少女Aの憂鬱

有箱

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最終話

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 高校に辞退の旨を連絡し、祝福をくれた北村先生にも報告した。逃げたいほどの勇気を必要としたが、ポジティブな未来を思って逃げ出さずに耐えた。よって、当日にほぼ全ての連絡を済ますことができた。残るはあと一件だ。

 自室に戻り、スマートフォンを立ち上げる。メッセージアプリを開き、ワンタップで電話をかけた。相手はセンカだ。
 両親との会話後、一度は連絡を入れた。しかし、まだ飛行機の中なのか繋がらなかったのだ。

 何度かコールを耳に流す。先程までの緊張と違い、心弾む緊張感がある。意識的でも無意識でも、相手を読んで話すばかりだったゆえ、何かを伝えたくて疼くのは久しぶりだった。

 コールが途切れ、世界が繋がる。移動中なのか、戸外のノイズが先に聞こえた。

「あ、もしもしアイロ、ごめんすぐ出れなかった」
「ううん、大丈夫。センカちゃん無事着いたんだね!」
「あ、声が明るい。この感じだと良い報告が聞けそうだね?」

 先読みに、ついはにかんでしまう。センカの微笑みが電話越しでも見えた。

「うん! 私ね、青笹にいくことになったよ!」

 報告直後、小さな間が空いた。驚く様子と言葉を描き、喜びの返事を待つ。今にも、良かったねとの祝福が聞こえてくるだろう。と予測したのも束の間、

「そっか、頑張ったね。すごく頑張った」

 聞こえてきたのは労いだった。センカらしいと言えばそうだが、予想とは違った返答に少しばかり瞳が潤む。

 辞退報告による残念な声に、胸が痛まなかった訳がない。隠れた勇気を認めてほしかったわけでもない。それでも、やっと今選択の全てを肯定できた気がした。

「……うん、ありがとう」
「じゃあ、これでやっと言えるね」

 センカの声以外、音が静かになる。部屋に着いたのだろうか。不思議と、少し前のように同じ空間にいる気分になった。

「アイロ、第一志望承諾おめでとう」

 祝福に心が震える。静かな空気とは裏腹に、私の心身は華やぐ。
 脳内に描き出された感謝が、正しいかチェックされる前に私から溢れた。
 
 心からの、ありがとうが響くーー。
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