ゆうれい彼氏と彼女のわたし

有箱

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 電車を乗り継いで数十分、目的地に着いた。さすが休日の遊園地だ、人が多い。
 これは、待ち時間が長くなるやつ──。

「恵、見てー! あれ、俺身長足りなくて乗れなかったやつー!」

 頭の片隅に滑り込んできた、遠くからの声に視線を傾ける。和臣は知らぬ間に先へ進んでいて、何かを指さしていた。

「行くの早っ……てかよく覚えてんね」

 駆け足して追いつき、指先を見ると懐かしいアトラクションが目に映った。尚、当時の記憶は淡い。

「うん。で、恵は乗れたのに俺に合わせて乗らなかったやつ」
「えっ、そんなことしたっけ」
「うん。俺、恵との思い出いっぱい覚えてるよ」

 僅かに静まった声に、思わず顔をあげた。和臣の視線はどこか遠くにあって、何かを懐古しているようだ。

「……乗る?」
「乗る!」

 その横顔が何を思ったか、気になったが尋ねることは出来なかった。



 観覧車にて無邪気に喜ぶ彼を見ていると、当然だった日々が戻ってきたかのような錯覚に陥る。
 けれど、足元を見ればそうでないことは一目瞭然で、寂しくなっては彼を想う。

 和臣は、大人になれない。同じように生きられない。だったらと成仏の手助けを始めたが、今になって良かったのか迷い始めている。

 これは、本当に和臣の為のデートなのか。という疑問さえ浮かんできた。

「……和臣、成仏したい?」
「え、突然だ」

 窓に両手を付けたまま、和臣は振り返る。真剣な話を振った割には、軽々しい反応だ。

「深い意味はないよ」
「……うーん……恵はして欲しいんだもんね?」

 相変わらず、彼に考える気は無いようで、回答開始数秒で投げ返された。意外でもない為、とりあえず答える。

「そりゃして欲しいよ。だってほら、変に彷徨うとかになったら大変だし?」

 まぁ、建前の答えだけど。

「そうだよなー。俺もどっちかって聞かれるとしたいかも」
「何それ」
「だって、よく分かんないし。あっ、恵見て! あそこ覚えてる!?」

 またも思い出の場所を見つけたらしく、和臣の瞳は輝き出す。切り替えの早さに驚きつつ、彼らしいと笑った。



 観覧車の中はもちろん、待ち時間も移動中も話が尽きることは無かった。想像以上の充実感だ。
 気付けば閉館時間が近付いており、実は今驚愕していたりもする。

 彼は本当に記憶力がよく、私の忘れていた思い出を多く語ってくれた。遊園地での話のみならず、小さい頃の話から高校生になってからの話まで、長きに亘る期間の思い出だ。
 共に過ごした時間の、ほぼ全てと言ってもいい。

 だが、もちろんのこと抜けた部分の思い出話はなく、そこは私が教える形となった。

「……やっぱしっくり来ない……俺と恵が付き合って、手を繋いだりお昼食べたりしたの?」
「うん」

 出口へと歩きながらも、私と和臣が触れ合うことは無かった。和臣の視線は、前を歩くカップルに注がれている。

「……恵は、俺を一人の男として好きだったの?」

 その横顔は、紅潮し火照っていた。

「……それ、告白した時にも聞かれたよ」

 苦笑いして顔を背け──ようとしてやめた。改めて向き直り、立ち止まる。
 和臣も空気を読み取ってか、立ち止まって私を見た。周囲は、自然と私を避けていく。

「そうだよ。幼馴染みじゃなくて男性として好きなの」

 反応に困っているのか、和臣は黙り込む 。一度目の告白と全く同じだ。
 変貌した空気に態と流されるようにして、隠していた本心も零してみた。

「……本当は成仏なんてして欲しくない。どこにも行かず、このまま傍にいて欲しい」

 しかし、これではまるで未練を増やそうとしているようだ。取り除くため、やってきたと言うのに。

「恵……」

 しかし、今のままでは、私の未練になりかねないから仕方がない。

「……次は和臣の番。和臣がどう思ってるか、ちゃんと聞かせて。適当じゃなくて、ちゃんと考えて聞かせて」

 少し透けた右手を、掴もうと手を伸ばす。しかし、擦り抜け空しか掴めなかった。

「俺がどう思ってるか……?」

 和臣は、行き場の無い私の手と、顔とを交互に見つめる。一生懸命に物を考えているのが、気配だけでも分かった。

「あっ」

 やけに軽い発声と同時に、和臣の瞳が見開かれる。続く言葉が想像出来ず、緊張が走った。

 初めて聞く、彼の本心は──。
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