VS神さま

有箱

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「はいはーい、また死んだね! お疲れ様!」
 
 これを聞くのも三度目だ。今回は病院の窓から突き落とされて来た。お陰で至る所が湿っている。多分、血で。

 落下の瞬間が過ぎり身震いした。やはり何度目でも死は怖い。

 因みに一度目は学校で、背後から撲殺されている。で、二回目は道路に突き飛ばされた。両方、犯人は見えなかったけど。

「今回も進展ないじゃん。探ってる様子もないし」
「探ろうにも方法が分かんねぇんだよ。違和感抱かれたら終わりなんだろ。よく考えたらめちゃくちゃ不利なゲームだな」
「もしかして、特別ヒント欲しがってる?」
「……可能なら貰えると助かるよ」

 神さまは最初から勝たせる気などないのではないか。そう疑心を抱くほど、駒が進まない。
 それでも負けるわけには行かないのだが。
 とは思っているものの、正直切羽詰まっている。
 
「ずっと、分かりやすいヒントを出してた積もりなんだけどね」
「どこに?」
「君が死ぬときのことを思い出してみて。さてさて、後ろの正面だあれ。これだけ言ったら分かるよね? で、あと一回あるけど続ける? ギブ?」
「…………もちろん続ける」
「言ってくれると思ってたよ。じゃあ、最後のヒントも行こうか」



 三度目の四月六日がやってきた。前回より少し寝坊した。
 日付は巻き戻っても、出来事は変わる。だから、その日に何が起こるかは俺にも一切分からなかった。

 布団に入ったまま体を捻り、黒い空間での会話を反芻する。

 正直、不味いことが起こっている。

 庭からシュカの鳴き声が聞こえ、思考が止まった。ここは仮にも施設だ。だから迷惑にならないよう止めなければならない。
 素早くベッドから飛び起き、庭に出た。

「シュカどうした? って、あれ。白賀と委員長?」

 シュカが吠えていた先には、白賀と委員長がいた。委員長が白賀に隠れる形で立っている。
 どうやら、シュカは委員長に吠えていたらしい。

「寝坊するといけないから起こしに来たんだ。シュカに会いに来たのもあるけど。そしたら途中で委員長に会ったんだけど、委員長も俊……」
「言わなくても良いことですのよ。おはようございます、水城くん」
「おはよう委員長、白賀。二人とも早いな」
「いつも通りだよ。そっちは準備まだって感じだね。案の定だ。シュカ撫でて待っていようかな。ほら、委員長も」
「悪いな、すぐ準備する!」
 
 シュカを撫でる二人を後目に、再び空間での会話を巡らす。ヒントと二人を照らし合わせ、眉間に皺を寄せた。

 生じた不測の事態――それこそが、候補者が零になるとの展開だった。

 与えられたヒントは"君に恋をしている存在"だ。しかし、正直誰に恋されているか分からなかった。
 少なくとも、候補者三人の中にはいないと見た。また振り出しに逆戻りだ。
 
 とは言え、今回はそれで手掛かりが潰えた訳ではない。
 神さまはもう一つ、重要な話をしていた。

 後ろの正面――俺を何度も殺した奴こそが答えだ。



「きゃっ! お兄ちゃん、入ってくるならノックしてよ! 着替えてるんだから!」
「ごめん、考え事してた。てか、そんな恥ずかしがることじゃないだろ」
「お兄ちゃん分かってない! お兄ちゃんも見られたら恥ずかしいでしょ!」
 
 まず、一番可能性の低い所から。そう考え来た矢先、妙な反応を示され胸の内が蟠ってゆく。恋のワードが過ったのだ。

 しかし、ヒントとして提示されたせいで疑わしく映るだけかもしれない。軽率な判断は仇となりうるのだ。

 撹乱の為、神さまが悪戯している可能性だってあるだろう。だって仮にも神さまだし。
 だからまずは、一歩ずつ潰していくしか。
 
 背を向けながら熟考していると、不意に肩に手が置かれた。
 
「何考えてるの? 着替え終わったって言ってるの聞こえてた?」
「あ、いや。あのさ、穂乃香って病院の外出たりする?」
「えっ……!?」
「え?」

 予想外の反応に驚きが隠せない。当然、首肯され候補から除けると思っていたのに。
 
「せ、先生には言わないでね。実はたまーに抜け出してる。何で分かったの?」
「いや、深い意味は。……あんま無茶するなよ。体に障る」
「はーい」
 
 一度目の学校、二度目の通学路、そして三度目の院内――全箇所への出現が可能だと証明してしまうなんて。

 ただ、それを言い出すと他二人も同じゆえ、結局何も得られず仕舞いになってしまった。
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