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9月29日
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[9月29日、木曜日]
翌朝月裏は、通常よりも更に早く起床していた。本日に限り目的があった為、わざわざアラームセットまでして起床したのだ。
外出前、譲葉の背を見たが動く気配を感じなかった為、〔早めに出てゆく〕との要点だけを記したメモだけ残しておいた。
目的地は、一日中開店しているスーパーだ。まだ5時にもなっていないこの時間帯、エプロンを身に着けた従業員しか目に映らない。
数少ない従業員は、朝から眠そうに、だが忙しそうにせっせと働いている。
月裏は心の中で『お疲れ様』と呟きながら、玩具コーナーへと立ち寄っていた。
目的とは、譲葉の暇潰しを探す事である。
玩具売り場として納められた枠内を一通り見回してみるが、対象年齢が低めに設定されているのか、譲葉の喜びそうな物が見つからない。
折り紙もボールも、使っているイメージが全く湧かない。
月裏は困った末に、何も買わずにスーパーを出た。
仕事中は必死で、考える隙等ある筈もなく、長く耐え難い時間は、精神ストレスだけを齎し終わりを告げた。
譲葉の居る部屋の扉の前、取っ手を回そうとして話し声に気付いた。
微かに聞こえてくる声が相槌ばかりで、相手先が一方的に話しているのが分かる。
多分、電話の先は…
「じゃあ、ばあちゃんも元気で」
そう、祖母だ。譲葉を心配して、かけてきたのだろう。
声が聞こえなくなり、通信が切れたと判断して、取っ手を回す。
「ただいま」
「おかえり」
「電話、おばあちゃん?」
「そうだ」
¨帰りたい?¨との質問が浮かび、消えた。正しくは、咄嗟に消した。
慣れた家に、帰りたくない筈が無い、譲葉は行く宛がなく、仕方なくここに居る身なのだ。
変わりに、問題を解決する為の一手を差し出す。
「…いつも家で何してたの?」
「………本読んだり、絵描いてた」
控え目に落とされた回答のお陰で、問題解決の糸口はあっさりと見えた。
本と紙、それと文房具を明日こそ買おう、と目的を据える。
「そっか、ありがとう」
「……おやすみ」
相変わらず読み辛い表情をしたまま、譲葉はシーツの中に体を埋めた。
「おやすみ」
月裏は、また一つ知り得た情報に、僅かに気持ちが跳ねるのが分かった。
深夜、はっとなり目を覚ます。
内容は覚えていないが額に汗が滲んでいて、不快感が胸を締め付けている感覚だけははっきりと分かる。
得体の知れない恐怖感が、体中を飽和する。
視線が突き刺さってくるような、誰かに狙われているような、よく分からない窮屈さと、収まらない恐怖感に怯える。
気付けば、また涙が溢れ出していた。意味もなく溢れ続ける涙は、一層辛さを深める。
「大丈夫か?」
「……え?」
視線を上げると、寝返りを打ち心配そうに月裏を見詰めている、譲葉の瞳を捉えた。
「……あ、あぁ、大丈夫だよ、ごめん」
落ちる雫は止まらないのに、無理な笑顔を作り出す姿は、惨めで哀れに映るだろう。
譲葉は暫く無言で見ていたが、徐に起き上がると壁を使い、月裏の居るソファへと歩いてきた。
「…え?どうしたの」
読めない行動を、目線のみで追いかけながらたじろいでいる中、譲葉はソファの横に腰を下ろした。体操座りをして、膝に顔を埋める。
「…おやすみ」
「…えっ、えっ?お、おやすみ…?」
――――少しし、部屋が完全に無音になって、漸く行動の意味が分かった。
多分、寄り添っているつもりなのだ。不安げな顔をした自分の横にて共に眠る事で、安心させてくれようとしているのだ。
月裏は、言葉にされない優しさが胸に沁みて来て、違う色の涙を流した。
