桜の記憶

有箱

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最終話:桜の記憶

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 約一週間かけて、全てのノートを読破する。机に固めたところで、スマートフォンの点滅に気付いた。
 小鈴から、メッセージが届いていたらしい。一時間後に迎えに行きます。準備しておいてね――ハッとなり受信時刻を見ると、四十分前を表示していた。
 慌てて椅子から跳び跳ねる。ノートはそのままに、急いで準備を始めた。

 本日は、今年分のノートを買いにいく。ノートの巻末全てに、決まって“毎夜一日の出来事を書き留めるように!”との指示があった。だから過去の私に従い、今年も日課にする予定だ。
 
 桜は完全に緑になり、新たな人生を紡ぎはじめた。私がこれから紡ぐ一年も、花びらが落ちる頃にはまた連れ去られてしまうのだろう。
 けれど私は、そうやって繰り返しながら生きるしかないから。

 毎年毎年、私の記憶を奪っていく桜。正直、存在自体が嫌いだ。
 けれど、大好きなお兄ちゃんを憎まず終われたのも、両親を失った悲しみを置いてこられたのもまた、私の人生に桜があったから。だから感謝はしているよ。
 
 春。あらゆる場所で起こる新しい何かに、緊張と期待を膨らませる季節。
 空きだらけの脳に、新しい日々を迎える準備は整った。
 
 さて、最初のページには何を残そうか。
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