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さいごの【2】
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「花ちゃーん、こんにちはー!」
部屋に入っても、笑顔は咲かない。代わりに僕へと向いたのは、ご両親の会釈だった。
機械に囚われた眠り姫は、折り紙の仲間に囲まれて眠っている。旗係は、紙切れ生まれの鶴だ。翼に貼られた旗で、応援しているように見えた。
ご両親とアイコンタクトをとり、椅子に腰かける。そうして、ここ数日お決まりとなった問いを差し出した。
「花ちゃん、今日のポケットの中身はなーんだ」
もちろん返事はない。けれど、空想の中で見て反応を作り込んでみせる。
「正解はぬいぐるみでしたー!」
大袈裟に取り出して、枕元の仲間に加えてやった。主人の目覚めを待つ熊の目が、少し寂しげに見えた。
明日は何を持ってこようか――考えつつも本来の勤めを果たす。髪を引かれながらも、退出しようとしたその時だった。
「…………せんせ?」
反射的に翻る。両親が花ちゃんの手を握り、視界に顔を納めた。花ちゃんは何も見えないのか、瞳を動かさなかった。
「花! パパだよ!」
「ママよ、聞こえる!?」
「……ママ? ……パパ?」
すっかり細くなった声が、最期の気配を色濃くする。尽きていく命を、体言するように機械が鳴き出した。
「せんせ……? 皆、いる……の……?」
「いるよ花。パパもママも先生もいる。ね、先生」
「うんうん、いるよ。先生ここにいるよ」
両親に目配せを受け、僕も急いで視界に収まる。そっと触れた細い腕は、僕より遥かに温かかった。
小さすぎる微笑みが溢される。懸命な開花は、ハッピーエンドを作ろうとしているのだと分かった。もしかすると彼女は、その為だけに目覚めを掴んだのかもしれない。
きっと、花ちゃん自身も終わりを見ている。けれど、悲しみを残さないよう必死になっている。
「せんせ……ポケット…………」
花ちゃんだって、怖いはずなのに。辛いはずなのに。いつも通りに振る舞って、悲しみを溶かそうとしている。
ポケットは既に空っぽだ。ロッカーに何かを取りに行く時間もない。空気を手に乗せて、嘘をつく自信もない。
一縷の望みをかけ、再びポケットに手を突っ込んだ。指先に、つるりとした紙の感触が触れる。
部屋に入っても、笑顔は咲かない。代わりに僕へと向いたのは、ご両親の会釈だった。
機械に囚われた眠り姫は、折り紙の仲間に囲まれて眠っている。旗係は、紙切れ生まれの鶴だ。翼に貼られた旗で、応援しているように見えた。
ご両親とアイコンタクトをとり、椅子に腰かける。そうして、ここ数日お決まりとなった問いを差し出した。
「花ちゃん、今日のポケットの中身はなーんだ」
もちろん返事はない。けれど、空想の中で見て反応を作り込んでみせる。
「正解はぬいぐるみでしたー!」
大袈裟に取り出して、枕元の仲間に加えてやった。主人の目覚めを待つ熊の目が、少し寂しげに見えた。
明日は何を持ってこようか――考えつつも本来の勤めを果たす。髪を引かれながらも、退出しようとしたその時だった。
「…………せんせ?」
反射的に翻る。両親が花ちゃんの手を握り、視界に顔を納めた。花ちゃんは何も見えないのか、瞳を動かさなかった。
「花! パパだよ!」
「ママよ、聞こえる!?」
「……ママ? ……パパ?」
すっかり細くなった声が、最期の気配を色濃くする。尽きていく命を、体言するように機械が鳴き出した。
「せんせ……? 皆、いる……の……?」
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小さすぎる微笑みが溢される。懸命な開花は、ハッピーエンドを作ろうとしているのだと分かった。もしかすると彼女は、その為だけに目覚めを掴んだのかもしれない。
きっと、花ちゃん自身も終わりを見ている。けれど、悲しみを残さないよう必死になっている。
「せんせ……ポケット…………」
花ちゃんだって、怖いはずなのに。辛いはずなのに。いつも通りに振る舞って、悲しみを溶かそうとしている。
ポケットは既に空っぽだ。ロッカーに何かを取りに行く時間もない。空気を手に乗せて、嘘をつく自信もない。
一縷の望みをかけ、再びポケットに手を突っ込んだ。指先に、つるりとした紙の感触が触れる。
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