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美少女:辻 琴葉
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辻 琴葉は校内では有名だ。
容姿端麗、成績優秀、性格は明るいとなれば、頷けるのも分からなくはない。夢が映画監督と言う意外性も、理由の一つなのかもしれない。
ただ、俺は本当の彼女を知っているから、皆が騙されているようにしか思えないのだが。
*
翌日、教室に入ると、新たな話題が空間を埋めていた。基本は変わらず、はおこの話だ。ただ内容が違う。
「えー! それ“はおこ”確定じゃん!」
「だよね!? 買ってる物もネイル道具っぽかったらしいし!」
「琴葉先輩、何で自分って言っちゃわないんだろー」
たった四つのワードで、状況を完全に理解した。はおこ・買う・道具・琴葉となれば、導き出されるものは一つしかない。
涼しい顔を心掛け、席へと歩いた。しかし、内心冷や汗ダラダラだ。
「おはよ! ビッグニュース!」
追い討ちを掛けるように、晴一が飛びついてきた。知ってるから言わなくて良いよ。そう告げたかったが黙っておく。
「渡! はおこちゃんは、やっぱり琴葉さんだ! 昨日の放課後、百均で道具買ってるところを女子が見たんだって!」
「へぇ。でも、真似てみるだけかもしれないだろ」
我ながら、なんて見事な返しなんだ──と感心したのも束の間、
「にしても、何で隠すのかな。渡、なんか知ってる?」
完全に否定された。最早、意見を聞く気は無いらしい。零れそうになる溜息の代わりに、あっけらかんと答えてやった。
「いや?」
噂は紛れもない事実だ。琴葉は百均に行き、メイク道具を買っていた。
それでも、対策として少し遠めの店に赴いていたはずだが。女子たちの行動力を甘く見すぎていた。
今年のはおこ大捜索は、大変な結末を迎えるかもしれない。それは絶対に阻止しなければ。
*
緊張の糸を解きながら、家の鍵を閉める。玄関にはレディースシューズ五足と、俺のスペアシューズが並んで置かれていた。因みに、五足の持ち主は同じだ。
習慣に基づき、靴を揃えて上がる。そうして部屋に直行しようとした矢先、
「うわっ」
目の前に現れたのは怪物──顔パックをした琴葉だった。実は、俺と琴葉は二人で暮らしている。
「すげぇ格好。こんなん学校の奴が見たら驚くわ……」
「お前に言われたくない」
しかし、二人暮らしと言えど、やましいことは何も無い。なぜなら、琴葉とは姉弟だからだ。
もちろん、これも口外厳禁である。教師は把握しているが口止めしており、生徒は誰一人知らない。
お互い、他人の振りをして学校に通い、乗車駅をずらすことで帰宅時間も変えた。だから対策は完璧だ。
理由は、これまた“はおこ”に関わってくる。
「明日予定は?」
突然の切り出しは茶飯事だ。目的も全て把握した上、素直に答える。
「ないけど」
「じゃあ決まり!」
顔パックをしながら笑う姿は滑稽だ。こんな姿、夢見がちな誰かが知ったら幻滅するだろうな。
「はいはい……てかさ、学校の奴に買い物見られてたみたいだぞ」
「ごめんごめん」
「反省してないだろ。もっと気をつけろよな」
緊張感の差が毎度嫌になる。しかし、仕方ない事だとも思う。琴葉には琴葉の性格もあるし、事情も──いや、主に性格が違うのだから。
琴葉は軽く返事すると、洗面所へと戻って行った。同時に俺も部屋へと散る。
扉を開くと、いつもの散らかった部屋が現れた。とは言え、自分で散らかした訳では無い。
置かれているのは、主に機材だ。あとはマフラーやコートなどがある。
「……せっま、物増えてね?」
それら全て、動画撮影に使用する物だ。どうしてか、彼女が使う物も全て俺の部屋に詰められている。撮影場所がここというのも理由にあるんだろうけど。
