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11月26日
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[11月26日、土曜日]
「お早う月裏さん」
扉を開いてからのお決まりの第一声、その変化に月裏は直ぐに気付いた。
「あれっ、譲葉くん鼻声?」
「……そうか?」
本人は焦らしているのか気付いていなかったのか、平気そうな顔をしている。
「……やっぱ不味かったかなぁ……?」
「いや、冬なんだ、風邪くらい引く」
当然だと言わんばかりに直線的な音で言い放った譲葉は、むずむずとくしゃみしそうな顔をする。
「あ、そうだよね。……今日も一日暖かくしてなよ」
「分かった」
耐え切れずくしゃみを漏らした譲葉を、月裏は平常な心持ちで見られなかった。
階段を降りると、下半身を積もった雪と一体化させて、立っている2つの小さな雪だるまが目に付く。
周辺に生えていた木だけで、目や鼻や口、手等のパーツを作った為、色合いが極端に少ない雪だるまだ。
日差しが当たり辛い箇所なのか、雪だるまの大きさは昨日作った時と変わりなかった。
溶けてしまわないでいて欲しいな。
月裏は、絶対に叶いはしない願いを馳せながらも、急な寒気に襲われて颯爽とその場を去った。
何だか、胸がざわざわとしている。理由も分からない不安感が体を巡っている。
まただ。自分でさえ分からない不安に押されてしまいそうになる感覚。
苦しくなって、死にたいと思ってしまう気持ち。
自分は病気だ。診察を避けてきて、正式名称を診断された事は無いが間違いないと思う。
いつか、この得体の知れない心の動きも、無くなるようになるのだろうか。
月裏は、譲葉との約束の言葉を思い出し、必死に思いから死を遠ざけようと努めた。
「ただいまー」
譲葉は寝室にいた。画材を構えた状態で、カーテンの開かれた外の景色を見ている。
「おかえり月裏さん、お疲れ様」
「今日は景色描いてたの?」
「あぁ、描いてみようと思って」
月裏も、譲葉の見ていた世界に視線を移す。すると直ぐに欠けた月が目に付いた。とても明るい色をしている。
「確かに月が綺麗だね」
「でも景色は変わるから難しい」
「なるほど」
譲葉は描き上げたい気持ちが働いているのか、スケッチブックを閉じずに続きを描写し始めた。夜空を見詰める瞳は真剣そのものだ。
しかし、覗き込めばまた隠してしまいそうだった為、敢えて見ない選択を取った。
「……着替えてくるね」
「あぁ」
彼は幸せなのだろうか。ふと考えてしまった。
いや、幸か不幸かで言ったら、不幸せに傾いているに決まっている。
そもそも、状況下からして不幸なのだ。簡単に幸せだなんて思える筈が無い。
変化を齎そうと色々と手は講じてきたが、大きな変化が見えないのが現状だ。
この先変化すると、安易には認められない。
月裏は膨らんできた得体の知れない不安感から、逃げるようにして冷えた部屋で着替えを済ませた。
「お早う月裏さん」
扉を開いてからのお決まりの第一声、その変化に月裏は直ぐに気付いた。
「あれっ、譲葉くん鼻声?」
「……そうか?」
本人は焦らしているのか気付いていなかったのか、平気そうな顔をしている。
「……やっぱ不味かったかなぁ……?」
「いや、冬なんだ、風邪くらい引く」
当然だと言わんばかりに直線的な音で言い放った譲葉は、むずむずとくしゃみしそうな顔をする。
「あ、そうだよね。……今日も一日暖かくしてなよ」
「分かった」
耐え切れずくしゃみを漏らした譲葉を、月裏は平常な心持ちで見られなかった。
階段を降りると、下半身を積もった雪と一体化させて、立っている2つの小さな雪だるまが目に付く。
周辺に生えていた木だけで、目や鼻や口、手等のパーツを作った為、色合いが極端に少ない雪だるまだ。
日差しが当たり辛い箇所なのか、雪だるまの大きさは昨日作った時と変わりなかった。
溶けてしまわないでいて欲しいな。
月裏は、絶対に叶いはしない願いを馳せながらも、急な寒気に襲われて颯爽とその場を去った。
何だか、胸がざわざわとしている。理由も分からない不安感が体を巡っている。
まただ。自分でさえ分からない不安に押されてしまいそうになる感覚。
苦しくなって、死にたいと思ってしまう気持ち。
自分は病気だ。診察を避けてきて、正式名称を診断された事は無いが間違いないと思う。
いつか、この得体の知れない心の動きも、無くなるようになるのだろうか。
月裏は、譲葉との約束の言葉を思い出し、必死に思いから死を遠ざけようと努めた。
「ただいまー」
譲葉は寝室にいた。画材を構えた状態で、カーテンの開かれた外の景色を見ている。
「おかえり月裏さん、お疲れ様」
「今日は景色描いてたの?」
「あぁ、描いてみようと思って」
月裏も、譲葉の見ていた世界に視線を移す。すると直ぐに欠けた月が目に付いた。とても明るい色をしている。
「確かに月が綺麗だね」
「でも景色は変わるから難しい」
「なるほど」
譲葉は描き上げたい気持ちが働いているのか、スケッチブックを閉じずに続きを描写し始めた。夜空を見詰める瞳は真剣そのものだ。
しかし、覗き込めばまた隠してしまいそうだった為、敢えて見ない選択を取った。
「……着替えてくるね」
「あぁ」
彼は幸せなのだろうか。ふと考えてしまった。
いや、幸か不幸かで言ったら、不幸せに傾いているに決まっている。
そもそも、状況下からして不幸なのだ。簡単に幸せだなんて思える筈が無い。
変化を齎そうと色々と手は講じてきたが、大きな変化が見えないのが現状だ。
この先変化すると、安易には認められない。
月裏は膨らんできた得体の知れない不安感から、逃げるようにして冷えた部屋で着替えを済ませた。
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