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電車を乗り継いで数十分、目的地に着いた。さすが休日の遊園地だ、人が多い。
これは、待ち時間が長くなるやつ──。
「恵、見てー! あれ、俺身長足りなくて乗れなかったやつー!」
頭の片隅に滑り込んできた、遠くからの声に視線を傾ける。和臣は知らぬ間に先へ進んでいて、何かを指さしていた。
「行くの早っ……てかよく覚えてんね」
駆け足して追いつき、指先を見ると懐かしいアトラクションが目に映った。尚、当時の記憶は淡い。
「うん。で、恵は乗れたのに俺に合わせて乗らなかったやつ」
「えっ、そんなことしたっけ」
「うん。俺、恵との思い出いっぱい覚えてるよ」
僅かに静まった声に、思わず顔をあげた。和臣の視線はどこか遠くにあって、何かを懐古しているようだ。
「……乗る?」
「乗る!」
その横顔が何を思ったか、気になったが尋ねることは出来なかった。
*
観覧車にて無邪気に喜ぶ彼を見ていると、当然だった日々が戻ってきたかのような錯覚に陥る。
けれど、足元を見ればそうでないことは一目瞭然で、寂しくなっては彼を想う。
和臣は、大人になれない。同じように生きられない。だったらと成仏の手助けを始めたが、今になって良かったのか迷い始めている。
これは、本当に和臣の為のデートなのか。という疑問さえ浮かんできた。
「……和臣、成仏したい?」
「え、突然だ」
窓に両手を付けたまま、和臣は振り返る。真剣な話を振った割には、軽々しい反応だ。
「深い意味はないよ」
「……うーん……恵はして欲しいんだもんね?」
相変わらず、彼に考える気は無いようで、回答開始数秒で投げ返された。意外でもない為、とりあえず答える。
「そりゃして欲しいよ。だってほら、変に彷徨うとかになったら大変だし?」
まぁ、建前の答えだけど。
「そうだよなー。俺もどっちかって聞かれるとしたいかも」
「何それ」
「だって、よく分かんないし。あっ、恵見て! あそこ覚えてる!?」
またも思い出の場所を見つけたらしく、和臣の瞳は輝き出す。切り替えの早さに驚きつつ、彼らしいと笑った。
*
観覧車の中はもちろん、待ち時間も移動中も話が尽きることは無かった。想像以上の充実感だ。
気付けば閉館時間が近付いており、実は今驚愕していたりもする。
彼は本当に記憶力がよく、私の忘れていた思い出を多く語ってくれた。遊園地での話のみならず、小さい頃の話から高校生になってからの話まで、長きに亘る期間の思い出だ。
共に過ごした時間の、ほぼ全てと言ってもいい。
だが、もちろんのこと抜けた部分の思い出話はなく、そこは私が教える形となった。
「……やっぱしっくり来ない……俺と恵が付き合って、手を繋いだりお昼食べたりしたの?」
「うん」
出口へと歩きながらも、私と和臣が触れ合うことは無かった。和臣の視線は、前を歩くカップルに注がれている。
「……恵は、俺を一人の男として好きだったの?」
その横顔は、紅潮し火照っていた。
「……それ、告白した時にも聞かれたよ」
苦笑いして顔を背け──ようとしてやめた。改めて向き直り、立ち止まる。
和臣も空気を読み取ってか、立ち止まって私を見た。周囲は、自然と私を避けていく。
「そうだよ。幼馴染みじゃなくて男性として好きなの」
反応に困っているのか、和臣は黙り込む 。一度目の告白と全く同じだ。
変貌した空気に態と流されるようにして、隠していた本心も零してみた。
「……本当は成仏なんてして欲しくない。どこにも行かず、このまま傍にいて欲しい」
しかし、これではまるで未練を増やそうとしているようだ。取り除くため、やってきたと言うのに。
「恵……」
しかし、今のままでは、私の未練になりかねないから仕方がない。
「……次は和臣の番。和臣がどう思ってるか、ちゃんと聞かせて。適当じゃなくて、ちゃんと考えて聞かせて」
少し透けた右手を、掴もうと手を伸ばす。しかし、擦り抜け空しか掴めなかった。
「俺がどう思ってるか……?」
和臣は、行き場の無い私の手と、顔とを交互に見つめる。一生懸命に物を考えているのが、気配だけでも分かった。
「あっ」
やけに軽い発声と同時に、和臣の瞳が見開かれる。続く言葉が想像出来ず、緊張が走った。
