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三日後、計算されていたかのように大学とバイトの休日が被り、白都は電車で金融会社に向かっていた。
今は個人証明があれば一人でも借りられる時代らしく、審査はあったものの無地通過し、借金することが出来た。
当然、手を出してしまったことへの罪悪感はある。だが、仕方がないことだと切り替えて遣り過ごした。
これからも金の工面はここでどうにかなりそうだ、と小さくポジディブな気持ちさえ浮かんでいた。
残るは自傷だけだ。それさえこなしてしまえば罰は免れられる。
痛みを我慢さえすれば、あの深く黒い恐怖に遭遇することは無いのだ。
白都は苦悩を掻き消すように“これさえ終われば命は助かる。皆が救われる”と言い聞かせた。
***
図書館の静かな空間で、日向は物思いに耽っていた。内容は、数日前に見た白都の様子について――それから侑也の様子についてもだ。
ぼうっと考えこんでいると、目の前によく知る人物が過ぎった。帝だ。図書館で彼を見るのは初めてである。
声も掛けず、目線で追いかけていると、ようやく存在に気付いてくれた。
とは言え、元々会話しない者同士だ。会釈を交わし合い、意思疎通は終了した。
そのまま帝が心理学のコーナーに消えてゆくのを目に、日向は帝の中にある思考を想像した。
***
白都は、一週間以上も己に聞かせ続けた言葉を反芻し、決意を少しずつ固めていた。
痛みは一瞬だ。罰よりは断然良い。これさえこなせば、あの恐怖に面することは無いんだ。
何百回も――カッターを手にしていない時でさえ考えていた。思考回路を塗り替えることにより、少しずつ目標を手繰り寄せてきたのだ。
白都は意を決し、皮膚に押し当てていた刃を勢い任せに下ろした。
じわりと血が滲み、集まりあって滑り落ちる。
白都は、目の前の光景をぼんやりと見詰めた。緊張が解け、じんじんと疼く浅い痛みが心地良いくらいだ。
意外な心地良さを感じる己に対し、他人を見るようにして“これは異常なんだろうな”と考える。
白都は手元にスタンバイしていた携帯を手に取り、傷口を写真に収めた。
そうしてからも落下する血をそのままに、しばらくの間、場面を見詰めていた。
***
翌朝、指示通り屋上に金を置く。それは、昼になる頃には封筒ごと消えていた。二つの命令を完遂出来たことに安堵し、白都はまた屋上で眠ってしまった。
その様子を真っ直ぐ見詰める、冷たい瞳に気付かないまま。
今は個人証明があれば一人でも借りられる時代らしく、審査はあったものの無地通過し、借金することが出来た。
当然、手を出してしまったことへの罪悪感はある。だが、仕方がないことだと切り替えて遣り過ごした。
これからも金の工面はここでどうにかなりそうだ、と小さくポジディブな気持ちさえ浮かんでいた。
残るは自傷だけだ。それさえこなしてしまえば罰は免れられる。
痛みを我慢さえすれば、あの深く黒い恐怖に遭遇することは無いのだ。
白都は苦悩を掻き消すように“これさえ終われば命は助かる。皆が救われる”と言い聞かせた。
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図書館の静かな空間で、日向は物思いに耽っていた。内容は、数日前に見た白都の様子について――それから侑也の様子についてもだ。
ぼうっと考えこんでいると、目の前によく知る人物が過ぎった。帝だ。図書館で彼を見るのは初めてである。
声も掛けず、目線で追いかけていると、ようやく存在に気付いてくれた。
とは言え、元々会話しない者同士だ。会釈を交わし合い、意思疎通は終了した。
そのまま帝が心理学のコーナーに消えてゆくのを目に、日向は帝の中にある思考を想像した。
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白都は、一週間以上も己に聞かせ続けた言葉を反芻し、決意を少しずつ固めていた。
痛みは一瞬だ。罰よりは断然良い。これさえこなせば、あの恐怖に面することは無いんだ。
何百回も――カッターを手にしていない時でさえ考えていた。思考回路を塗り替えることにより、少しずつ目標を手繰り寄せてきたのだ。
白都は意を決し、皮膚に押し当てていた刃を勢い任せに下ろした。
じわりと血が滲み、集まりあって滑り落ちる。
白都は、目の前の光景をぼんやりと見詰めた。緊張が解け、じんじんと疼く浅い痛みが心地良いくらいだ。
意外な心地良さを感じる己に対し、他人を見るようにして“これは異常なんだろうな”と考える。
白都は手元にスタンバイしていた携帯を手に取り、傷口を写真に収めた。
そうしてからも落下する血をそのままに、しばらくの間、場面を見詰めていた。
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翌朝、指示通り屋上に金を置く。それは、昼になる頃には封筒ごと消えていた。二つの命令を完遂出来たことに安堵し、白都はまた屋上で眠ってしまった。
その様子を真っ直ぐ見詰める、冷たい瞳に気付かないまま。
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