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今回死んだら、もう現世に戻れなくなる。なのに進展はない。方法も分からない。
そんな絶望的状況を、時間が追い詰めた。
今日は四月十日、人生の最終日。かもしれない。
ただただ、行き場のない焦燥だけが込み上げた。
「シュカ、俺神さまに勝てるだろうか?」
リードを引きながら問いかける。シュカはワンワンと返事をした。
分かっているのかいないのか、何とも不思議なタイミングだ。
「身近な存在で毎日会ってて、俺のことが好きな奴なんてどう導き出せば……」
三人の顔を脳内に並べ、改まる。前半二つは、やっぱり皆に共通している。
穂乃香は大切な妹だし、白賀はかけがえのない親友だ。委員長だって、親密ではないものの友人以上ではあるだろう。
全員、他者よりは近しい――と勝手に思っているだけかもしれないが。
不意に、リードがぐんと引っ張られた。突然の急発進に、付いて走るのがやっとだ。
一心に駆ける姿は、俺を答えに導くかのようだった。
――なんて、幻想に過ぎないが。
「なんだよお前、白賀見つけただけかよ。本当好きだな」
シュカは、白賀の足に頬擦りしている。白賀も屈み込み、シュカの頭を撫でた。
「見つけただけって何か探してた?」
「あ、いや……あのさ、変なこと聞くけど俺を好きな奴に心当たりとか……」
焦りが不自然さを生み出す。突拍子過ぎたのか、白賀は苦い顔をした。
神さまとの約束が過ぎり、内心焦った。だが、普段はない反応に継続すべきか戸惑う。
「……知らない方が俊の為だと思うよ」
「え、それってどういう」
迷っている間に、上手く片付けられてしまったが。進展の気配を上手く掴めず焦る。焦りが絶句を誘う。
だが、背後からの声が微妙な空気を切り裂いた。
「お二人とも何をされているのかしら?」
「「委員長」」
「何でもないよ。ね、俊。委員長こそ私服なんて珍しくない?」
「祖母を見舞いに柏木病院へ行くところよ」
「あれ、そこ穂乃香ちゃんの病院じゃん。折角なら一緒に行きなよ。僕は後から行くから」
「……えっ、でもご迷惑では」
目を泳がせ、なぜか抑え気味に狼狽える委員長の傍ら、白賀の様子を注視してしまう。
彼は、ヒントに関する何かを握っている――そう確信した。
*
結局、流れに流され委員長と病院に向かうことになった。
委員長は普段より少しお淑やかで、恋しているように――いや、これも錯覚だろう。
「なぁ委員長。変なこと聞くけどさ、俺のこと好きな……」
「そう言えば、妹さんとは双子の兄妹だとお聞きしましたが」
敢えて直で発してみた結果、あからさまにはぐらかされた。
それどころか、話題を戻させまいとするかの如く、妹の話を続けてくる。
それは、先ほどの白賀と重なる挙動だった。
もしかしすると、委員長も何か隠しているのかもしれない。
だが、短時間で聞き出せるはずもなく、病院に着いてしまった。
秘密を自然と暴露させるのは、なんて難しいのだろう。
*
「明日の手術、大丈夫かなぁ……」
穂乃香の呟きに、肩が跳ねる。運命を変えるチャンスを、もぎ取れない自分がもどかしい。
だからか、初めて心の声を発してしまった。
「もし駄目でも、一人では死なせないさ」
「それ、どういうこと?」
「え、いや、何でもない」
「後追いとかやめてよ!? お兄ちゃんが死ぬとか自分が死ぬより嫌だから……!」
穂乃香は涙目だった。滲み出す本音に心が揺さぶられる。
そうだ、俺は穂乃香の為に勝たなきゃならないんだ。
「なぁ穂乃香、俺に恋してる奴なんて知らないよな?」
「えっ、急にどうしたの?」
「いや、詳細は話せないけど大事なことなんだ」
真剣な眼差しを注ぎ、告げる。違和感として認識されないよう、願いながら。
穂乃香は、頬を赤らめ目を逸らした。だが、熱意が伝わったのか、瞳を合わせようと努めだす。
「…………お兄ちゃんを好きなのは……」
あと一歩。そんな場面で携帯が鳴った。バイト先からだ。こんな時に限ってマナーモードを忘れたらしい。
後目で見た時計の針は、出勤時間をとうに越えていた。
穂乃香との話が長引くかもしれない。
シュミレーションし、即座に欠勤理由を拵える。電話片手に部屋を出て、手際よく遣り取りを済ませた。
確信したら、すぐにゲームを終わらせよう。そうすれば運命は――。
突然、背中に衝撃が轟いた。一瞬何が起こったか分からなかった。だが、すぐに刺されたと認識した。
傷が熱くなり、急激に力が抜けて行く。携帯も手からすり抜けた。意識の遠退きに、どうしても抗えない。