少しくらい違う部屋に置いてくれてもなぁ──と考えつつ、邪魔にならない場所に鞄を置いた。
容姿端麗、成績優秀、性格は明るいとなれば、頷けるのも分からなくはない。夢が映画監督と言う意外性も、理由の一つなのかもしれない。
ただ、俺は本当の彼女を知っているから、皆が騙されているようにしか思えないのだが。
*
翌日、教室に入ると、新たな話題が空間を埋めていた。基本は変わらず、はおこの話だ。ただ内容が違う。
「えー! それ“はおこ”確定じゃん!」
「だよね!? 買ってる物もネイル道具っぽかったらしいし!」
「琴葉先輩、何で自分って言っちゃわないんだろー」
たった四つのワードで、状況を完全に理解した。はおこ・買う・道具・琴葉となれば、導き出されるものは一つしかない。
涼しい顔を心掛け、席へと歩いた。しかし、内心冷や汗ダラダラだ。
「おはよ! ビッグニュース!」
追い討ちを掛けるように、晴一が飛びついてきた。知ってるから言わなくて良いよ。そう告げたかったが黙っておく。
「渡! はおこちゃんは、やっぱり琴葉さんだ! 昨日の放課後、百均で道具買ってるところを女子が見たんだって!」
「へぇ。でも、真似てみるだけかもしれないだろ」
我ながら、なんて見事な返しなんだ──と感心したのも束の間、
「にしても、何で隠すのかな。渡、なんか知ってる?」
完全に否定された。最早、意見を聞く気は無いらしい。零れそうになる溜息の代わりに、あっけらかんと答えてやった。
「いや?」
噂は紛れもない事実だ。琴葉は百均に行き、メイク道具を買っていた。
それでも、対策として少し遠めの店に赴いていたはずだが。女子たちの行動力を甘く見すぎていた。
今年のはおこ大捜索は、大変な結末を迎えるかもしれない。それは絶対に阻止しなければ。
*
緊張の糸を解きながら、家の鍵を閉める。玄関にはレディースシューズ五足と、俺のスペアシューズが並んで置かれていた。因みに、五足の持ち主は同じだ。
習慣に基づき、靴を揃えて上がる。そうして部屋に直行しようとした矢先、
「うわっ」
目の前に現れたのは怪物──顔パックをした琴葉だった。実は、俺と琴葉は二人で暮らしている。
「すげぇ格好。こんなん学校の奴が見たら驚くわ……」
「お前に言われたくない」
しかし、二人暮らしと言えど、やましいことは何も無い。なぜなら、琴葉とは姉弟だからだ。
もちろん、これも口外厳禁である。教師は把握しているが口止めしており、生徒は誰一人知らない。
お互い、他人の振りをして学校に通い、乗車駅をずらすことで帰宅時間も変えた。だから対策は完璧だ。
理由は、これまた“はおこ”に関わってくる。
「明日予定は?」
突然の切り出しは茶飯事だ。目的も全て把握した上、素直に答える。
「ないけど」
「じゃあ決まり!」
顔パックをしながら笑う姿は滑稽だ。こんな姿、夢見がちな誰かが知ったら幻滅するだろうな。
「はいはい……てかさ、学校の奴に買い物見られてたみたいだぞ」
「ごめんごめん」
「反省してないだろ。もっと気をつけろよな」
緊張感の差が毎度嫌になる。しかし、仕方ない事だとも思う。琴葉には琴葉の性格もあるし、事情も──いや、主に性格が違うのだから。
琴葉は軽く返事すると、洗面所へと戻って行った。同時に俺も部屋へと散る。
扉を開くと、いつもの散らかった部屋が現れた。とは言え、自分で散らかした訳では無い。
置かれているのは、主に機材だ。あとはマフラーやコートなどがある。
「……せっま、物増えてね?」
それら全て、動画撮影に使用する物だ。どうしてか、彼女が使う物も全て俺の部屋に詰められている。撮影場所がここというのも理由にあるんだろうけど。
少しくらい違う部屋に置いてくれてもなぁ──と考えつつ、邪魔にならない場所に鞄を置いた。
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