16 / 122
10月4日
しおりを挟む
[10月4日、火曜日]
翌朝、自然と目覚めると、目の前に譲葉が居た。
2日前、似たような場景を見てはいたが、その時と状況が違ったということもあり、驚いて目を丸くしてしまう。
「おはよう」
「…お、おはよう、どうしたの?」
譲葉はじっと月裏の驚いた顔を凝視するだけで、何一つ悟らせてはくれない。
「何もだ」
「……そう、今日早いね」
不思議になりながらも、寝覚めてしまったのだろうと軽く流して、通常通り体を起こした。
譲葉は引き続き、ただじっとこちらを見詰めている。
「…本当に何もない?」
再度尋ねると譲葉は目を逸らし、ソファの肘掛けを軸に立ち上がった。月裏に背を向けて、数歩歩く。
「…無い、キッチンに行ってる」
「わ、分かった。シャワー浴びたら行くね」
月裏は、不可解な言動に首を傾げつつも、何か思う事があるのだろうと無駄な詮索はなしにした。
勿論気にはなるが、考えないようにした。
食事中も、変わった様子は無かった。
いつも通り料理へと視線を落としながら、黙って行儀よく食事を進めてゆくだけだった。
思考の読めなさに、月裏も観念せざるを得なかった。
体が重い。いつもの事ながら、慣れない。ずっとずっと限界を感じているはずなのに、昨日よりもその前よりも、重くなっている気がしてしまう。
それが随分前から続いていた為、きっとこの先も耐え切ってしまうのだろう、とは思う。
いっそ倒れたい、と何度思っただろう。
帰宅し扉の前に立つと、今日も玄関から漏れ出す灯りがあった。
譲葉が絵の続きを描いているのだろう、と予想しながら扉を開くと、イメージ通りの場所で、体勢で、譲葉はこちらを見ていた。
「ただいま」
「おかえり」
「進んでる?」
「少しずつは」
「完成した?」
「まだだ」
譲葉は、言いながらも途中経過を披露する気は無いのか、スケッチブックを折り畳んでしまった。
そして、道具を一色手に抱えて立ち上がると、奥の寝室に向かっていってしまった。
月裏も疲れを癒したい一心で、思考停止したまま譲葉の背中を追った。
部屋に入ると、譲葉は定位置に座っていた。
枕脇が物置場所になっているのか、スケッチブックや絵の具などが、大きな形の物を下にして縦積みになり、規則正しく置かれている。
そう言えば、物を自由に置いて良い場所を教えるのも忘れていた。
「明日この部屋に、使ってない箪笥持ってくるよ」
譲葉は、箪笥を移動させる意味自体分からないのか、きょとんと月裏を見ている。
「…それ、邪魔でしょ?」
指差した先に視線が移動して、譲葉は漸く理解したようだった。
様子から察するに、譲葉には不便だと感じなかったのかもしれない。
「……すまない…」
「ううん、全然気が付かなくてごめんね。ひとまず今日は寝るよ、おやすみ」
謝罪しながら、月裏は過剰な罪悪感に捕らわれた。
譲葉に快適に過ごしてほしいと願いながら、まだ最低限の部分さえも満たしてあげられていない。しかもまだまだ、足りていない部分はありそうだ。
「おやすみ」
言ってくれれば良いのになぁ、なんて苛立ちが湧いた事に自分自身気付き、月裏は更に憂鬱感を降らせた。
深夜月裏は、また目を覚ましていた。様々な記憶が交じり合った悪夢に苛まれて、息が苦しくなり目を覚ましてしまったのだ。
背を向け眠る譲葉を意識し、手の平で口を塞ぎ、極力呼吸音を抑える。
ついには涙まで溢れ出してきたが、また譲葉に見られてしまわないようにと、嗚咽ごと音を飲み込んだ。
だが押さえきれずに、そっとベッドから抜け、月裏はまたキッチンの戸棚を引いていた。
翌朝、自然と目覚めると、目の前に譲葉が居た。
2日前、似たような場景を見てはいたが、その時と状況が違ったということもあり、驚いて目を丸くしてしまう。
「おはよう」
「…お、おはよう、どうしたの?」
譲葉はじっと月裏の驚いた顔を凝視するだけで、何一つ悟らせてはくれない。
「何もだ」
「……そう、今日早いね」
不思議になりながらも、寝覚めてしまったのだろうと軽く流して、通常通り体を起こした。
譲葉は引き続き、ただじっとこちらを見詰めている。
「…本当に何もない?」
再度尋ねると譲葉は目を逸らし、ソファの肘掛けを軸に立ち上がった。月裏に背を向けて、数歩歩く。
「…無い、キッチンに行ってる」
「わ、分かった。シャワー浴びたら行くね」
月裏は、不可解な言動に首を傾げつつも、何か思う事があるのだろうと無駄な詮索はなしにした。
勿論気にはなるが、考えないようにした。
食事中も、変わった様子は無かった。
いつも通り料理へと視線を落としながら、黙って行儀よく食事を進めてゆくだけだった。
思考の読めなさに、月裏も観念せざるを得なかった。
体が重い。いつもの事ながら、慣れない。ずっとずっと限界を感じているはずなのに、昨日よりもその前よりも、重くなっている気がしてしまう。
それが随分前から続いていた為、きっとこの先も耐え切ってしまうのだろう、とは思う。
いっそ倒れたい、と何度思っただろう。
帰宅し扉の前に立つと、今日も玄関から漏れ出す灯りがあった。
譲葉が絵の続きを描いているのだろう、と予想しながら扉を開くと、イメージ通りの場所で、体勢で、譲葉はこちらを見ていた。
「ただいま」
「おかえり」
「進んでる?」
「少しずつは」
「完成した?」
「まだだ」
譲葉は、言いながらも途中経過を披露する気は無いのか、スケッチブックを折り畳んでしまった。
そして、道具を一色手に抱えて立ち上がると、奥の寝室に向かっていってしまった。
月裏も疲れを癒したい一心で、思考停止したまま譲葉の背中を追った。
部屋に入ると、譲葉は定位置に座っていた。
枕脇が物置場所になっているのか、スケッチブックや絵の具などが、大きな形の物を下にして縦積みになり、規則正しく置かれている。
そう言えば、物を自由に置いて良い場所を教えるのも忘れていた。
「明日この部屋に、使ってない箪笥持ってくるよ」
譲葉は、箪笥を移動させる意味自体分からないのか、きょとんと月裏を見ている。
「…それ、邪魔でしょ?」
指差した先に視線が移動して、譲葉は漸く理解したようだった。
様子から察するに、譲葉には不便だと感じなかったのかもしれない。
「……すまない…」
「ううん、全然気が付かなくてごめんね。ひとまず今日は寝るよ、おやすみ」
謝罪しながら、月裏は過剰な罪悪感に捕らわれた。
譲葉に快適に過ごしてほしいと願いながら、まだ最低限の部分さえも満たしてあげられていない。しかもまだまだ、足りていない部分はありそうだ。
「おやすみ」
言ってくれれば良いのになぁ、なんて苛立ちが湧いた事に自分自身気付き、月裏は更に憂鬱感を降らせた。
深夜月裏は、また目を覚ましていた。様々な記憶が交じり合った悪夢に苛まれて、息が苦しくなり目を覚ましてしまったのだ。
背を向け眠る譲葉を意識し、手の平で口を塞ぎ、極力呼吸音を抑える。
ついには涙まで溢れ出してきたが、また譲葉に見られてしまわないようにと、嗚咽ごと音を飲み込んだ。
だが押さえきれずに、そっとベッドから抜け、月裏はまたキッチンの戸棚を引いていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる