神さまどうか、恵みの雨を

有箱

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神さま(1)

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 僕への理不尽な仕打ちは、村にとって潤滑油なのだろう。無しでは皆、狂ってしまうから常に攻撃を仕掛けてくる。正直、狂ってしまえと思うが祖母を見習い噤んだ。

 裏の畑で芋を掘る。乾き切った土は粉っぽく、時々咽せそうになった。
 畑によっては、地上に作物を育てているところもある。しかし、荒らされがちな我が家では地中の食物しか作れなかった。

 体が栄養と水分を求め続けている。あと半年もこの生活を続ければ、体が乾涸び心臓も仕事を放るだろう。体感で察知していた。

「……もっと色んなものが食べたい」

 怒りは土の下に埋め、誰にも向かない不満だけ声にする。
 今は、人の目も日差しもない。しかし、閉鎖された場所でだって、やはり祖母は人を貶めなかった。だから無意識に、僕も真似てしまった。
 なんて、もしかしたら祖母は、常に誰かの気配を感じていたのかもしれない。

『可哀想な奴だな』

 上空から降ってきた声に、発掘の手が止まった。同時に、目の前の小空間にだけ雨――話に聞いていた水の粒が落ちてくる。明らかに非現実な現象が、相手の正体を一発で推測させた。

「……神さまですか?」
『そうだ』

 肯定の返事は、推測を一気に確信にした。否定していた存在が証明され、畏怖に慄く。
 だが、絶好の機会が訪れたことを、冷静に察知もした。メラメラと、何度も殺した炎が生き返る。

「どうされたんですか」
『君の願いでも聞いてやろうと思ってな』
「村ではなくてですな?」
『村人の願いを叶えてほしいのか?』
「いいえ、ただ不思議なだけです……」

 これは、現状を抜け出す機会。そして村人に復讐する機会だ――。

『簡単なことだ。村の人間は願いを叶えてやったのに、感謝どころか次は逆を願い出した。無慈悲などと言っているようだしな。だから私は彼らが嫌いなのだ。で、そんな彼らから、君も虐めを受けているようじゃないか。だからそろそろ助けてやろうと思ってな』

 もっと早く、手を差し伸べてくれても良かったのに。なんて淡く苛立ちは感じたが、それ以上に味方の匂いに飛びつきたくなる。
 神からすれば、十五年なんか一瞬なのかもしれない。きっと、人には分からない感覚があるのだろう。
 思いの外、人間的な感性もお持ちのようだが。

 村人に対し、ざまぁみろと脳で呟く。復讐を願う自分の姿を描いた時、心を読んだような単語が聞こえた。

『仕返しでもするか? 私は天気しか司れないが、方法によっては村人の支配も容易だぞ』

 だが、真っ直ぐに誘われ、祖母が頭で口癖を吐く。瞬間、頷きかけた首が金縛りにあった。

「……考える時間、頂いてもいいですか?」
『いいぞ、決まったら呼びたまえ。叶えられることならなんだって叶えてやろう』

 飄々と言葉だけ残し、雨が上がる。濡れた土は、触ると手に纏わり付いた。
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