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序章
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春。張りつめた冬を越え、人々の心が和らぐ季節。あらゆる場所で起こる新しい何かに、緊張と期待を膨らませる季節。
けれど私は、この季節が嫌いだった。はじまりを連れてくるこの季節が――いや、正しくは桜が、か。
カーテンを開けると、第一に桜木が挨拶してきた。白に近い花びらが、競うように地上を目指している。
緑と白で斑になる体を、お世辞にも綺麗とは言えない。私の場合、どのような姿であろうと、純粋な感動は得られないのだけど。
桜のよく見えるこの物件は、約六年前、十八歳だった私自ら選んだ――らしい。六冊目の日記にそうあった。
あと一週間もすれば、私は一年分の記憶を失う。だからもう一度、読み返しておこう。十七冊分の長い記憶を。
けれど私は、この季節が嫌いだった。はじまりを連れてくるこの季節が――いや、正しくは桜が、か。
カーテンを開けると、第一に桜木が挨拶してきた。白に近い花びらが、競うように地上を目指している。
緑と白で斑になる体を、お世辞にも綺麗とは言えない。私の場合、どのような姿であろうと、純粋な感動は得られないのだけど。
桜のよく見えるこの物件は、約六年前、十八歳だった私自ら選んだ――らしい。六冊目の日記にそうあった。
あと一週間もすれば、私は一年分の記憶を失う。だからもう一度、読み返しておこう。十七冊分の長い記憶を。
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