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広いベッドと僕ら【1】
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一応周囲を見回して、ひっそりとホテルに入る。立派すぎる外観通り、内装も豪華だった。
外面はよく拝んでいたが、まさか踏み込む日が来ようとは。いっそ来てしまったからか、高揚してくる。
相変わらず森川さんは緊張ぎみで、時折見せる笑みも固い。しかし、完成された見た目のとのギャップが、逆に魅力的だった。
部屋に入る。ダブルベッドは、家のものより一回り大きかった。ムーディな暖色のライトと、殺風景な室内が行動を促してくる。
床に二つバッグが置かれたことで、持たせてしまっていたことに気付いた。失態に恥ずかしくなる。
何とか挽回したいと思ったが、頭が回らなかった。
「……ふふ、私も一緒に酔っちゃったかも。ちょっと酔い止め飲んどくね。今日のことは確り覚えていたいから」
「じゃ、じゃあ、僕は先にシャワー行くよ……」
「いいよ、そのままで」
「えっ……あっ、うん」
スーツにガードされているのに、細い背中は美しい。一枚ずつ素肌に近付くのだと、考えるだけで唾液が口内を潤していく。
何より、彼女の方から距離を縮めてくれるのが嬉しかった。
ベッドに座りこみ、シャツのボタンを外す。全ての衣類を脱いで、シーツへと潜った。
飲み終わった彼女が、時差でベッドに腰かける。それから、錠剤とペットボトルを差し出してきた。
「山本くんもいる?」
「うん」
今日のことを確り覚えていたい――彼女の心と合わせたくて、同じ行動をした。
僕の場合、忘れた方が都合はいいだろう。後ろめたさも後悔も生じないのだから。
けれど、こんな機会は二度とないのだ。それに、彼女との今後があったとき、忘れてしまったんじゃ話にならない。
――って、そうだ。結局、彼女との思い出は蘇らなかったな。まぁいっか。こんなに美しい人を抱けるなら、何だって。
森川さんが、背広を一枚脱ぐ。釘付けになっているのに、彼女は気にもしなかった。
第一ボタンから、滑らかに外していく。だが、三つほど開けたところで止まった。
「ねぇ山本くん、本当に私のこと覚えてた?」
「えっ」
何かを噛み殺すような微笑が、僕の目の前にある。証拠も確信もないのに、見抜かれたと感じた。
外面はよく拝んでいたが、まさか踏み込む日が来ようとは。いっそ来てしまったからか、高揚してくる。
相変わらず森川さんは緊張ぎみで、時折見せる笑みも固い。しかし、完成された見た目のとのギャップが、逆に魅力的だった。
部屋に入る。ダブルベッドは、家のものより一回り大きかった。ムーディな暖色のライトと、殺風景な室内が行動を促してくる。
床に二つバッグが置かれたことで、持たせてしまっていたことに気付いた。失態に恥ずかしくなる。
何とか挽回したいと思ったが、頭が回らなかった。
「……ふふ、私も一緒に酔っちゃったかも。ちょっと酔い止め飲んどくね。今日のことは確り覚えていたいから」
「じゃ、じゃあ、僕は先にシャワー行くよ……」
「いいよ、そのままで」
「えっ……あっ、うん」
スーツにガードされているのに、細い背中は美しい。一枚ずつ素肌に近付くのだと、考えるだけで唾液が口内を潤していく。
何より、彼女の方から距離を縮めてくれるのが嬉しかった。
ベッドに座りこみ、シャツのボタンを外す。全ての衣類を脱いで、シーツへと潜った。
飲み終わった彼女が、時差でベッドに腰かける。それから、錠剤とペットボトルを差し出してきた。
「山本くんもいる?」
「うん」
今日のことを確り覚えていたい――彼女の心と合わせたくて、同じ行動をした。
僕の場合、忘れた方が都合はいいだろう。後ろめたさも後悔も生じないのだから。
けれど、こんな機会は二度とないのだ。それに、彼女との今後があったとき、忘れてしまったんじゃ話にならない。
――って、そうだ。結局、彼女との思い出は蘇らなかったな。まぁいっか。こんなに美しい人を抱けるなら、何だって。
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第一ボタンから、滑らかに外していく。だが、三つほど開けたところで止まった。
「ねぇ山本くん、本当に私のこと覚えてた?」
「えっ」
何かを噛み殺すような微笑が、僕の目の前にある。証拠も確信もないのに、見抜かれたと感じた。
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