錆びた灯台で幽霊少女に恋をした

有箱

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会えてよかった

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 明日から夏休みに突入する。今年も去年同様、クーラーの部屋と同化することになりそうだ。コンビニで購入したアイスを、かじりながら階段を上る。壁に覆われた空間は、既に熱気で重くなっていた。

 休暇が訪れる前に、一度だけでも会いたいなぁ――期待への裏切りを覚悟し、最後の一口と同時に最上階へ踏み込む。
 だが、視界に飛び込んだのは裏切りへの裏切りだった。

「んあっ!」

 願っていた光景を前に、声が先に彼女へ飛び付く。思わず溢れた声に僕自身も、そして彼女も驚いていた。僅かにすくませた肩を下ろし、美しい顔を振り向かせる。変わらぬ無表情を目に、安堵が舞い降りた。

「会えてよかったー! もう来ないかと思った!」

 そして口走ってもいた。
 あっ、これじゃただの気色悪い人じゃんか! と、狼狽える。だが、上乗せする台詞を、速攻で見つけ出せるほど器用ではない。焦りに爆速で追い詰められる中、聞こえた。

「会いたかったの……?」

 波に紛れそうなほど儚い声だった。だが、確かに聞こえた。初めて耳にする声に驚き、条件反射的に肯定する。
 変な顔でもしていたのか、少女は仄かに微笑んだ。キューピットの矢がめり込むとはこの事か――なんて例えを実感し、衝撃に数秒固まる。
 僕の場合、恋の自覚はしていたけど。しかし、今この瞬間何倍にも膨れ上がった。

 あまりの愛らしさに立ち尽くしていたが、不意に我に帰る。残っていた判断力を働かせ、妙な空気になる前にと腰を下ろした。
 “普段通り”になる前に、名前くらいは聞いておきたい。願望こそ一人前にあったものの、ハードルの高さも相当だった。敢えて尋ねる勇気は豆粒より小さく、僕を勝手に無口にさせた。

 海まで染めていた、夕日が沈み行く。視界が暗くなる度、カウントダウンされている気分になった。いつも通り、純粋に美しさを楽しめない。名前か学校名か。彼女が消えた時、存在を辿れる足掛かりがほしい。

「あ、あの……!」

 覚悟を決めるため、わざと注意を引き付ける。

「……な……な……」

 僕へと向いた無表情の上に、疑問符が見えたような気がした。熱気の後押しもあり、汗が吹き出している。涼しい顔の彼女とは反対で、顔まで真っ赤になっている自覚がある。
 なんだコイツ、キモい。なんて思われる前に、何か言わなきゃ!

「夏休みがあけたらまた来ますか!」

 ――結果、飛び出した言葉に自分自身驚愕する。無我のアドリブが上手すぎて、逆に悲しくなってくる。これで首を横振りされたら、僕らの糸は完全に切れるだろう。

 ぐるぐると失敗を責めていると、少女が浅く頷いた。瞬間、簡単に頭がホワイトアウトした。代わりに湧いてきた安堵が、僕をへなへなと脱力させる。
 あー良かった。これで一命はとりとめた。また彼女に会える。それで十分だ。
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