そんな中、声が聞こえた。よく知った声だった。
そんな絶望的状況を、時間が追い詰めた。
今日は四月十日、人生の最終日。かもしれない。
ただただ、行き場のない焦燥だけが込み上げた。
「シュカ、俺神さまに勝てるだろうか?」
リードを引きながら問いかける。シュカはワンワンと返事をした。
分かっているのかいないのか、何とも不思議なタイミングだ。
「身近な存在で毎日会ってて、俺のことが好きな奴なんてどう導き出せば……」
三人の顔を脳内に並べ、改まる。前半二つは、やっぱり皆に共通している。
穂乃香は大切な妹だし、白賀はかけがえのない親友だ。委員長だって、親密ではないものの友人以上ではあるだろう。
全員、他者よりは近しい――と勝手に思っているだけかもしれないが。
不意に、リードがぐんと引っ張られた。突然の急発進に、付いて走るのがやっとだ。
一心に駆ける姿は、俺を答えに導くかのようだった。
――なんて、幻想に過ぎないが。
「なんだよお前、白賀見つけただけかよ。本当好きだな」
シュカは、白賀の足に頬擦りしている。白賀も屈み込み、シュカの頭を撫でた。
「見つけただけって何か探してた?」
「あ、いや……あのさ、変なこと聞くけど俺を好きな奴に心当たりとか……」
焦りが不自然さを生み出す。突拍子過ぎたのか、白賀は苦い顔をした。
神さまとの約束が過ぎり、内心焦った。だが、普段はない反応に継続すべきか戸惑う。
「……知らない方が俊の為だと思うよ」
「え、それってどういう」
迷っている間に、上手く片付けられてしまったが。進展の気配を上手く掴めず焦る。焦りが絶句を誘う。
だが、背後からの声が微妙な空気を切り裂いた。
「お二人とも何をされているのかしら?」
「「委員長」」
「何でもないよ。ね、俊。委員長こそ私服なんて珍しくない?」
「祖母を見舞いに柏木病院へ行くところよ」
「あれ、そこ穂乃香ちゃんの病院じゃん。折角なら一緒に行きなよ。僕は後から行くから」
「……えっ、でもご迷惑では」
目を泳がせ、なぜか抑え気味に狼狽える委員長の傍ら、白賀の様子を注視してしまう。
彼は、ヒントに関する何かを握っている――そう確信した。
*
結局、流れに流され委員長と病院に向かうことになった。
委員長は普段より少しお淑やかで、恋しているように――いや、これも錯覚だろう。
「なぁ委員長。変なこと聞くけどさ、俺のこと好きな……」
「そう言えば、妹さんとは双子の兄妹だとお聞きしましたが」
敢えて直で発してみた結果、あからさまにはぐらかされた。
それどころか、話題を戻させまいとするかの如く、妹の話を続けてくる。
それは、先ほどの白賀と重なる挙動だった。
もしかしすると、委員長も何か隠しているのかもしれない。
だが、短時間で聞き出せるはずもなく、病院に着いてしまった。
秘密を自然と暴露させるのは、なんて難しいのだろう。
*
「明日の手術、大丈夫かなぁ……」
穂乃香の呟きに、肩が跳ねる。運命を変えるチャンスを、もぎ取れない自分がもどかしい。
だからか、初めて心の声を発してしまった。
「もし駄目でも、一人では死なせないさ」
「それ、どういうこと?」
「え、いや、何でもない」
「後追いとかやめてよ!? お兄ちゃんが死ぬとか自分が死ぬより嫌だから……!」
穂乃香は涙目だった。滲み出す本音に心が揺さぶられる。
そうだ、俺は穂乃香の為に勝たなきゃならないんだ。
「なぁ穂乃香、俺に恋してる奴なんて知らないよな?」
「えっ、急にどうしたの?」
「いや、詳細は話せないけど大事なことなんだ」
真剣な眼差しを注ぎ、告げる。違和感として認識されないよう、願いながら。
穂乃香は、頬を赤らめ目を逸らした。だが、熱意が伝わったのか、瞳を合わせようと努めだす。
「…………お兄ちゃんを好きなのは……」
あと一歩。そんな場面で携帯が鳴った。バイト先からだ。こんな時に限ってマナーモードを忘れたらしい。
後目で見た時計の針は、出勤時間をとうに越えていた。
穂乃香との話が長引くかもしれない。
シュミレーションし、即座に欠勤理由を拵える。電話片手に部屋を出て、手際よく遣り取りを済ませた。
確信したら、すぐにゲームを終わらせよう。そうすれば運命は――。
突然、背中に衝撃が轟いた。一瞬何が起こったか分からなかった。だが、すぐに刺されたと認識した。
傷が熱くなり、急激に力が抜けて行く。携帯も手からすり抜けた。意識の遠退きに、どうしても抗えない。
そんな中、声が聞こえた。よく知った声だった。
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