初めて聞く、彼の本心は──。
これは、待ち時間が長くなるやつ──。
「恵、見てー! あれ、俺身長足りなくて乗れなかったやつー!」
頭の片隅に滑り込んできた、遠くからの声に視線を傾ける。和臣は知らぬ間に先へ進んでいて、何かを指さしていた。
「行くの早っ……てかよく覚えてんね」
駆け足して追いつき、指先を見ると懐かしいアトラクションが目に映った。尚、当時の記憶は淡い。
「うん。で、恵は乗れたのに俺に合わせて乗らなかったやつ」
「えっ、そんなことしたっけ」
「うん。俺、恵との思い出いっぱい覚えてるよ」
僅かに静まった声に、思わず顔をあげた。和臣の視線はどこか遠くにあって、何かを懐古しているようだ。
「……乗る?」
「乗る!」
その横顔が何を思ったか、気になったが尋ねることは出来なかった。
*
観覧車にて無邪気に喜ぶ彼を見ていると、当然だった日々が戻ってきたかのような錯覚に陥る。
けれど、足元を見ればそうでないことは一目瞭然で、寂しくなっては彼を想う。
和臣は、大人になれない。同じように生きられない。だったらと成仏の手助けを始めたが、今になって良かったのか迷い始めている。
これは、本当に和臣の為のデートなのか。という疑問さえ浮かんできた。
「……和臣、成仏したい?」
「え、突然だ」
窓に両手を付けたまま、和臣は振り返る。真剣な話を振った割には、軽々しい反応だ。
「深い意味はないよ」
「……うーん……恵はして欲しいんだもんね?」
相変わらず、彼に考える気は無いようで、回答開始数秒で投げ返された。意外でもない為、とりあえず答える。
「そりゃして欲しいよ。だってほら、変に彷徨うとかになったら大変だし?」
まぁ、建前の答えだけど。
「そうだよなー。俺もどっちかって聞かれるとしたいかも」
「何それ」
「だって、よく分かんないし。あっ、恵見て! あそこ覚えてる!?」
またも思い出の場所を見つけたらしく、和臣の瞳は輝き出す。切り替えの早さに驚きつつ、彼らしいと笑った。
*
観覧車の中はもちろん、待ち時間も移動中も話が尽きることは無かった。想像以上の充実感だ。
気付けば閉館時間が近付いており、実は今驚愕していたりもする。
彼は本当に記憶力がよく、私の忘れていた思い出を多く語ってくれた。遊園地での話のみならず、小さい頃の話から高校生になってからの話まで、長きに亘る期間の思い出だ。
共に過ごした時間の、ほぼ全てと言ってもいい。
だが、もちろんのこと抜けた部分の思い出話はなく、そこは私が教える形となった。
「……やっぱしっくり来ない……俺と恵が付き合って、手を繋いだりお昼食べたりしたの?」
「うん」
出口へと歩きながらも、私と和臣が触れ合うことは無かった。和臣の視線は、前を歩くカップルに注がれている。
「……恵は、俺を一人の男として好きだったの?」
その横顔は、紅潮し火照っていた。
「……それ、告白した時にも聞かれたよ」
苦笑いして顔を背け──ようとしてやめた。改めて向き直り、立ち止まる。
和臣も空気を読み取ってか、立ち止まって私を見た。周囲は、自然と私を避けていく。
「そうだよ。幼馴染みじゃなくて男性として好きなの」
反応に困っているのか、和臣は黙り込む 。一度目の告白と全く同じだ。
変貌した空気に態と流されるようにして、隠していた本心も零してみた。
「……本当は成仏なんてして欲しくない。どこにも行かず、このまま傍にいて欲しい」
しかし、これではまるで未練を増やそうとしているようだ。取り除くため、やってきたと言うのに。
「恵……」
しかし、今のままでは、私の未練になりかねないから仕方がない。
「……次は和臣の番。和臣がどう思ってるか、ちゃんと聞かせて。適当じゃなくて、ちゃんと考えて聞かせて」
少し透けた右手を、掴もうと手を伸ばす。しかし、擦り抜け空しか掴めなかった。
「俺がどう思ってるか……?」
和臣は、行き場の無い私の手と、顔とを交互に見つめる。一生懸命に物を考えているのが、気配だけでも分かった。
「あっ」
やけに軽い発声と同時に、和臣の瞳が見開かれる。続く言葉が想像出来ず、緊張が走った。
初めて聞く、彼の本心は──。
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