自分の分のシーツを譲葉にかけてから、もう一眠りする為、目を閉じた。
翌朝月裏は、通常よりも更に早く起床していた。本日に限り目的があった為、わざわざアラームセットまでして起床したのだ。
外出前、譲葉の背を見たが動く気配を感じなかった為、〔早めに出てゆく〕との要点だけを記したメモだけ残しておいた。
目的地は、一日中開店しているスーパーだ。まだ5時にもなっていないこの時間帯、エプロンを身に着けた従業員しか目に映らない。
数少ない従業員は、朝から眠そうに、だが忙しそうにせっせと働いている。
月裏は心の中で『お疲れ様』と呟きながら、玩具コーナーへと立ち寄っていた。
目的とは、譲葉の暇潰しを探す事である。
玩具売り場として納められた枠内を一通り見回してみるが、対象年齢が低めに設定されているのか、譲葉の喜びそうな物が見つからない。
折り紙もボールも、使っているイメージが全く湧かない。
月裏は困った末に、何も買わずにスーパーを出た。
仕事中は必死で、考える隙等ある筈もなく、長く耐え難い時間は、精神ストレスだけを齎し終わりを告げた。
譲葉の居る部屋の扉の前、取っ手を回そうとして話し声に気付いた。
微かに聞こえてくる声が相槌ばかりで、相手先が一方的に話しているのが分かる。
多分、電話の先は…
「じゃあ、ばあちゃんも元気で」
そう、祖母だ。譲葉を心配して、かけてきたのだろう。
声が聞こえなくなり、通信が切れたと判断して、取っ手を回す。
「ただいま」
「おかえり」
「電話、おばあちゃん?」
「そうだ」
¨帰りたい?¨との質問が浮かび、消えた。正しくは、咄嗟に消した。
慣れた家に、帰りたくない筈が無い、譲葉は行く宛がなく、仕方なくここに居る身なのだ。
変わりに、問題を解決する為の一手を差し出す。
「…いつも家で何してたの?」
「………本読んだり、絵描いてた」
控え目に落とされた回答のお陰で、問題解決の糸口はあっさりと見えた。
本と紙、それと文房具を明日こそ買おう、と目的を据える。
「そっか、ありがとう」
「……おやすみ」
相変わらず読み辛い表情をしたまま、譲葉はシーツの中に体を埋めた。
「おやすみ」
月裏は、また一つ知り得た情報に、僅かに気持ちが跳ねるのが分かった。
深夜、はっとなり目を覚ます。
内容は覚えていないが額に汗が滲んでいて、不快感が胸を締め付けている感覚だけははっきりと分かる。
得体の知れない恐怖感が、体中を飽和する。
視線が突き刺さってくるような、誰かに狙われているような、よく分からない窮屈さと、収まらない恐怖感に怯える。
気付けば、また涙が溢れ出していた。意味もなく溢れ続ける涙は、一層辛さを深める。
「大丈夫か?」
「……え?」
視線を上げると、寝返りを打ち心配そうに月裏を見詰めている、譲葉の瞳を捉えた。
「……あ、あぁ、大丈夫だよ、ごめん」
落ちる雫は止まらないのに、無理な笑顔を作り出す姿は、惨めで哀れに映るだろう。
譲葉は暫く無言で見ていたが、徐に起き上がると壁を使い、月裏の居るソファへと歩いてきた。
「…え?どうしたの」
読めない行動を、目線のみで追いかけながらたじろいでいる中、譲葉はソファの横に腰を下ろした。体操座りをして、膝に顔を埋める。
「…おやすみ」
「…えっ、えっ?お、おやすみ…?」
――――少しし、部屋が完全に無音になって、漸く行動の意味が分かった。
多分、寄り添っているつもりなのだ。不安げな顔をした自分の横にて共に眠る事で、安心させてくれようとしているのだ。
月裏は、言葉にされない優しさが胸に沁みて来て、違う色の涙を流した。
自分の分のシーツを譲葉にかけてから、もう一眠りする為、目を閉じた。
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