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9月19日
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[9月19日、月曜日]
目覚ましが鳴る前に、月裏は目を開いていた。譲葉を配慮し、そっとアラームをOFFにする。
重い体を起こし、一回だけ大きな欠伸をした。
譲葉を見遣ったが、体勢は昨晩のままで、相変わらず表情一つ見えない。
昨日は夕食後風呂に入った為、朝風呂は無しだ。冷凍庫から直感で食べたい物を選んで、電子レンジへと放り込む。
回る包みを見ながら、月裏はまた考えていた。仕事の前だからか、意味も無く気分が落ち込んでいる。
やはりこの先、上手く行く来がしない。けれど、だからと言って彼を一人ぼっちには出来ない。
逃げる道など、残されていないのだ。不安でも辛くても、どれだけ未来が見えなくても、成り行きに任せるしかないのだ。
心中は絶対選択してはならないと月裏も良く分かっていた為、真っ先に浮かびはしたが、敢えてその選択肢を含めなかった。
やはり、身を粉にして働いている間は、譲葉の事は脳裏に浮かばない。
いつも通り、突き刺さる言葉にどう対処するか、逃げるかばかり考えている。実際、解答は得られないが。
帰路に付く頃には毎度、絶望感に似た感情が胸を締め付けている。今日は月曜日だ。大差はないが、一番気持ちが強くなる。
これから丸5日間も、耐えなければならないのだ。それでいて今日からは、家でも休まる場所が無い。
しかし譲葉に、弱みも怒りも、ぶつけようとは微塵も思わなかった。
それどころか、可哀想な状況下にある譲葉が、一時でも早く笑えるように、なんて高望みまでしている。
月裏は人目が無い事を確認し、一人笑顔を作った。
「ただいま」
部屋の中、何も言わず一心に自分を見詰めてくる譲葉へと、小さな声で投げ掛ける。
一人暮らしをし始めてから、言う機会の無かった言葉の久しぶりの響きに、言いながら懐かしくなった。
「…おかえり」
「ご飯食べた?」
「食べた、ごちそうさま」
譲葉の手には、携帯が握られていた。恐らく、先程まで弄っていたのだろう。
「眠くない?寝てても良かったんだよ?」
「…大丈夫だ」
そう言いながらも、譲葉の目蓋はどこか重そうだ。もしかしたら、帰宅を待っていたのかもしれない。
「寝てても良いんだよ、あ、お風呂行く?」
「…明日で良い…」
「そうだ、着替え出すね」
月裏は無言のまま、何も言わない譲葉に背を向けて、颯爽と部屋を出た。
笑顔の維持に、疲れてしまう。しかし、それは普通の事だろう。
今まで、笑顔を作り出す必要すらなかったのだから。仕事場でも家でも、表情が無くとも生きていけたのだから。
月裏は零れそうな溜め息を飲み込んで、小さめの服を幾つか手に取った。
目覚ましが鳴る前に、月裏は目を開いていた。譲葉を配慮し、そっとアラームをOFFにする。
重い体を起こし、一回だけ大きな欠伸をした。
譲葉を見遣ったが、体勢は昨晩のままで、相変わらず表情一つ見えない。
昨日は夕食後風呂に入った為、朝風呂は無しだ。冷凍庫から直感で食べたい物を選んで、電子レンジへと放り込む。
回る包みを見ながら、月裏はまた考えていた。仕事の前だからか、意味も無く気分が落ち込んでいる。
やはりこの先、上手く行く来がしない。けれど、だからと言って彼を一人ぼっちには出来ない。
逃げる道など、残されていないのだ。不安でも辛くても、どれだけ未来が見えなくても、成り行きに任せるしかないのだ。
心中は絶対選択してはならないと月裏も良く分かっていた為、真っ先に浮かびはしたが、敢えてその選択肢を含めなかった。
やはり、身を粉にして働いている間は、譲葉の事は脳裏に浮かばない。
いつも通り、突き刺さる言葉にどう対処するか、逃げるかばかり考えている。実際、解答は得られないが。
帰路に付く頃には毎度、絶望感に似た感情が胸を締め付けている。今日は月曜日だ。大差はないが、一番気持ちが強くなる。
これから丸5日間も、耐えなければならないのだ。それでいて今日からは、家でも休まる場所が無い。
しかし譲葉に、弱みも怒りも、ぶつけようとは微塵も思わなかった。
それどころか、可哀想な状況下にある譲葉が、一時でも早く笑えるように、なんて高望みまでしている。
月裏は人目が無い事を確認し、一人笑顔を作った。
「ただいま」
部屋の中、何も言わず一心に自分を見詰めてくる譲葉へと、小さな声で投げ掛ける。
一人暮らしをし始めてから、言う機会の無かった言葉の久しぶりの響きに、言いながら懐かしくなった。
「…おかえり」
「ご飯食べた?」
「食べた、ごちそうさま」
譲葉の手には、携帯が握られていた。恐らく、先程まで弄っていたのだろう。
「眠くない?寝てても良かったんだよ?」
「…大丈夫だ」
そう言いながらも、譲葉の目蓋はどこか重そうだ。もしかしたら、帰宅を待っていたのかもしれない。
「寝てても良いんだよ、あ、お風呂行く?」
「…明日で良い…」
「そうだ、着替え出すね」
月裏は無言のまま、何も言わない譲葉に背を向けて、颯爽と部屋を出た。
笑顔の維持に、疲れてしまう。しかし、それは普通の事だろう。
今まで、笑顔を作り出す必要すらなかったのだから。仕事場でも家でも、表情が無くとも生きていけたのだから。
月裏は零れそうな溜め息を飲み込んで、小さめの服を幾つか手に取った。
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