君は大人になってゆく

有箱

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最後の《3》ー最終話

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「わ、私には、とても優しくて強い幼馴染みがいました。内気な私をいつも守って助けてくれました。きっと、たくさん心配させていたと思います」

 突如始まった私事に、妙な空気が流れ始める。興味深そうに耳を傾けるもの、隣同士で首を傾げる者。詰まらなさそうな目を向ける者。そんな様々な反応に対し、唯ちゃんは怯まなかった。顔をあげたまま続きを紡ぐ。

「でも、その人は、中学に上がる前に事故で死んでしまいました」

 ーーやっぱり、これは僕へのメッセージだ。唯ちゃんを置き去りにした、僕へのメッセージ。

「ずっと、ちゃんとお礼が言いたかった。でも、駄目なままの私じゃ顔向けできないって思って、結局言えないまま高校生になってしまいました。だから、駄目な自分を抜け出したくて、代表を努めさせて頂きました。ですので、この場をお借りして言わせて下さい」

 体中がじんわりと暖かくなり、仄かな笑みが滲み出す。

 思っていたよりずっと、唯ちゃんは大人だった。僕はただそれらしい理由をつけて、勝手に寄り掛かっていただけなのかもしれない。心配だとか、見守りたいとかーー離れたくないを上塗る為の理由を。

 唯ちゃんが微笑む。それが精一杯の強がりだと僕には分かった。
 けれど、唯ちゃんは自ら一人で立つことを決めた。そんな姿を見せられては、『僕が側にいる』だなんてもう言える訳がない。

 どうやら僕も、そろそろ卒業しなくてはいけないようだ。

「ともちゃん、私はもう大丈夫。頑張れるよ。ずっとずっとありがとう」
「……こちらこそ、今までずっとありがとう」
 
 さよなら唯ちゃん。それから卒業おめでとう。
 僕は一足早く、新しい世界へ旅立つことにするよ。
 
 拍手が鳴り響く。僕の心も地上の色も、鮮やかな桃色に染まっていた。
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