どうしたの!?」
哀感が漂っている――気がしたのは一瞬で、顔をあげた志真は楽し気に笑っていた。
ギャップに一瞬黙ってしまう。更には包帯がある方の手でピースまで作られ、困惑してしまった。
「中二病はじめた!」
宣言後、フッと意味ありげに笑われ弱冠引く。周りも同じらしく、教室後方に動揺の渦が広がった。
一部、同士が出来て喜ぶ人間もいたが。
「え、いや、本当どうしたの。中二病始めたって何……てか、敢えて始めるやつだっけ、それ」
中二病の知識を急遽掘り出す。確か、自己申請するものではなかったはずだ。いや、本人に自覚はあるらしいが――よく分からなくなってきた。
「詳しくは後で話そう……。では、暫しの時間、文学と言うメロディに身を委ねようじゃないか……」
国語の授業を妙な例えで表された挙句、颯爽と席へ移動され立ち尽くす。
いや本当、昨日の今日で何があったの。そう惑わずにはいられなかった。
*
昼休み、共に屋上へ向かう。二人で弁当を食べるのは、園児の時からの日課だ。
教室中の目が『上手く聞き出せよ……』との訴えを乗せ私を見ていた。皆、普段通り接してはいたが、私には動揺がまざまざと見えていた。
「で、急にどうしたの?」
正面から問うと、志真は神妙な顔をする。そうして数秒、大きく空を仰いだ。
「本来なら秘密にすることだが、美月にだけは真実を告げておこうと思う」
「……うん」
口調や仕草の半端さで、中二病の一貫であると察知する。ゆえに、真剣になるべきか迷った。
「私は生まれかわりだった」
「ん?」
――ならずとも良かったようだが。
「堕天した天使……いわゆる悪魔と化した存在の、だ」
「えー……」
遠回し過ぎて混乱しながらも、なんとか重点だけは理解する。いわゆる、自分は悪魔の生まれ変わりだったと言っているのだ。
冗談だとは分かりつつ、真剣になられては変に否定も出来なかった。それどころか、もし真実だったらどうしようとまで考えてしまっている。
幽霊や超常現象が信じられている世界だ、ない話ではないだろう。
「しかし、天界から追放された身。人間界に降りていると知られるわけにもいかず、先ほどは言い訳をした。他の者にはただの中二病患者として映っただろう」
新たな設定もどきに脳内がフリーズした。非現実を前に、思考が追い付かない。
志真は左手で右腕を掴み、その右手の平で眼帯を覆った。完全に拗らせたポーズが完成している。
「この目と腕には、悪魔の紋章があるのだ。……美月よ、隠す手伝いを要請しても?」
呆然とする頭で、昨日までの志真を思い出す。遠い目で空を見つめながら、ロボットのごとく口だけで笑った。
「……オッケーです」
*
あの日以降、志真は完全な中二病患者と化した。いや、この場合、完全に悪魔に憑依されたと言うべきか。もしかして、看病に疲れて壊れてしまったとか。
真相は不明だが、何にせよ私の自慢だった志真はいなくなってしまった。
「また紋章が広がってしまった」
昼食中、淡々と言い切った彼の右腕、包帯の範囲が広がっていた。最早、格闘家キャラのような見た目だ。
「ねぇ大丈夫?」
「何がだ?」
「何でもないです」
心配の理由さえ察してもらえず、黙り込む。会話を放棄しようかとも思ったが、それはそれで気まずいと無理矢理ネタを引っ張った。とにかく、話さないことには真相も不明なままだし。
「……もし天界に知られたらどうなるの?」
「捕まるかもな。でも、その前に戦うつもりではいる」
「でも、悪魔さん……は人間じゃん?」
「心配無用だ。私には特殊な力がある」
まるで本物の悪魔のように、志真は迷いなく答える。会話が成り立つことに驚きと悲しみを覚えつつ、やめはしなかった。半ば情報取得の為の会話にはなっているが。
「どういう力なの? 見せてよ」
「そうしたいのは山々だが、命が削られる技なんだ。だから今は使えない」
「……リスク高いね」
結局、その日も何一つ掴めないまま一日は終わった。
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