ゆうれい彼氏と彼女のわたし

有箱

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 結局、あっさりとデートが決まった。三日後の日曜、場所は兼ねてから予定していた遊園地だ。

 複雑な心境ではあったが、無くなってしまったはずのデートが出来るのだ。嬉しくないわけがなかった。
 隣の彼氏は誰にも見えず、傍から見れば一人で遊ぶ寂しい人間だろう。それでも心が踊った。

 もちろん、和臣には告げなかったが。

「――で、とりあえず未練っぽいことこれだけで良かった?」

 夜、自室にて机に向かう。目前に、二、三個ほど意見を箇条書きにした紙を置いて。

「あとはあれだ! 漫画の新刊! 恵の情報じゃ発売日に死んでるもん俺! あとはー」

 背後で悩む和臣は、ひたすら記憶を掘り返している。

「……それは確かに気になるかもね。はい、漫画の新刊っと……」

 現在、彼の曖昧な勘を頼りに、未練リストの製作中だ。デート当日までに、可能な限り消していこうと言った魂胆である。

 ──とは言っても、現段階で未練として強く残りそうな物は出ていない。
 唯一あげるならば、家族に何も言えなかった、と言う項目だけだろうか。

「じゃあ、明日からやるからね。という事で私はそろそろ寝る、おやすみ」

 筆記具と紙をそのままに、方向転換しベッドへと倒れ込む。
 結局、一日中不思議な気分は抜けなかった。

「はーい、おやすみ」

 それに比べて、和臣は相変わらずだ。元気な挨拶だけを残し、扉を擦り抜け出ていこうとする。

「……結構すんなり出てくんだ」
「え?」
「いや、なんでもない。じゃあまた明日」
「おやすみー」

 幽霊相手に何を期待しているのだか。彼が死んでしまって、未練がましいなのは自分の方じゃないか。
 部屋に一人残され──本来の姿であるのに関わらず──言い表せない寂しさを覚えた。

 彼の方は、どう思っているのだろう。なんて勝手に考えては軽く枕を叩いた。



 あれから二日が経過した。計画当初から予想はしていたが、イベントと言うにはあまりにも面白みのない二日だった。

 この二日間、行ける所には行った。漫画を買いに行って読んだし、見逃した最終回もレンタルして見た。友だちに借りていたという本も返してきた。

 もちろん、和臣のご両親にも会いに行った。しかし感動はあまりなく、意外にもあっさりとした一幕だった。

 さすが和臣の家族だ。同じ血とでも言うのだろうか。両親共々驚きの軽さである。
 まぁ、少しは知っていたけども。

 計画の時点で生じた、信じて貰えるだろうかとの心配を飛び越え、真横にいる所まで肯定してくれた。二人曰く、元気そうなら安心との事だ。



「良かったじゃん。受け入れてくれて」

 やや腑に落ちない部分を抱えながら、冗談半分に投げかける。和臣の方は、何も引っ掛かっていないようだった。

「うん、本当に良かった。二人とも元気そうで」
「……もっと泣いて欲しかったとかないんだ?」

 態度には出さないが、内心怖々と問いかける。しかし、意外な意見だったのか彼はまた笑った。

「別にないかな。あと、多分あれでも悲しんでるよ。俺は分かった」
「……そう」

 私の気持ちには、鈍感なくせに。
 和臣の訃報を聞いた日を思い出し、少しだけ頬を膨らませた。



 デート前日、私は考えていた。
 このまま予定をすっぽかしてしまえば、彼と共に居続けられるだろうか、と。

 無論、実行しようとは思わない。しかし、彼が亡くなった日の喪失感を思い出すと、二度目の別れを否定したくなるのだ。

 彼も同じだったら良いのに。なんて傲慢なことまで考えている。彼のことだ、無いと分かってはいるけれど。

 そもそも、デートが最大の未練だと決め付ける時点で間違っているかもしれない。

 彼は、どう思っているんだろう。何を感じているんだろう。そう言えば、あまり和臣個人の意見を聞いたことがないかもしれない──なんて。

 あれこれ考えていても仕方がない。と、敢えて布団を顔まで被る。しかし、真っ暗な景色は空想を促進させるだけだった。
 
 私は、和臣が好きだ。
 天真爛漫で、でも優しくて、幼い頃から共に生きてきた彼が好きだ。
 好きだから、私は和臣の全てが知りたい。

 明日は、悔いのない一日にしよう。



 目を覚ますと、当然の如く和臣がいた。昨日と同じ景色である。

「おはよう!」

 時計を見ると、アラームの設定時間をとうに超えていた。今日も今日とて、止めた記憶がない。
 特別な日なのに、と溜息が出かけた。

「今日は遊園地の日だね! 調子はどう!? 出発出来そう!?」

 しかし、威勢よく飛び出した言葉の数々に押され、思わず吹き出してしまった。ご機嫌な彼を見ていると、不思議と自分のことなんかどうでも良くなる。

「まだ起きたばかりだよ! はしゃぎすぎ!」
「だって遊園地なんて久しぶりじゃん」
「まぁ、小さい頃に二家で行ったきりだよね」
「あの時、楽しかったから絶対楽しいよ」
「そうだね、楽しいね」

 もしかすると、和臣は自分が幽霊だと忘れているのかもしれない。普通の人間のように、イベントを楽しもうとしているのかもしれない。
 それなら、私だけが熟考しても意味はないだろう。

「……めいっぱい遊ぶから覚悟しろ」
「イエッサー隊長! どこまでも着いていきやす!」
「よし、良い気構えだ」

 即興劇で会話に幕を下ろしたところで、準備すべく彼を部屋から追い出した。
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