写る記憶と宝物

有箱

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写る記憶

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 その夜、部屋を訪れた妻に何かを渡された。感触で探り、物体の正体を突き止める。
 金属の冷たさや硝子の滑らかさで、それがカメラだと直ぐに分かった。

「確か持ってた気がして探してみたの。せっかくだから、今の写真も撮ろうよ」

 写真撮影――脳内で最初に過ったのは、撮っても見られないとの事実だった。

 だが、ネガティブな感情はない。なぜなら、写真そのものより、残る記憶こそが宝になると知っているからだ。

「とても素敵だね。ずっと大切にするよ」

 小気味良いシャッター音が、幸せな時間を切り取った。
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