優しきストーカーとの生活

有箱

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 鞄を投げ捨て、体もベッドに投げる。解放感より先に疲労感が押し寄せ、真っ先に怠惰を抱き締めた。

 私は今日、自主退職した。入社からちょうど二年目の日だった。五年先はここにいないだろうーー協調を苦手とする質ゆえ、入社当初から予測はしていた。ただ、不用品扱いされ、透明人間として退社を迎えるとは思わなかったが。

 しかし、決断に至った理由は、会社内部だけに留まらない。寧ろ、最大の理由は外にあった。
 私はストーカー被害に遭っている。とは言え、直接的な攻撃はまだない。一年以上、ただただ背後をつけられ続けた。

 "勘違い"または"たったそれだけ"と言われれば、そうなのかもしれない。しかし、外を歩くたび視線を刺されては、精神が持たなかった。特に夜間の帰路は恐ろしく、何度死を描いただろう。心を先に殺されかけ、私は退職を決意した。

 無論、永遠に引き篭れるとは思っていない。しかし、対策や今後の予定は、その内決めることとする。

 とにもかくにも、明日から私は自由なのだ。理不尽に叱られることも、顔色を伺うことも要らない。好きな時間に起床し、着替えの時間もーーいや、着替えさえしなくてよくなる。メイクも、風呂さえも、全て思うようにしていいのだ。何より、直接的な目に絡まれなくて済む。
 職がないのは不安だが、肯定要素は幾つだって見つかった。
 
 そうだ。私は明日からーーいや、今日から自由に生きられるのだ。
 と、思っていた、約十時間前の私に教えたい。自由なんてこれっぽっちも無かったよ、と。
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