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キラキラネイルと昔話
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「落ち込んでる?」
「え、俺そんな分かりやすいの?」
帰宅して早々、指摘され驚いた。さすが姉と言うべきか、異変の察知が早い。
「なんとなくね。気分転換にネイルする?」
だが、理由までは気が回らないらしい。
「止めとく。あのさ、男子がキラキラネイルってやっぱキモい?」
一から説明するのも辛いと、重点だけを問った。琴葉は少し考え──放棄する。
「さぁね。個々の感覚の問題だし、そこは何とも。まぁ好きなら良いじゃん」
「晴一と同じこと言ってるわ」
「晴一くんも言ってたの?」
「まぁ、グダグダーって感じでだけど」
「良かったじゃん」
「良かったの?」
琴葉は僅かに考える素振りを見せ、またも放棄した。頭を回すのはあまり好きではないらしい。
「ま、もし何かあったらまた引っ越そ」
そして、早くも面倒になったのか、話を締め括りウインクまでする。かなり下手なウインクだ。
「簡単に言うー」
去ってゆく背中を見ながら、少し苦い過去を思い出した。
*
過去と言っても、語れるだけのエピソードはない。ネイルアート好きだと学校に知られ、からかわれた結果、住居を変えただけだ。だから、かなり遠くから越してきている。
それでも尚、配信を続けるのは、単に琴葉のわがままに付き合っているだけだ。トラウマがあろうと、逆らわせないのが彼女である。
前の人間が、配信を知らなかったのが唯一の幸運だろう。
学生の二人暮らしに金が必要だったから、との理由もあったりするけれど。
「ねぇ、私聞いちゃったんだけど!」
落胆気味だからか、声が心によく響く。全ての話題を、はおこの何かかと疑ってしまう。
いや、八割方事実だから仕方ないことだが。
「やっぱりネイルされてる方、男らしいよ! しかも、彼氏じゃないとか!」
「え、じゃあ何でしてるんだろ。オカマ? 琴葉先輩、前に兄弟いないって言ってたしなぁ」
心無い声が痛い。教室中のはおこファンに告ぐ。もう放っておいてくれ──。
「大丈夫か?」
「え」
声をかけられ、真横にいた晴一に気付いた。反射的に「気配なさすぎ」と突っ込んでみる。本当は呆然としていただけだけど。
顔に出やすいのは、姉によって証明済みだ。だから、恐らくそこを否定しても無駄だろう。
大丈夫ではないと認め、言い訳を探す方が賢い──と手繰った瞬間、
「なぁ渡。放課後、渡の家行っていい?」
急に話が変わった。まだ答えていないのに早すぎる。脳内フルスピードで切り替えだ。
「え、いや、前から言ってるけどめっちゃ遠いし、親がそういうの駄目だから」
以前から使い続けている嘘を、本当の如く告げる。心が少し痛んだが、これは意味のある嘘だ。
「じゃあ、俺の家来て」
「えっ……」
「指切りげんまん、嘘ついたら家特定する! 指切った! はい、俺は授業の準備する!」
拒否権すら与えられず、確定された。展開が早すぎて言葉が出ない。晴一はと言うと、本当に教科書を纏めているし。
「う、嘘ついたらのとこ、リアル過ぎて怖ぇーよ……」
数秒後、やっと出た言葉は空に消えていった。
「え、俺そんな分かりやすいの?」
帰宅して早々、指摘され驚いた。さすが姉と言うべきか、異変の察知が早い。
「なんとなくね。気分転換にネイルする?」
だが、理由までは気が回らないらしい。
「止めとく。あのさ、男子がキラキラネイルってやっぱキモい?」
一から説明するのも辛いと、重点だけを問った。琴葉は少し考え──放棄する。
「さぁね。個々の感覚の問題だし、そこは何とも。まぁ好きなら良いじゃん」
「晴一と同じこと言ってるわ」
「晴一くんも言ってたの?」
「まぁ、グダグダーって感じでだけど」
「良かったじゃん」
「良かったの?」
琴葉は僅かに考える素振りを見せ、またも放棄した。頭を回すのはあまり好きではないらしい。
「ま、もし何かあったらまた引っ越そ」
そして、早くも面倒になったのか、話を締め括りウインクまでする。かなり下手なウインクだ。
「簡単に言うー」
去ってゆく背中を見ながら、少し苦い過去を思い出した。
*
過去と言っても、語れるだけのエピソードはない。ネイルアート好きだと学校に知られ、からかわれた結果、住居を変えただけだ。だから、かなり遠くから越してきている。
それでも尚、配信を続けるのは、単に琴葉のわがままに付き合っているだけだ。トラウマがあろうと、逆らわせないのが彼女である。
前の人間が、配信を知らなかったのが唯一の幸運だろう。
学生の二人暮らしに金が必要だったから、との理由もあったりするけれど。
「ねぇ、私聞いちゃったんだけど!」
落胆気味だからか、声が心によく響く。全ての話題を、はおこの何かかと疑ってしまう。
いや、八割方事実だから仕方ないことだが。
「やっぱりネイルされてる方、男らしいよ! しかも、彼氏じゃないとか!」
「え、じゃあ何でしてるんだろ。オカマ? 琴葉先輩、前に兄弟いないって言ってたしなぁ」
心無い声が痛い。教室中のはおこファンに告ぐ。もう放っておいてくれ──。
「大丈夫か?」
「え」
声をかけられ、真横にいた晴一に気付いた。反射的に「気配なさすぎ」と突っ込んでみる。本当は呆然としていただけだけど。
顔に出やすいのは、姉によって証明済みだ。だから、恐らくそこを否定しても無駄だろう。
大丈夫ではないと認め、言い訳を探す方が賢い──と手繰った瞬間、
「なぁ渡。放課後、渡の家行っていい?」
急に話が変わった。まだ答えていないのに早すぎる。脳内フルスピードで切り替えだ。
「え、いや、前から言ってるけどめっちゃ遠いし、親がそういうの駄目だから」
以前から使い続けている嘘を、本当の如く告げる。心が少し痛んだが、これは意味のある嘘だ。
「じゃあ、俺の家来て」
「えっ……」
「指切りげんまん、嘘ついたら家特定する! 指切った! はい、俺は授業の準備する!」
拒否権すら与えられず、確定された。展開が早すぎて言葉が出ない。晴一はと言うと、本当に教科書を纏めているし。
「う、嘘ついたらのとこ、リアル過ぎて怖ぇーよ……」
数秒後、やっと出た言葉は空に消えていった。
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