造花の開く頃に

有箱

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10月14日

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[10月14日、金曜日]
 長かった地獄も、残す所あと2日になった。しかしその二日が長いのだ。それに、明ければまた、規則正しく日々は繰り返される。
 月裏は電車に揺られながら、考えていた。

 車両の中は空っぽで、人の姿はあまり見えない。昼間はこの電車も乗客を満員にして走っているらしいが、想像できない位すっからかんな車内しか見た事がない。

 ――――世界は狭い。
 そんな在り来りな結論を見出した所で、駅に電車が停車した。

 譲葉との時間に、変化は無い。月裏は前以上に笑顔を意識し、様子を窺ってはいるのだが、譲葉は変化を見せない。
 元々、やってきた頃から表情が乏しく覚悟はしていたが、一度変化を見てしまうとどこか寂しくなる。

 どう頑張れば譲葉は報われ、心を許そうと考えてくれるのだろう。
 月裏は短い休憩時間を駆使し、必死に考えた。

 しかし帰宅しても、あるのは平凡すぎる光景だ。簡単に想像できて、しかも違わない光景。

「…譲葉君、欲しい物とか有ったら言ってね?」

 月裏は休憩中に導いた、一つ目の答えを早速口にしてみた。
 まず身辺が満たされないと、生活に充実感は抱けないとの答えに至ったのだ。
 かといい、譲葉の欲する物がよく分からず、直接尋ねるしか方法が思いつかなかった。

 譲葉はと言うと、少し困っているように見える。
 本当に欲が無く、欲しい物が思いつかず困っているのか、遠慮しているだけなのか、掴めない状態では補足の言葉は思いつかない。
 しかし若者が、何も欲していないなどとは考えにくいだろう。

「……分かった」
「今日も遅くまで起きててくれてありがとう、おやすみ」

 月裏は敢えて、質問を与えたままで話を区切った。

「おやすみ、月裏さん」

 譲葉は何時も通りの背中で、変わらない速度で、遠ざかっていった。
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