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雨月の人
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“ほむさんの作品はウェブ上で偶然見つけたんですが、感想送りたくてすぐアカウント作っちゃいました”
SORは作品もアイコンもない、殺風景なマイページを持っていた。
情報一つない相手に、最初はどう接すべきか迷ったものだ。丁寧な感想のお陰で、恐れはなかったが。
元々の苦手意識もあり、最初は言葉選びに奔走した。しかし、今では親しい友人のごとく会話できている。
“小説書かれるようになったきっかけってあるんですか?”
問いに誘導され本棚を見る。一冊だけ黄ばんだ文庫本が、瞳のレンズに収まった。
窓をさす日射 佐藤タデ
愛しささえ感じる字の並びを、指先で紡いでいく。魅力について語れたなら、どれほど楽しいだろうか――いつかに見た空想が、色濃く蘇った。
“素敵な始まり方ですね”
すぐ、くすんだけれど。
名称に反応がないことから、小説を知らないと容易に推測できる。知っていて当然なんて、少しはしゃぎすぎた。
佐藤タデは、結局この一冊を残し消えてしまった。一読者が恋しがろうと、数字の世界では仕方ないのだろう。出版が奇跡なんてコメントまで思い出し、胸が痛くなった。
僕が同じ境遇でも、きっと折れている。だから作家は目指さないし、このまま書き続けていられればいい。
いや、きっと十年後も、僕は書き続けている。
SORは作品もアイコンもない、殺風景なマイページを持っていた。
情報一つない相手に、最初はどう接すべきか迷ったものだ。丁寧な感想のお陰で、恐れはなかったが。
元々の苦手意識もあり、最初は言葉選びに奔走した。しかし、今では親しい友人のごとく会話できている。
“小説書かれるようになったきっかけってあるんですか?”
問いに誘導され本棚を見る。一冊だけ黄ばんだ文庫本が、瞳のレンズに収まった。
窓をさす日射 佐藤タデ
愛しささえ感じる字の並びを、指先で紡いでいく。魅力について語れたなら、どれほど楽しいだろうか――いつかに見た空想が、色濃く蘇った。
“素敵な始まり方ですね”
すぐ、くすんだけれど。
名称に反応がないことから、小説を知らないと容易に推測できる。知っていて当然なんて、少しはしゃぎすぎた。
佐藤タデは、結局この一冊を残し消えてしまった。一読者が恋しがろうと、数字の世界では仕方ないのだろう。出版が奇跡なんてコメントまで思い出し、胸が痛くなった。
僕が同じ境遇でも、きっと折れている。だから作家は目指さないし、このまま書き続けていられればいい。
いや、きっと十年後も、僕は書き続けている。
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