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10月25日
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[10月25日、火曜日]
譲葉の選んだメニューが、レンジの中で回っている。
月裏は、譲葉が暇そうに席から中を見ている、このタイミングを利用し問いかける。
「……ねぇ譲葉君、どれが良い?」
昨日電車の中で思いついた最終手段とは、譲葉に選択を委ねるとのものだった。遠慮を見越し行動に移すか迷ったが、やはり本人に聞くのが一番確実だろう。
譲葉は、差し出された携帯の画面を覗き込む。
「下もあるから見てみて」
「…分かった」
想像は外れ、譲葉は拒否する事無く携帯を両手で受け取ると、画面をスライドし始めた。
因みに、サイトで検索をかける手順までは操作済みだ。
譲葉は、夢中になり携帯を見詰めている。その瞳は、真剣そのものだった。
解凍を知らせる音が鳴った。視線を上げた譲葉の代わりに、月裏が立ち上がる。
レンジから取り出し、ラップに包んだ料理を皿の上に広げた。
「……ありそう?」
譲葉の横に来て、一緒になり画面を覗き込む。譲葉はとある小説の、詳しい解説のページを見ていた。
「……これ?」
譲葉は申し訳なく思っているのか、画面を見詰めたままで浅く頷く。
月裏は一歩前進出来た気になって、無意識に微笑を浮かべていた。小さな不安が解けて行く。
「そっか良かった、じゃあ頼んでおくね」
「……すまない」
譲葉の手から、携帯が渡る。
「ううん、また読んだら新しいの買うから言ってね」
月裏は席に戻り、途中になっていた食事を再開した。
打開は、意外にも難しくないかもしれない。なんて、急に前向きな気持ちが通り過ぎる。
訪れた現実に、希望は直ぐ砕けたが。
深夜、また夢を見た。昔の夢だ。母親と父親が居て幼い自分が居た頃の、景色が目の前に広がっている。
その頃は、現住所とはかけ離れた県に住んでいて、周りを取り囲む風景も、真反対とまでは行かないが全く違う場所だった。近くに海があり、電車も一時間に1本有るか無いかの田舎だった。
楽しかった思い出が、走馬灯のように巡ってゆく。何の悲劇を重ねる事も無く、ただ鮮明に流れてゆく。
もう一生戻れない、幸せな時間が過ぎ去ってゆく。
月裏は泣いていた。見ていた極彩色はすっかり消え失せ、手前にあるのは仄暗い現実世界だ。薄暗さで、全体を捉える事さえままならない世界。
ずっと続くと思っていた未来は、突然色を変え暗闇へと落ちてしまった。
月裏は心を刺す痛みを和らげようと、そっと胸に手を当てる。同調するように、鼓動も音を立てていた。
譲葉の選んだメニューが、レンジの中で回っている。
月裏は、譲葉が暇そうに席から中を見ている、このタイミングを利用し問いかける。
「……ねぇ譲葉君、どれが良い?」
昨日電車の中で思いついた最終手段とは、譲葉に選択を委ねるとのものだった。遠慮を見越し行動に移すか迷ったが、やはり本人に聞くのが一番確実だろう。
譲葉は、差し出された携帯の画面を覗き込む。
「下もあるから見てみて」
「…分かった」
想像は外れ、譲葉は拒否する事無く携帯を両手で受け取ると、画面をスライドし始めた。
因みに、サイトで検索をかける手順までは操作済みだ。
譲葉は、夢中になり携帯を見詰めている。その瞳は、真剣そのものだった。
解凍を知らせる音が鳴った。視線を上げた譲葉の代わりに、月裏が立ち上がる。
レンジから取り出し、ラップに包んだ料理を皿の上に広げた。
「……ありそう?」
譲葉の横に来て、一緒になり画面を覗き込む。譲葉はとある小説の、詳しい解説のページを見ていた。
「……これ?」
譲葉は申し訳なく思っているのか、画面を見詰めたままで浅く頷く。
月裏は一歩前進出来た気になって、無意識に微笑を浮かべていた。小さな不安が解けて行く。
「そっか良かった、じゃあ頼んでおくね」
「……すまない」
譲葉の手から、携帯が渡る。
「ううん、また読んだら新しいの買うから言ってね」
月裏は席に戻り、途中になっていた食事を再開した。
打開は、意外にも難しくないかもしれない。なんて、急に前向きな気持ちが通り過ぎる。
訪れた現実に、希望は直ぐ砕けたが。
深夜、また夢を見た。昔の夢だ。母親と父親が居て幼い自分が居た頃の、景色が目の前に広がっている。
その頃は、現住所とはかけ離れた県に住んでいて、周りを取り囲む風景も、真反対とまでは行かないが全く違う場所だった。近くに海があり、電車も一時間に1本有るか無いかの田舎だった。
楽しかった思い出が、走馬灯のように巡ってゆく。何の悲劇を重ねる事も無く、ただ鮮明に流れてゆく。
もう一生戻れない、幸せな時間が過ぎ去ってゆく。
月裏は泣いていた。見ていた極彩色はすっかり消え失せ、手前にあるのは仄暗い現実世界だ。薄暗さで、全体を捉える事さえままならない世界。
ずっと続くと思っていた未来は、突然色を変え暗闇へと落ちてしまった。
月裏は心を刺す痛みを和らげようと、そっと胸に手を当てる。同調するように、鼓動も音を立てていた。
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