造花の開く頃に

有箱

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11月1日

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[11月1日、火曜日]
 ――カレンダーは、飾られているだけで何も記入されず、そのまま破られてしまう。
 月裏は、ゴミになった10月分のカレンダーに思いを馳せながらも、容赦なくぐちゃぐちゃに丸めてゴミ箱に捨てた。

 譲葉と共に暮らし始めて、丸一ヶ月と半月程経過するが、まだまだ至らない点が多すぎて情けなくなる。
 それどころか不安要素が多すぎて、問題ばかりが募っている気もする。
 11月のカレンダーに敷き詰められた空白の30日間に、月裏は見えない不安を重ねた。

 どうか、何も無く終われますように。
 叶わないと分かりきった願いをそっと、これから続いてゆく日々の中に込めた。

 早朝の気温はとても低く、コートを着ていても寒気がする。低くなった気温に風の冷たさが加わり、つい両手で体を摩ってしまう。

「…………今日も頑張ろう……」

 誰もいない道の上で、囁くほどの決意が零れた。

 一日が終わる頃には、これ以上無いと思えるくらい体が疲弊しきっている。
 とは言え、朝になれば抜ける訳ではない。蓄積された疲労はいつもどこに行っているのだろう。とよく疑問になるものだ。

 月裏はアパートに差し掛かると、いつもの様にポストを確認した。
 すると、一通の手紙が入っていた。
 祖母からだろうと推測し手に取ったが、目に映ったファンシーな熊のイラストがそうではないと知らせた。

 相手に検討も付かずゆっくりと裏返すと、そこには懐かしい名前があった。
 緊張で、心臓が高鳴る。
 月裏は一瞬で名の人物との日々を回顧し、冷や汗を伝わせた。

「ただいま」
「おかえり、お疲れ様」

 扉を潜ると、譲葉は今日も本を手に持っていた。つい一昨日、届いたばかりの小説だ。

「今日も、遅くまで起きててくれてありがとう」
「……いや、長い事お疲れ様」

 譲葉は本を脇に挟むと、壁を伝い奥の部屋へと向かっていった。
 月裏は、譲葉が訝しがらずに、いつもの行動に出てくれた事に安堵していた。
 鞄の中に仕舞いこんだ、手紙に意識を向ける。
 だが、取り出さないまま靴を脱ぎ、奥の着替える為の部屋へと入った。

 鞄に入れた手紙を取り出す。封筒の隅にポイント程度に印刷されている、熊のイラストを見てもう一度裏を向ける。
 そこには¨梅谷 彩音¨の名があった。

 久しぶりの笑顔を思い出して心が痛くなり、開封せず棚の上に置く。
 見ないフリをして普段通り服を脱ぐと、冷気が体に当たり寒気がした。
 月裏は、露になった傷跡を覆い隠し、温度を保った。
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